Base Ball Bearのギター&ボーカル、小出祐介先生との対談授業。今回は後編をお届けします。前回の「前編」では、熱くなった山口先生が「俺、今日はぶっちゃけるわ、いい?」と踏み込もうとしたところで、授業終了になってしまいましたが、今回はその続きです。
山口「ゲストはこの方です!」
小出「Base Ball Bearの小出祐介です。」
山口「今週もよろしくお願いします。」
小出「よろしくお願いしまーす。」
山口「『二十九歳』、「The Cut」って曲、すごいね。」
小出「あ、本当ですか。」
山口「サビがハンパないね。」
小出「お!ありがとうございます。」
山口「ラップが入っている所に入っているギターの感じとか、グルーヴとかも全然クラブミュージックだったし、サビの感じとか、TM NETWORKだったし(笑)、なんか、日本のルーツをすごく感じたかな。」
小出「俺がやりたかったのは……単純にロックにラップが入るっていうのは、ミクスチャー・ロックってあるじゃないですか、ジャンルとして。それはやりたくなかったんですよね。ちゃんと自分たちがやっているギターロックっていうのとラップっていうのが、本当の意味でミクスチャーになっていればいいなって。新しいギターロックとヒップホップ、ラップの形になっていたいなって思っていたから。だから、グルーヴの作り方とか、サビの作り方もそうなんですけど、今までの何かっぽいっていうよりかは、(RHYMESTERに)ギターロックに来てもらうって感じにしてもらって。」
山口「このアルバムをざっと聴いた時に思ったのが、向けている先がすごい大人だなって思ったの。例えばさ、高校生とか中学生がこのアルバムを聴いた時に、どう思うんだろうっていうルーツがいっぱいあったんだよね。多分、全然知らないだろうギターロックの歴史とかルーツみたいなのが所々に入っていて。マーケット的な話になるけど、なんか、どの年齢層に向かっているのか、一体どこを見ていたのかなってすごい気になったかな。」
小出「あのね……マーケット的な、って言うとニュアンスは違うんだけど。これは単純に、一個はバンドのあり方なんだけどさ。僕らって結成が17才なんだけど、そこに碇を下ろしていて、そこからずっと続いて今に来ているって感じで。今の29才のところに、現在のバンドのところに、そのアンカーというかそれを打ち替えるというか。それをやったら、音楽の作り方もちょっと変わったの、自然と。それを向けた先は、もちろん若い子にも聴いてもらいたいし、聴けないものではないと思うんだけど、やっぱ自分が今感じている事を歌にしようと思ったら、自分の今立っている地面っていうのが歌う対象になるし。対象年齢が自然と持ち上がったというか。それが一個、デカいかな。」
山口「ほぉ……。すごいね、その感覚。」
小出「うん。でも、うちのバンドはずっと変わってきてるバンドだから。外から見たらあるかもしれないよ?シングルとかもたくさんあるし、ああいう曲っぽいっていうのはあるかもしれないけど、自分たち的にはその時に興味があるものをずっとやってきているってだけだから、今は自分の目標や立ち位置が変わって、立っている地面が変わって、ここにいるっていう。結構ありのままではあるんだけどね。」
山口「なんかね……俺、今日はぶっちゃけるわ。ぶっちゃけていい?」
小出「あぁ、どうぞどうぞ。」
山口「俺ね……、小出君ね、アルバム出さなすぎたわ!」
小出「はははは!(笑)」
山口「楽曲提供とかコラボとかいろいろやってたじゃん。俺、その間、けっこう戦ってたのね。シーンに対して、自分なりにどうやったらいいかとか。でも小出君は当時(3年前くらい)、すごいそういう話をいろいろしてたじゃん。戦ってたしさ。カウンターとして一緒に盛り上げて行こうって言ってたじゃん。でもさ、全然アルバム出してくれないからさ(笑)。なんか……。あれ、どう考えているのかな、とか、自分たちのこのアプローチをどう思っているのかなとかさ。実は率直に話せなかったんだよね。」
小出「うーん、なるほど、なるほど。」
山口「でもさ、今回出したじゃん。ひとつのアンサーとしてものすごい、超楽しみにしてたの。その……何て言うのかな。日本のロックシーンの中での、同世代としてのひとつのアンサーな訳じゃん。だから、どんなのが出てくるのかなってすごい楽しみだったし、やっと出してくれたなって感覚があったのね。」
小出「うんうん。」
山口「俺、星野源さんと仲が良いのって、星野さんってひとつあの辺のシーンを補完してるのね。」
小出「だろうね。そう思うわ、めっちゃ。」
山口「だし、感覚もすごい近いしさ。だから、何て言うのかな……リリースもしてるから戦っている感じの共有もできているしさ。小出君、今回アルバム出してくれたから、また頻繁に会って話したい!(笑)」
