『最近、一郎先生が音楽について考えていること。』

SCHOOL OF LOCK!


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聴取期限 2021年5月7日(金)PM 10:00まで




山口「緊急事態宣言発令されましたね、また。」

職員(カヲル先生)「されましたね。」

山口「結構、人通りが多い……みたいに言われていますけど。」

職員「まだ多いかな。」

山口「1回目、2回目の緊急事態宣言に比べたらまだ人通りが多いんじゃないかって話ですけど。飲食店でも、お酒を出しちゃだめっていう。結構どうにもならなくなってきていますよね、飲食店は特に。……でもなんかこう……良い方法はないですかね?発明できないですかねー、良い方法。」

職員「良い方法?」

山口「みんなでワイワイご飯を食べたらだめってことじゃないですか。でも、外食を頼りにしている一人暮らしの独身の人とかも結構いるわけですよね。だから、外食も一人だったらOKとかにすればいいのかなって思ったりしますけどね。喋らず、もくもくと食べるだけならOKみたいな。」

職員「うん、うん。」

山口「あと、この間僕、神宮球場に野球を観に行ったんですよ。緊急事態宣言が発令される前日に、ビクターの山上さんと。そしたら、(入場制限で)お客さんが少なかったんですよね。普通神宮球場ってご飯食べるところとかも並ぶし、トイレも混んでるし、僕は煙草も吸うので、喫煙所もめちゃめちゃ混んでるし、席もぎっちぎちで隣同士知らない人がいるし……それが球場の良さなんですけど、今回人がすごい少なかったのが逆に良くて。一定の間隔でみんながいて、声も出さずに静かに応援する……みたいな。だから、選手のベンチの声とかも聞こえるし、打球の音もいつもより聞こえるし。」

職員「え、そんな感じなんだ!」

山口「そうなんですよ。臨場感というか、違う緊張感があったんですよね。余裕がある感じで。だからなんか……エンターテイメントって誰もが体験できる素晴らしいものだったじゃないですか、今までは。でも、ある程度入場制限をしなきゃいけなかったりとか、いろんな状況が変化したことで、エンターテイメントの楽しみ方が変わってきているわけですよね。」

山口「これは、一生続かないっていう前提での僕の考えなんですけど。もちろん、リアルなものに対して、その素晴らしさをみんなが体感できるべきだっていうのは大前提なんですけど、少ない人数にして、チケット代を倍とかにしちゃえばいいのかなって思ったんですよ。ってなると、お金に余裕がある人しか観にいけなくなるじゃないですか。だから、お金に余裕がある人がエンターテイメントを回す作戦。で、そのうちに誰でも体験できるようになったらまた戻るとか。」

職員「なるほどね。今このイレギュラーな期間をそうしたらどうかっていうことですね。」

山口「うん、この時期だけ。今、電車運賃もダイナミック制になるかもしれないっていう話もあるんですよね?」

職員「時間帯とか混雑具合によって料金が変わるとかね。」

山口「飛行機とかと一緒で、混んでる時間帯は高くなるっていう。だから、チケットもそうしたら良いんじゃないかなってちょっと思ったんですけどね。」

職員「でも実際、今、入場50%くらいのライブのチケットって値上がりしているんじゃないですか?」

山口「微妙に値上がりしているんですよ。でも、そこを思い切っちゃう。その代わり、リアルに観にいけない人たちの気持ちをちゃんとどう解消していくかっていうところを考える方が建設的かなって思ったんですよね。ポジティブだなって気がして。」

職員「うん。あとは、行けなくなった人の疎外感みたいなのをどうフォローするかっていうことだと思うんですよね。」

山口「それって打ち出し方だと思うんですよね、多分。なんかこう……『お金がある人だけ楽しめるものをやります!』ではなくて、『今、この時に余裕がある人に回してもらおう』っていう考え方。で、来られない人……お金はあるけどコロナが心配で来れない人、余裕がない人に向けてこういうコンテンツを用意しますっていう。そういう代替案をちゃんと用意さえできていれば、僕は問題ないんじゃないかなというか、理解してくれるんじゃないかなって。じゃないと、結構現時点で税金の投入がすごいじゃないですか、日本の。まだ足りないっていう人もいるだろうけど、だとしても、これ……5年後6年後にコロナが収束した時を考えると、そろそろやばくないですか?ってみんな感じ始めている部分もあると思うし。僕はミュージシャンなので、エンターテイメント側のことしか分からないんですけど、ライブも、主催する側も来る側も、双方がちゃんと対策をするっていう条件だったら開催できるようにしていくべきだし、コロナを対策して今までとは違う環境になるわけだから、そういう環境でどうやって今までとは違うライブを提供するかっていう……そこの発展もしていかなきゃいけないだろうし。純粋に席を用意して、声を上げちゃだめっていう状況でいつもと同じライブをするのか、じゃなくて、そういう状況を逆手にとって良いライブをするのか……どんどん考えていくことを止めないほうが僕は良いんじゃないかって思うんですよね。」

