音楽にまつわる職業『プロモーター(第3回)』 <前編>
2018.02.15
サカナクション
今回は、音楽にまつわる職業シリーズ "プロモーター" の授業です。
レコード会社の実際のプロモーターさんが、サカナLOCKS!に登場。一郎先生がラジオのディレクターとなって、プロモーターさんから所属レコード会社のおすすめ楽曲を紹介(プロモーション)してもらいます。そのプロモーション次第で、実際にラジオで楽曲がオンエアされる……というのがこの授業なのですが、山口一郎ディレクターは過去4回の授業で、いろいろなプロモーターの方々のプロモーション後、すべて楽曲をオンエアしてしまっています。最も甘いディレクターとして、すっかり名を馳せてしまっているようです。
山口「今回は……厳しいよ!かけないつもりでいきますから、よろしく!」
(音楽にまつわる職業『プロモーター(第1回)』→<前編> <後編>)
(音楽にまつわる職業『プロモーター(第2回)』→<前編> <後編>)
山口「あー……今日は若手のいいミュージシャンを探しているんですよねー。ラジオディレクターとして。あー……いいミュージシャンいないかな。十代の心と心の隙間にパテを埋めちゃうようなね。そういう若手のミュージシャンを探して……今、新しい番組作りをしようとしてるのよねー。そういう若手のミュージシャン、いないかなー。」
山崎「山口さん……今、お時間よろしいですかー?」
山口「あー、いいミュージシャンいないかなー。」
山崎「山口さーん!」
山口「あ、はいはい。」
山崎「今、お時間よろしいですか?」
山口「え、今、全然時間無いです。」
山崎「あの、本当にちょっとだけなんで。」
山口「まあ……ちょっとだけだったら。」
山崎「ありがとうございます!初めましてなんですけど、ソニーミュージックの山崎と申します。」
山口「あ、ソニー?山崎さん、よろしくお願いします。」
山崎「よろしくお願いします。」
山崎「本日ご紹介させていただきたいのが、魔法少女になり隊というバンドです。」
山口「魔法少女になり隊っていうバンド名?」
山崎「バンドです。」
山口「キラキラネームだね。」
山崎「キラキラネームなんですけど(笑)、ただのバンドではなくて……」
山口「ただのバンドじゃない?」
山崎「ただのバンドじゃないんです!RPG系バンドって言ってまして。ちょっとこちらの資料も見てお話を聞いていただきたいんですが……この女の子、火寺バジルちゃんが魔女の呪いをかけられておりまして。」
山口「えっと……火寺バジルちゃんっていうメンバー?」
山崎「そうです。火寺バジルちゃんが、魔女のおにぎりを食べてしまって、怒った魔女に呪いをかけられてしまって、しゃべれなくなってしまったんですよ。」
山口「フィクションでしょ?」
山崎「……しゃべれなくなってしまったんです(笑)。」
山口「OK、OK(笑)。」
山崎「で、その呪いを解くために、歌という魔法を使ってバンドでライブをして旅をしているというバンドです。」
山口「なるほど。これ、実在してるわけ?本人いるの?」
山崎「もちろん、います。で、ライブがすごくおもしろくて、gariくんっていうメンバーがVJもやっていて、RPGの世界観の映像を流してライブをやるんですよ。」
山口「整理すると、ゲームっていう世界観の中のキャラクターがメンバーってことね。」
山崎「そうです。」
山口「フィクションでしょ?」
山崎「あのー……ゲームの世界から出てきたんですよ。」
山口「(笑) 本人的にはライブでも世界観を完全に演ってるの?」
山崎「そうですね。バジルちゃんが魔法をかけられてしまったので、MCはできないので、フリップに言いたいことを書いて、他のメンバーのgariくんとかが読むっていう。」
山口「あー……。え?……え?ボーカル?」
山崎「ボーカルの子は、歌は歌えるんですけど、しゃべれないんです。」
山口「ちょっと待って、しゃべれないんだよね?そこの設定のディテールはどうなってるの?」
山崎「あの……設定じゃなくて……本当に、しゃべれないんです(笑)。」
山口「ふふふ(笑)。」
山崎「この間Shibuya O-EASTでライブをやりまして、モッシュとかで汗だくになって楽しむ人もいれば、アイドル好きのお客さんも結構ついていたりして、オタ芸とかをやっている人もいたり、見たことがないような、お客さんそれぞれの楽しみ方をしているっていう……観る価値があります。」
