聴取期限 2020年2月21日(金)PM 11:27 まで
今回の音学(おんがく)の授業は、音楽業界で働きたいと思っている生徒の相談にのっていく、『音楽業界 多分、これ!』を行います。将来、音楽にまつわる仕事に関わりたい、でもどんな職業があるのか分からない。そんな生徒の話を、一郎先生が直接、進路相談していきます。
今回の生徒は、こちら。
私は21歳で、もうそろそろ就活を本格的に始めなければなりません。私は音楽関係の仕事に就きたいのですが、音楽関係の仕事は契約社員が多いし、体を酷使すると親が懸念しています。私はアーティストの宣伝業務に携わりたいです。しかし、私自身具体的にそこではどのような業務があるのか知らないことが多いです。親に自分のやりたいことを伝え、理解してもらえるようにするために、まず私自身知識を増やしたいです。一郎先生、具体的な業務についてどんなに小さなことでも良いので教えて下さい!
なぺ
女性 / 21歳 / 東京都
山口「これ、教えちゃうよ!宣伝業務っていうのは、音楽業界の中でも結構ヘビーなところなんですよね。なので、今回は……音楽業界歴約20年、レコード会社ビクターの上から……若干落ち気味で30番台後半になった人、山上さんと一緒に生徒の話を聞いていきたいと思います。山上さん、よろしくお願いします。」
山上「よろしくお願いします。」
山口「山上さんはサカナクションの立場的にはどんな役職なんですか?」
山上「主に宣伝の担当で、宣伝のプランニングを決めるチーフみたいな感じですね。」
山口「宣伝部長ね。それはミュージシャンごとにいるんですよね?」
山上「はい。ミュージシャンごとにそれぞれ担当がいます。」
山口「その辺りもいろいろお話を聞いていきましょう。」
山口「電話が繋がっています。もしもし!」
なぺ「もしもし、なぺです。」
山口「今回は、ビクターの山上さんも一緒に答えてくれます。」
なぺ「よろしくお願いします。」
山口「なぺは今21歳で、大学生?専門学生?」
なぺ「大学生です。」
山口「就職活動はいつぐらいから始まるの?」
なぺ「もう決まり始める子たちは、決まり始めると思います。」
山口「もう!?」
山上「早いね。」
なぺ「そうなんですよ。」
山口「将来音楽業界で働きたいと思っているんだよね?それには何か理由があるの?」
なぺ「はい。自分の好きなアーティストさんと一緒に仕事がしたいなって思っていて、それを将来、叶えたいなと思っています。」
山口「自分が思いつく音楽に関わる仕事ってどんなことがある?」
なぺ「最初は、ライブに行って、ライブのスタッフさんとかを見て、自分もこんな風に人を楽しませるのと、アーティストさんのそばで仕事ができたらいいなって思っていたんですけど、プロモーションとかのことにも興味が出てきました。」
山口「なるほど。プロモーションに興味を持ってきた?」
なぺ「はい。」
山口「メッセージには、音楽関係の仕事は契約社員が多いって書いてありましたけど、山上さん、実際に契約社員が多いんですか?」
山上「そうですね……契約社員が多いことと、正社員は狭き門っていうことは実態ではありますね。」
山口「ビクターは毎年新入社員を採用しているんですか?」
山上「ビクターは毎年採用しています。今年はまだ決まっていないんですけど。ビクターは、一度契約社員で2年とか3年やって、正社員に登用されるっていう制度があります。ちょっと調べたところだと、ソニーミュージックは正社員を毎年募集していて、avexも正社員じゃないかな。他は、ユニバーサルとかワーナーみたいな外資系は、比較的中途採用を中心にとっていて、それも状況によっては契約社員での採用で。正社員になる場合もありますけど、その時は能力次第なのでっていう感じですね。」
山口「なぺはさ、このメーカー、レーベルに入りたいっていう目星はついているの?」
なぺ「ビクターに入りたいです。」
山口「ビクター。ビクターに入りたい理由はなんで?」
なぺ「好きなアーティストさんが多いからです。」
山口「そうか。」