職員「うん。」

山口「結局、妥協、妥協、妥協……って、妥協の中でエンターテイメントを表現していくのって、結果的に、お互いにハッピーじゃないというか……。例えば、こんな状況でライブをしてくれてありがとうっていう気持ちがリスナーの中にあって、こんな状況でライブに来てくれてありがとうっていう気持ちが主催者やミュージシャンにある状況で、じゃあ、内容ってどうなの?っていうところは結構おざなりになる気がしちゃうんですよね。やってくれるっていうことだけでいいって……そこに甘えるのって、ミュージシャンとしてはちょっとしのびないというか。コロナで、座席に座ったままで声も出せないけど、だからこそこんなライブができたよとか、こんな表現、新しいルーティンができたよって……そういう発明っていうことをしていかないと、結構苦しくなるなって思う。」

職員「うん。」

山口「これから、CDを出す意味も変わってくるし、もう変わってきているし。ライブのBlu-rayとか……フィジカルの音楽の位置ってどんどん趣向品化していくから、余計にスタイルを見つけていかないと。コロナが明けた後、果たして本当にライブに人が戻ってくるのかとか。」

職員「Blu-rayとかDVD……いわゆるライブ映像って今後どうなるんですかね?」

山口「うーん……厳しいと思いますよ、正直。音楽もCDからCDじゃなくなって、ストリーミングになったじゃないですか。ライブ映像も多分そうなっていくんじゃないかなと思うんですよね。Netflixとかでサブスクリプションされていく……あと、音楽専門の動画サブスクリプションサービスって存在していないと思うんですよ、まだ。」

職員「動画配信サービスだとね。」

山口「うん。現に、権利とかの問題があるんですけど、そういう部分でもクリアになっていないし、音楽がNetflixに載ることも少ないじゃないですか。有名なミュージシャンとかじゃないとなかなかアップされない。だからなかなか難しいんじゃないかと思うんですよね。」

山口「で、今、コロナ禍で新しい仕組みが注目されてきているんですけど、"NFT"っていうのがあるんですよ。今までは、デジタルデータって誰でも複製できたじゃないですか。例えば、僕らが配信をしても、勝手にコピーして広がっていったわけですよね。これは、ブロックチェーンっていって、一個一個のデータにタグが付いているみたいなことで。でも、NFT、ブロックチェーンっていうものを使っていくと、僕らが発信したものがコピーされても、全部にブロックチェーンが付いているんですよ。だから、誰がどこで何回かけたかっていうのがはっきり分かるんですよ。」

職員「あー、すごい。」

山口「だから、デジタルアートって今まで作品として認められなかったんですけど……コピーできるし、複製できるから。けど、今デジタルもブロックチェーンでアート作品化していってるんですよね。でも、そのNFTっていうものはそんなに新しいものでもないんですよ。結構前から音楽に利用できるんじゃないか、音楽の権利に紐づけられるんじゃないかっていう議論があったりして注目されていたんですけど。実際、この間Aphex TwinがNFTで音源販売をしたんですよね。確か、1曲何千万円とかで取引されているんですよ。それは、もう買った人の物なんですよね。」

職員「え……」

山口「要するに、アート作品として音楽を買えているって感じですかね。」

職員「それは今アート作品なんですね?」

山口「でも、音楽なんですよ。Aphex Twinの新作なんですよね。」

職員「ビットコインとかがブロックチェーンのシステムですよね。仮想通貨の価値を守るために同じ機能を使っているし、あとは、Twitterの世界で一番最初につぶやかれたつぶやきが、オークションで何千万かで落札されたんですよね。」

山口「そう、それですそれです。今まではデジタルのデータを買っても自分だけのものじゃなかったのを、自分のものだけっていう確証を得られる……アイデンティティを手に入れられるようになったんですよ。それって結構な進化だなって。だから、ひょっとしたらラジオとかでもできるかもしれない。」