山口「いくつくらいなの?彼女らは。」
山崎「まあちょっと……ゲームの、あの、あれなので……」
山口「ははは!(笑) そういうことね。」
山崎「年齢はちょっと……知らないんですけど。」
山口「デビューしたのはいつなの?」
山崎「デビューしたのは2016年です。」
山口「ソニーのレーベルのどこ?」
山崎「ソニー・ミュージックレコーズです。」
山口「ほー。」
山崎「音楽的には、ユーロビートにヘビーなギターを乗せたら面白いんじゃないかなっていうことで始まっています。」
山口「そういうの好き!」
山崎「本当ですか!」
山口「ユーロビートに全く違うものを取り入れていく……そもそもあるジャンルを違うものと組み合わせてラインをせめぎ合うのって、僕はロックのルーツだと思うんです。」
山崎「分かります。そうなんですよ。」
山口「NUMBER GIRLとかもそうでしょう?エモロックの……」
山崎「あー……。」
山口「(アルバムを開封しながら)ちょっと、勝手に開けちゃってるけど(笑)、完全にゲームのケースみたいになっているね。」
山崎「そうなんです。パッケージもゲームのようになっていて、取扱説明書もしっかりついているんです。」
山口「ブランディングはしっかりできているんだね。」
山崎「いや、そういう世界観なので……」
山口「ふふ(笑)。でもなんかなー……ちょっと、味見的なのしたいなー。」
山崎「ぜひ。」
(♪歌い出しを一瞬だけ聴いて……)
山口「おー。はいはい、分かるわ。」
山崎「えー!早い!」
山口「こういう感じね。」
山崎「この曲を聴いていただければ、魔法少女になり隊の世界観が全て分かるようになっています。」
山口「……いいバンドだとは思うんだけどね。」
山崎「えー!厳しい……。」
山口「いいバンドだとは思うんだけどね……。ライブ観たいかな、まず。」
山崎「ライブ、観てもらいたいです!」
山口「ライブ観てから考えようかな。」
山崎「えー!本当ですか?……どうしよう、この感じ……。」
山口「もうちょっとゲーム寄りなのかと思ったらゲーム寄りではないね。」
山崎「バンド全体の世界観がゲームで、サウンドもゲームっぽいシンセサイザーを使ったり、歌詞もRPGっぽい歌詞になっています。」
山口「そうねー……。」
山口「なんか、正直なこと言っていい?」
山崎「はい。」
山口「コミックバンドっぽいイメージを持っちゃってるわ、今。」
山崎「そうですねー……。」
山口「いや、コミックバンドを否定しているわけではないんだけど、十代の心と心の隙間を埋めるものとしてのセンチメンタルが欲しいのよ。」
山崎「センチメンタル、分かります。」
山口「分かる?分かるでしょ?」
山崎「めちゃくちゃ分かります。」
山口「十代のときってさ、何の気なしにひとつの言葉が自分に残ったり、背中を押してくれたりしたじゃん。ゲームってさ、どちらかというと時間を浪費するっていうか……そういう意味合いのジャンルじゃん。もちろん、それが大事だから世の中にゲームが残っているんだけど。それと音楽を結びつけるのって、ユーロビートとロックを結びつけるのとはちょっとわけが違うな。ゲームをやるんだったらもっとゲーム音楽にしなきゃいけないんじゃないかなと僕は思うわけ。」
山口「要するにさ、ゲームっていうフィルターを使っているってことでしょ?ブランディングとしてゲームのブランディングをして、音楽を伝えようとしているっていうことでしょ?」
山崎「うーん……そういう言い方をしていいのか分からないんですが……」
山口「だったらもっとゲーム音楽にしなきゃ駄目じゃん。」
山崎「音楽の内容をですか?」
山口「うん。だって、ゲーム音楽って素晴らしいからさ。これ、ゲーム業界の人がどう思うのかなっていうところはあるよね。」
山崎「あー……」
山口「ゲームをすごくリスペクトして、ゲーム業界をバックアップしたいとか、いっしょに盛り上げていきたいっていう気持ちがすごくあれば僕はいいけど、ゲームを利用しようとしてるなら、ちゃんとその誤解を解かないと。僕はまだ誤解が解けてないなって感じ。」
山崎「ゲームを利用しようとしているわけではないです。」
山口「ゲームを作ったりしてるの?」
山崎「ゲームを作ってはいないんですけど、8ビットのキャラとか、映像は自分たちで作っています。」
山口「あー……なるほどね。ゲームは愛しているのね。」
山崎「ゲームは愛してますね。」