小出「ははは!(笑) あのね、違うんだよ。この、俺がアルバムを出さなかった3年間って……、何て言うのかな。3年前って山口君はもう30才くらいになってたじゃないですか。俺は20代後半に差し掛かってきたところで。自分的にも精神的にかなり過渡期だったのよ、3年前って。山口君といろんな話をして、俺もいろいろ考えたし、俺の考えも山口君に聞いてもらって。だけど、俺の中ではまだ及んでいない考えがたくさん山口君の中にはあったわけ。山口君から話を聞いて、うん、そうだね。って思う。で、俺はこう思う。って言うことはできるけど、俺が自分の居る畑について、自分の居る牧場について深く考えて、考察して、それに対してどういうアプローチをしようって、Base Ball Bearはどういう立ち位置だからって、俺がどういう人だからって、それをこの3年間すごい考えていた時期だったと思うんだよね。誰になりたいのか、何になりたいのかっていうこと。それをこの3年間くらい、いろんな人と曲を作ったり、ヒャダさん(ヒャダイン)とか、岡村さん(岡村靖幸)とかもそうだし、ライムスさん(RHYMESTER)もそうだし、声優の花澤香菜さんとかもそうだけど、いろんな方と仕事する中で、なんかこう……見つけて行くというか、考え方を耕していくというか。俺にとってはすごい重要な時期だったの。この3年すごい時間かかったし、(アルバム)出してないなって思ったかもしれないけど、その間、俺は別にサボっていたわけじゃなくて、すごい悩んでたし、すごい考えを巡らせてたし。今、ギターロックってどうなの?ギターロックをやる必要あんのかなとか。」
山口「それ、すげー思う。めちゃくちゃ思う。」
小出「うん。でも、なんで俺はこんなに意地になって、こんなにムキになって、こんなにギターロックを信じてるんだろうって。そんな自問自答もあったし。でも、時間はかかっちゃったけど、僕なりに、やっと大人になれたかなって思えたし、なりたい自分のスタンス、位置に立てたのかなって。だから、3年前、山口君が30になったくらいだよね。あれ?今いくつだっけ?」
山口「今33。今年34。」
小出「だから、ちょうど俺が30だから、そんなもんですよ(笑)。山口君が当時30だったところに、俺も立って、ちょっと大人になったかなっていう。」
山口「小出君が居なかった3年間って、小出君は自分を成長させるのに必要な3年間だったかもしれないけど、シーンにとっては結構、痛手な3年間だったと思うよ。すごい大きな変化があったと思うし、成長すべき人が成長できなかったところもあったと思うし。なんかね……"小出君一派" ってあるんだよ。」
小出「そうか?」
山口「あるある。小出君一派っていうのがあって、そこってやっぱり、小出君が居ての一派なんだよ。」
小出「そんなのある!?(笑)」
山口「いや、なんか感じたの!(笑) でも、これでみんな動き出すなって感じあるよ。」
小出「ホント?」
山口「ある、ある。」
小出「そうなんだ……そういうの、感じた事ないんだけど(笑)。」
山口「いや、だから、俺は離れているから余計に感じるんだよ。」
小出「まあ、そうか。」
山口「小出君が居なかった所をハマくん (ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)) がすごい補完してた感じあるよ。」
小出「ああ、そう。いや、でもまあ、うーん……また俺とアイツの役割は違うとは思うけど、まあ、そっか。そういうのもあるのかな。」
山口「だから、これでまた、日本のギターロックが動き出すのかなって思うけど。」
ということで、山口一郎×小出祐介の音楽対談。
そろそろ、授業終了の時間になってしまいました。
山口「いやー……いろいろ、お互いあんまり話さなかった時間にさ、考えていたことを共有できるところがいっぱいあると思うんだよね。」
小出「そうだろうね。」
山口「おいしいご飯を食べながら話したら、いい音楽に繋がると思う(笑)。」
小出「ははは(笑)。お互いね。」
山口「だから、サカナLOCKS!にさ、臨時講師として頻繁に来てよ!」
小出「ふふ(笑)。全然いいよ。意見交換しよう、頻繁に。」
山口「まずはさ、このアルバムが出てどういう結果が出たり、どういう評価があるかっていうのは、僕が外からも見ているし、小出君も自分で体感した事を意見交換する場があったらいいですね。」
小出「ですね。確かに。」
山口「だから、これから小出君がシーンに帰ってきて……」
小出「だから、居たんだって!居たんだよ!」
山口「ははは!(笑) まあ、僕の元に帰ってきて!」
小出「はいはい(笑)。山口君の元に、帰ってきてね。」
山口「これから新しいシーンができていくのがすごい楽しみですけど。臨時講師でも、お願いします。」
小出「はい。」
山口「では、Base Ball Bearの小出先生、ありがとうございました。」
小出「ありがとうございましたー!」
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