職員「うん。」

山口「その……広める物、そして、広まって内に入って来た人がスペシャルで欲しい物っていう……エクスクルーシブな役割になる可能性もあるし、例えば、ものすごく偉大なミュージシャンが生まれて初めて作った曲のデモとか。僕がPCで書き上げた歌詞のIllustratorデータとか(※一郎先生は歌詞を、デザイン用のソフト:Illustratorを使って書いています)。そういうものを欲しいっていう人がファンの中でいるかもしれないじゃないですか。」

職員「なるほどね。」

山口「100年後にそのデジタルの価値がすごいものになっている可能性があるわけですよね。それは、ジョン・レノンがかけていたメガネみたいな感覚で。」

職員「あー……そういうことか。」

山口「はい。権利として考えることもできるし、アイデンティティっていう考え方も持てるというか。デジタルに新しい価値が付加され始めているっていうのが結構注目されているところですよね。だから、結構面白い時代がきてるなーって。」

山口「そういうことを考えていくと、CDをリリースして、ツアーやって、またリリースしてツアーやって、テレビでプロモーションして……っていう時代って、あと何年続くんだろうって。コロナ禍で、リアルライブでお客さんを呼んで今まで通り騒げない……楽曲も、2週間に1回リリースされることが広がっていく上で重要なことだって広告代理店が言い始めてる……」

職員「2週間に1曲?」

山口「2週間に1曲ずつ曲を出していくと効果的だって言われているんですよ、今。」

職員「それくらい早いってこと?」

山口「そう。で、15秒でヒットする曲を作るっていうことが、今の時代の音楽だって言われているんですよ。」

職員「音楽っていうか、それは商品のマーケットみたいな話なんですかね?」

山口「そうです。まさにそうで。じゃあ、"音楽ってそういう側面も持ち始めた"っていう風に考えるのか、"音楽っていうものはそうなってしまったのか"って考えるのか……それによって全然違うじゃないですか、受け取り方が。音楽のマーケットがそっちに広がっているけど、そうじゃない純粋な音楽ってなんなの?とか。ロックって何なの?とか。その種類として、ジャンルとかだけじゃなくて、手に入れ方とか保持の仕方っていう部分もやっぱり変わっていくべきだし、楽しみ方も変わっていくべきだし……ここが今過渡期なんですよ。」

職員「へー……!」

山口「だから僕も、従来のやり方でやっていくっていうことももちろん必要なんですけど、新しい手法も発明していかなきゃいけないと思うんですよ。TikTokで15秒でヒットする曲を作るとか、2週間に1曲リリースするっていうことではない、今までのスタイルでやってきた音楽の表現の仕方っていう部分にも、いくつか枝道を作っておかないといけない。発明しておかないといけないと思うんです。それはなんでかっていうと、絶対にテクノロジーは進化していっていて、テクノロジーの進化によって音楽の聴かれ方って変わってきているから。」

職員「うん、うん。」

山口「今、オンラインもパケット通信量が制限されていて遅いから見られないとか、スピーカーとかテレビの音が悪いとか……でもそれって、5年もしたらとんでもない進化をしているわけですよね?」

職員「5年前と今を比べて、実はいろんなものが増えていたりとんでもない進化をしているのが当たり前っていうことを考えたらそうですよね。」

山口「そう。それに、今まであるツールもそうだし、新しいツールも増えているはずなんですよ。例えば、体感ベストみたいなものを着て音楽を楽しんだり、映画を楽しむ時代が来るかもしれないし。ゲームとかでもそうかもしれないですよ。」

職員「ほー!」

山口「もうソニーが開発していましたけど、打たれたら衝撃がくるベストみたいなのがあるんですよ。例えば、ゲームの中で槍が自分の体に刺さったら、表に刺さって後ろに抜けた感覚がくるっていう……」

職員「うわー、痛みじゃないけど、くるんだ。へー。」

山口「そういったものが当たり前になったとするじゃないですか、すごく低価格で買えて。となると、音楽で、オンラインでもVRでも……VRも、普通の眼鏡くらいの価格で観られる時代が来るかもしれないじゃないですか。だから、そうなってくると、音楽やエンターテイメントってもっと違う楽しみ方、楽しませ方があるよねって。それをその時考えるんじゃなくて、事前にオンラインでどうエンターテイメントを表現していくかっていう側面も考えて今のうちに動いておくと、新しいテクノロジーが出てきたときに、今までやれなかったこれがやれる、こういうことも出来るようになる……ってなっていくと思うんですよ。」