山口「なぺがどう音楽に関わっていきたいか、もう少し具体的に教えてくれたら僕らももう少しアドバイスがしやすいかなと思うんだけど……まず、プロモーションに関わりたいと思っていると。でも、最初はライブスタッフに憧れたわけでしょ?」
なぺ「そうです。」
山口「ちなみに、ライブスタッフっていうのは、PA(音響)とか照明とかの技術的なところもあるけど、制作もある。好きなミュージシャンにべた付きでやりたいって思うんだったら、多分マネジメントが一番近いと思うんだよね。レーベルだと自分の好きなミュージシャンの担当になれるかは分からないし、基本的には掛け持ちするんですよ。山上さんも今サカナクションだけじゃなく……」
山上「サンボマスターとか、他のいろんなアーティストも担当していますね。」
山口「プロモーターになると、ラジオ局とかいろんなメディアにべた付きになって、全然知らないミュージシャンのプロモーションをディレクターにしてこいってことになるから、自分が好きなミュージシャンだけに気合いを入れるわけにはいかなくなってきますよね。」
山上「そうですね。」
山口「ただ、マネージャーになると、担当についたミュージシャンと一緒にサクセスストーリーを進んでいくというか。歌詞を書くときにアドバイスしたり、悩んでいるときに話を聞いたり、ご飯を食べたりしながらコミュニケーションをとったり。もちろん、喧嘩になることもあるし、ミュージシャンに怒られたりとか、逆にミュージシャンがダメな時には注意したりもしなきゃいけない……家族みたいなもんだから。マネジメントはミュージシャンと人と人として向き合うけど、レーベルはどちらかというとミュージシャンを商品として扱う感覚があるのかな。」
山上「レーベルの方がひとつ外側にいるっていう感じはありますね。」
山口「ただ、楽曲制作になるとレーベルのディレクターがベタ付きになるじゃないですか。音楽業務でも、プロモーターとディレクターって全然別なんですよ。ディレクターは制作進行とかのスケジュールを作ったり、どんな作品を作るかっていうのをミュージシャンと話し合いながら一緒に作っていくもので、プロモーターはどんなものを作るのかっていう戦略にももちろん入るけど、それをどういうメディアに持っていって、どうバズらせるかっていうことを考える仕事ですよね。」
山上「うん。」
山口「なぺはどう?今の話を聞いてどれがやりたいってある?」
なぺ「マネジメントがやりたいです。」
山口「マネジメントだよなー。レーベルは正直今おすすめしないですよね、山上さん。」
山上「そうですね……他の要素もいろいろあって。体を酷使するとかっていう部分でいうと、体力的にはマネジメントの方が大変だと思います、正直。レーベルは、比較的大きな会社なので、雇用形態は基本的に会社員っぽい感じですね。今、当然、マネジメントも音楽業界全体で雇用体系を改善していこうっていう体勢があるんですけど。やっぱり、ミュージシャンが売れた時の喜びとか達成度っていうのはマネジメントの方が大きいと思います。」
山口「なぺはさ、マネージャーはどんな仕事をすると思う?」
なぺ「マネージャーって聞いて、ぱって出るのは、送り迎えとか、スケジュールの管理とか……」
山口「スケジュール管理は絶対だけど、一緒に戦略も考えますよね。」
山上「そうですね。」
山口「例えば、ミュージックステーションに出る出ないとか、この雑誌からオファーが来たけど受けるか受けないかとか。ミュージシャンにとってこれはいいことか悪いことかっていうのをジャッジしていくのはマネジメントの仕事なんですよ。他にも、ミュージシャンがトラブルを起こした時にすいませんでしたって謝りに行くのはマネジメントの仕事だよね(笑)。」
なぺ「ふふふ(笑)」
山口「サカナクションは今、マネージャーが3人いるんですよ。トップが社長でありプロデューサーの方。その人は現場にはあまり来ないんだけど。現場に来るのが2人。男の子と女の子……って呼ぶ年齢でもないけど。今いるけど、ちょっと呼ぶ?」
なぺ「え……!」
山口「ちょっと、(通称)サバちゃん。……HIP LAND MUSICで下から2番目くらいの子(笑)。はい、関口。」