山口「じゃあ、ゲームを作ったらいいじゃん。どうして音楽にしたんだろう?」
山崎「ゲームを愛してるし、音楽も愛してるんです。」
山口「僕だって、釣りを愛してるよ。釣りめっちゃ愛してるけど、音楽を曲に持ち込むときには、曲のタイトルだけとかにするもん。その中で自分の世界観をちゃんと音楽にするよ。」
山口「僕はね、ゲームも素晴らしい業界だし日本の誇れるものだと思うのよ。真剣にゲームを作っている人たちがこれを見たときにどう思うのかっていうのが分からないわけ。ドラクエ側の人の気持ちがね。あと、このバンドの気持ちも、まだ彼らにお会いしたことないから分からないわけ。それを大手振って、うちの番組でかけるっていうのはちょっと難しいかなと思うよ。」
山崎「なるほど……」
山口「ちょろいと思った?僕のこと(笑)。」
山崎「いやいや!」
山口「ははは(笑)。でもね、僕、正直、今日はかけちゃおうと思っていたけど、この考え方は結構危ういぜ。僕ね、昔すごいがっかりした事があったの。ゲームソフトの箱(そっくり)の中にお菓子入っていたの知りません?ゲームソフトの中にゲームじゃないものが入っていたことがあったのよ。あれって、ゲームケースを利用してゲームじゃないものを売っていたわけよ。それと同じ匂いがしちゃったなーと思ったの。」
山崎「そんなことないです!」
山口「こういうのが好きな人もいると思うけど、僕がやっているライフワークとしての音楽の中では、こういうやり方をしているとなんでもありになっちゃうよな。」
山崎「なるほど。」
山口「だから、ゲーム系アイドルとかだったらいいよ。ジャンルとして。でも、ゲーム系ロックバンドってなると、ゲームが最初にあるのか音楽が最初にあるのか分からなくなるよね。」
山崎「それは、音楽が先にあります。このバンドに関しては。」
山口「BUMP (OF CHICKEN)の藤原さんはゲーム大好きなのよ。ゲームの世界観を自分の音楽にしているの。それだったらありなんだよね。マンガの世界観を自分の世界観に変えるのだったらありなの。」
山崎「ゲームっていうのを全面に出さずに、自分の作品に落とし込むっていうことですよね。」
山口「そう。これは、ゲームっていう、今まで培ってきた歴史を音楽っていう側面から利用してるって思われちゃうから、入り口として損だと思うよ。だから、もしやるなら本気でゲームを作るべきだって、本人に言うと思う。ゲームを利用しているのか、ゲームを愛しすぎてゲームの世界観に入り込んだのか、そこのジャッジはここではできないな。だから、ゲーム業界の人がどう思うのかっていう意見をリサーチしてからかけるかかけないかっていうのを判断させて欲しい。」
山崎「え……本当ですか?」
山崎「えー……!いやー、ちょっと帰れないです!」
山口「ちょっと(オンエアは)無理かなー。」
山崎「帰れないです!」
山口「これ、アルバムなんでしょ?」
山崎「アルバムです。メジャー1枚目のアルバムです。」
山口「メジャーファーストアルバムか。」
山崎「…………。」
山口「……まあ……そうだね……。うーん……。聴いちゃおうか。」
山崎「……ありがとうございます!」
山口「ちゃんと聴く、ちゃんと聴くわ。」
■ 魔法少女になり隊 『冒険の書1』YouTube ver.
ということで結局、山崎さんのプロモーションに根負けして楽曲をオンエアしてしまった山口ディレクター。今回は山崎さんの、魔法少女になり隊の1stフルアルバム『魔法少女になり隊〜まだ知らぬ勇者たちへ〜』のプロモーションで、深く話し込んでしまったので、そろそろ授業終了のお時間です。
山口「ちょっとなー……ガチで話しすぎたのでここでエンディングになってしまったんですが。プロモーターっていうのも仕事なんだよね。音楽を伝えるっていう立派な仕事をしていて、それを受け取るディレクターも重要な仕事なんだよな。真剣ですからね、お互いに。ちゃんと僕を口説き落とさない限りはね……まあ、結果オンエアしたんだけどね(笑)。」
「これ……情が入ってきちゃうからね。プロモーターを頑張ってるなって思うし、ソニーの山崎さんの後ろにいる、上司が見えた(笑)。多分、ここでかけないと「かけられませんでした……」って言いに行く山崎さんが……その辛い感じも分かるから。」
さて来週も引き続き、音楽にまつわる職業シリーズ "プロモーター" の授業をお届けします!
「来週はポンポンと選曲して、かけるか、かけないかのジャッジをチャチャッとしていくよ!」