職員「うん、うん。」

山口「"新しいテクノロジーが出てきたからそれを利用しよう"じゃなくて、自分たちがこうやりたいっていう歯痒さを持っていながらクリエイティブしていく中で、新しいテクノロジーが出てきたときにやれなかったことをこういう風に使おうって、こういう使い方ができるんじゃないかって。テクノロジーに使われるんじゃなくて、自分たちが使っていかないと。アナログとデジタルの融合を見つけていかないと、音楽の未来って、多分、本当に狭くなっていくんじゃないかと思っています。」

山口「そういう意味で、コロナ禍ではリアルライブが素晴らしいのは当たり前なんですよ。リアルライブが素晴らしいのは絶対。そこで得られる感動っていうのは100%理解できているし、歴史が物語っていますよね。先人たちが作り上げてきた素晴らしい音楽とライブがあるんですよ。自分たちも、それに一歩でも追いつこうと思って毎日切磋琢磨するわけです。してきたんですよ。でも、コロナになってそれが出来なくなったと。今までのように出来なくなったときに、ただ縮小したり、欲望を抑えたコンサートじゃなくて、新しい発明をしなきゃいけないし、みんなで開拓していかないと。音楽ならではの発明をしていくっていうのがこのコロナ禍で生まれてきたら良いなって思うし、自分がコロナ禍でミュージシャンでいるっていうことを幸せだなって思う部分。それを考えて実践できる状況にあるっていうのがすごくラッキーだなって、逆に思うようにしているんですよね。」

職員「……それだ……この前一郎先生がつぶやいていたの。」

山口「そうなんですよ。」



職員「140字でつぶやいていたこと、これだけ長く喋ってようやく理解できました。」

山口「だから、Twitterって僕本当に難しいと思う。すごく論理的で簡潔に話すことができる人は、Twitterってすごく重要なツールだけど、いろんな思いを背負って言葉を発さなきゃいけない時って、Twitterってものすごく不便だなと思う。」

職員「うん。このつぶやき、していましたね。一郎先生。」

山口「はい。だからいろんなことを実験していかなきゃだめかなって。」

(♪「蛍の光」が流れてきて……)

山口「……あれ!?……雑談で終わっちゃう?今日(笑)。」

職員「そうね。閉店の音楽が流れてきたよ(笑)。」

山口「でもね……辛いんすよ、今。本当に。ミュージシャンは。」

職員「いや、だめよ。この曲に乗せて辛いとか言ったら(笑)。」

山口「ふふふ(笑)。だってさ、僕ら的にはライブしたいんだもん、本当に。ライブしたいし、音楽事業者の人たちにライブをして普通の生活を取り戻してもらいたい。これはうち(の事務所のHIP LAND MUSIC)の社長の野村さんに言われたんですけど、ドネーションじゃないと。仕事をするっていうことがみんなの生きがいなんだから、支援じゃなくて仕事をちゃんと作っていかないとだめだって言われたんですよね。」

職員「すごい。そうだね……」

山口「だからって、僕らもみんなを助けるために無理矢理ライブをやって、自分たちのクリエイティブっていうものをあまり出しきれないまま、リスナーにも自分たちにも少しネガティブな状態でコンサートをやれっていうのもちょっとまた違うじゃないですか。だからその間に挟まれているんですよ、その気持ちの。だから、新しいオンラインライブとリアルライブの関係性を見つけていかなきゃいけないなって思うし、リリースもそういう形で見つけていかなきゃいけないなって思う。」

職員「うん。」

山口「……大丈夫かな?(笑)」

職員「もう、お別れの時間です(笑)。」

山口「でも、あのね、5月から『夜を乗りこなすカレンダー』っていうのを作ったので、それを見て、サカナクションのスケジュールを確認してもらうと、何曜日に何をやってるなって分かって淋しくなくなると思うので。サカナクションに興味がある人はぜひそれを見てもらいたいなと思います。Twitterとかにも貼ってありますからね。」



山口「それから、『NF OFFLINE』っていう、私一人で回るZeppツアーも行われます。これは非常にストイックな、舞台みたいなライブになると思うんでね。これは来た人にしか分からない感じになっていると思うんだけど、楽しみにしてもらえたらなと思います。」

『NF OFFLINE』特設ページは[→コチラ]


山口「今日はダラダラとお話ししちゃったけどね……この辺でお別れかな(笑)。」

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