関口「はい、マネージャーの関口です。」
なぺ「こんばんは。」
山口「サバちゃん、マネージャーの仕事を具体的に話すると?」
関口「プロデュースの話もあったんですけど、例えば、ライブの期間とかツアーの期間になると、人間なので……体力的にライブに集中するためにどういう風に他のスケジュールを組んでいくかとか、そういったところをレーベルのチームと共有しながら考えていく。スケジュールの管理を具体的に言うと、そういうところですね。」
山口「あとは、(移動のための)チケットをとったり、メンバーの性格をつかんでスケジュール組んだりとかね。」
関口「そうですね。1日の動きがバンドメンバーといえど人それぞれ違うので、この人はこういう感じかなっていうところで。」
山口「あと、SNSの管理とかもマネジメントだよね。」
関口「はい。今私はサカナクションのSNSを全て運営していて、たまに一郎さんも出てきたり……っていう感じですね。」
山口「醍醐味なのは、自分が担当したミュージシャンが、小さいステージからだんだん大きいステージになっていって、初めてテレビに出たり、SNSで反響あったり……自分がした仕掛けがそのまま世の中に反映されていってブレイクしていったり、ミュージシャンの苦しい時にも良い時にも一緒にいながら体験できるっていうのは結構すごいことだと思う。」
山上「それはすごいことですよね。」
山口「僕が感動したのは、デビューして「アルクアラウンド」をリリースした時に、オリコン2位になったんですよ。」
山上「なった、なった。」
山口「あの時に、山上さんと当時のマネージャーだった三ツ木さんと山上さんが、喫煙所で思いっきり、イェーイ!!ってハイタッチしている瞬間を見て。大人がそんな真剣にハイタッチしている瞬間を見たことがなかったから……本当に自分の人生に深く関わって一緒に仕事をしているんだなっていう感動があったけどね。」
山上「なんか……真剣にやっている学園祭がずっと続いていくみたいな感じに近いかな。学園祭って真剣にやると寝ずにやったりするじゃないですか。最近は働き方改革とかがあるけど、醍醐味は、そのハイタッチをする瞬間を目指してやっていくっていうところが魅力かなって思いますね。」
山口「体を酷使するとか、仕事が大変だっていうのは、どんな仕事でもそうだと思うし、プライベートもちゃんと持ちながら仕事を両立したいって思ったら、それなりの仕事になるかなと思う。でも、自分がやりたいって思うことをやっていきたいんだったら、苦労するけど自分が思っている仕事を目指した方が良いかなって思うんですけどね。」
なぺ「はい。」
山口「僕の持論なんだけど……なぺにひとつだけアドバイスするとしたら、いろんな幸せの形があると思うし、選ぶのは自分なんだけど、どんな仕事をしても……楽しい仕事でも好きじゃない仕事でも、どっちでも苦労するんですよ。苦しい時は、どっちにしろある。けど、せっかく苦労するんだったら好きな仕事で苦労した方が良いだろうなとは思うよね。後悔しないというか。だから、なぺが本当に音楽業界で仕事をしたいと思って詳しい状況を知りたかったら、自分が行ってみたいレーベルとかマネジメントに直接電話して聞くとかでも良いと思うんだよね。あとは、SNSがあるから、そういう仕事をしている人にメッセージを送ってみたりとか。行動する人ってこっち側からすると嫌な気持ちはしないんですよ。積極的に聞いてみて、自分に合うものを見つけて、人生をかけてみてもいいって思うものだったら、やるべきかなと思うけどね。」
なぺ「はい。」
山口「あと、人間関係だよね。どの職場でも。多分、好きなミュージシャンに付いたらそのミュージシャンのことを嫌いになると思うね。」
山上「うーん。あとは、好きなミュージシャンを自分で作っていくっていうのがありますからね。例えば、サカナクションが好きっていうのがあっても、サカナクションにつくんじゃなくて、新人を見つけてやるのがいちばん魅力的な仕事だと思います。」
山口「いろいろ聞いてきたけど、山口的に、なぺちゃんに合っている職業は……
“多分、マネージャー!”
なぺ「本当ですか!?」
山口「うん。ライブスタッフとも関わるし、プロモーションも関わる。レーベル的な作業もするし、今後音楽業界の流れを読み解くと、全てのことをマネジメント業務が担うと思うんですよ。グッズもやるし……全部やるから。けど、大変レベルで言ったら……富士山だね(笑)。富士山級の大変さはあると思う、人生の。」
なぺ「エベレストじゃないならいいです。」
山口「ミュージシャンによるよ(笑)。けど、徹夜明けで歌詞ができたってスタジオに飛び込んできて歌録りして、それが世の中のラジオで流れる瞬間は体験できるよね。一緒に泣いたり笑ったりはすごいすると思うよ。やっぱりもう……相当ですもんね。」
山上「そうですね。」
山口「お父さんお母さんは、体のこととか心配だと思うし、働き方改革とかもあるけど、僕はね、自分が好きで自分が好きなようにやれる業界が良いと思うけど。5時で帰りたいなら帰れば良いし、もっとやりたいんだったらやれば良いしって思う。業界自体が過渡期だから、自分が入ったところで変わっていくことも出来るし、自分が変えていくチャンスがある業界かなとは思う。」
山上「うん。本当に何がしたいのか、どういうことを成し遂げたいのかっていうのを真剣に考えてもらった方が良いような気がしますよね。」
山口「そうだね。……大丈夫かな?これで。」
なぺ「はい!」
山口「就職活動、頑張って下さい!」
なぺ「ありがとうございます!」
山口「それじゃあ、またね。」
今回の授業も終了の時間になりました。
山口「今回は、なぺの職業相談でしたけど、音楽業界はレーベルとマネジメントっていうものがあって、ミュージシャンはそれに所属しているんだよって話をしました。今は、インディペンデントでやって、サブスクリプションをメインにやっているミュージシャンもたくさんいるので、その業務形態だけじゃなく、新しい形がどんどん生まれていくと思うんですね。調べていくとそういうところにたどり着けると思うんですけど。さっき電話でもなぺに言ったけど、分からなかったら直接聞くっていうのが早いですよね。なかなかその勇気はないかもしれないけど。僕は、マネジメントに一番大事なのは、愛がなきゃいけないと思うんですよ。例えば、ファンとしての愛でも良いし、音楽に対しての愛でも良いけど、入り口には絶対に愛がないと続かない仕事なので。ミュージシャンのお父さんお母さんみたいな存在なので。ましては、地方から出てきた若手のバンドとかになると、支えがマネージャーしかいなくなるから。なので、愛があればいいのかなって思っていますけどね。分からなかったら直接聞いたり、サカナ掲示板にメッセージをくれれば答えていきたいと思いますので、お悩みのある生徒は書き込みください。」
「さて、来週のサカナLOCKS!ですが、昨年行われたサカナクションのライブツアーのライブ音源をお届けしたいと思います。僕、サカナクションだから、サカナクションのライブを観たことがないんですよ……当たり前なんだけど(笑)。だから、サカナクションのライブをみんなと一緒に観たいなと思ってさ。聴くって感じなんだけどね。テクノロジーの進化に伴ってそれが可能になった感じを出せたらと思う。あと、サカナクションの激レアパーカーをプレゼントします!今、中国の生産がストップしていて、数を作れなくて激レアになっている、"834.194パーカー"っていうのがあるんですよ。ふふふ(笑)。それをプレゼントしちゃおうかなって思っているので、楽しみにしていてくれたまえ!」
聴取期限 2020年2月21日(金)PM 11:27 まで