山口「(小さめの声で)……はい。授業を始めますから、席に着いて下さい。マンガを読んでいる生徒は、マンガをしまいなさい。Twitterを開いている生徒は、Twitterを閉じなさーい。Instagramも閉じなさーい。授業が、始まりますよ……。今日の授業ですが、ちょっと怖いのが苦手な人は……授業を欠席してしまうかもしれません……ふふふ(笑)。でも、出席してください。まずは、黒板書きます……。」





「ふふふ……(笑)。今夜は、夏の怖い音源特集をお届けいたします。どういうことかと言いますと、曲に本来だったら入っていないはずの不思議な声……いわゆる、幽霊さんの声っていうのが聴こえる曲が、世の中にはいくつも、いくつもございます……。例えばボーカルの後ろで、不自然な所で「恨んでやる……！」って声が入っていたり、ギターの後ろで、「釣りがしたい……釣りがしたい……」みたいなね(笑)。いろいろあるわけですよ。ただ、CDとしてリスナーの耳に届くまでには、何度も何度もミュージシャンやエンジニアさんがその音源を聴いているわけです。先生も毎回聴いていますよ。レコーディングもいろんな過程があって曲が出来上がっていますからね。それなのに……」

「……なぜか入っちゃったんですよね。」

「ふふふ(笑)。今夜は、そんな都市伝説のような怖い音源たちを紹介したいと思いますが、その怖い音源たちをわたくし山口一郎が、ミュージシャン目線で一体何の音なのか、真面目に検証していきたいと思います。リアルに先生もそういった現象がレコーディング中に起きたことがあります。けど、よくよく聴くと、ハイハットのノイズだとか、いろんな音が重なって声に聴こえちゃってるんだっていうのが分かったことがあったので。ただ、分からなかったものは……それは、幽霊さんとします。ふふふ(笑)。その辺は、みんなと一緒に検証していきたいと思います。」

「それではまずは、中島美嘉さんの「LIFE」。2008年にレコーディングされた音源です。1分17秒あたりに、女の子の声で「お母さん……」と入っているらしいです。これは一体何なのか、ミュージシャン目線で検証してみたいと思います。それでは聴いてみましょう。」


■ 中島美嘉「LIFE」

「……あれ？……あー。今、リズムに合って聞こえたやつですかね。……はい、はい。聞こえました、聞こえました。結構周波数的には高い所で「お母さん」って言ってるやつですね。これはミュージシャン目線でお話しさせていただきますと、先生はこれを、幽霊だとは……」

「思いません!!!」

「……多分、ボーカルにかかっているディレイ、ないし、コーラスかな。そのディレイ音が残っていて、それが重なっていることで、高い帯域がびゃっと出ちゃっているんですね。そこがリズムと合わさって「お母さん」って聞こえるのかなと思います。これはね多分、普通にお化けではないと思います。幽霊さんではありません。生徒諸君、安心してください。これはボーカルのディレイ音。」



「続きまして、ケツメイシさんの「歩いてく」という、2005年の曲です。イントロの18秒くらいのところに、女の子が「お兄ちゃん……」と言うらしいですね。それでは聴いてみましょう。」


ケツメイシ「歩いてく」

「聞こえましたね。もう一回聴いてみましょうか。……聞こえましたね。生徒諸君、もう一回聴いてみましょう。……はい。じゃあ、その声の部分をEQで持ち上げて聴いてみます。……はい、はい、はい。聞こえてますね。もう少し前から聴いてみてもいいですか？(イントロから聴いて)……うーん……確かに「お兄ちゃん」って聞こえますね。……うん、聞こえますね、確かに。前半に入ってきているピアノの音とはレイヤー感がちょっと違いますね。しかもステレオで入っていますね。ギターの音色にちょっと近い感じでの距離感で入っているということは、ギターをレコーディングしたのは多分アンプから出ている音をマイクで拾って録っている、と。で、歌が入っていない部分なので歌が入っていない所でマイク(のスイッチ)をONにしていることはないんですよ。必ず切るので。だからボーカルマイクではない。多分、エレピ(電子ピアノ)はスピーカーからではなく、ラインレコーディングといって、ミキサーに直で音が伝わっているので、その可能性はない。音の感じの距離感としては、ギターに近いのでギターの裏で鳴っているような気がしますが、ギターって録るときは超爆音なんですね。マイクで録る時。個室にギターを置いて、わーっと録るんですね。なので……ひとつ可能性があるとしたら、ケツメイシさんがどうレコーディングをしているかは分かりませんが……この可能性は非常に低いですが、ギターから、アンプまでの間に、シールドといってケーブルで繋ぐんですけど……こんなことは多分ないと思うんですけど、絶対にないけど、ライブとかで使うワイヤレスをもし使っていて、ワイヤレスなので、電波なんですよ。そこに紛れ込んで入ってきた、みたいな可能性はあるけど……。でも、ケツメイシさんの2005年って、結構大ブレイクですよね？なので、レコーディング予算はあると。しかも、CDがたくさん売れていた時代なので、ものすごくかかっているはずなので、ワイヤレスでギターを録るなんてことはまずない。だけどもう1個可能性があるとしたら、アレンジャーがいるとしたら、アレンジャーさんが録る時に音源として混ぜちゃっていて、それが入ったって可能性もあるけど、それも考えにくいかな。……それをふまえて、もう一度だけ聴いてみましょう。」

「……うーん。ギターっぽいけど……、これは……先生にも、分かりません。これを解明するには、ケツメイシさんのマネージメントに言って、ステムをもらうしかありません(笑)。生徒諸君、ステムって分かるか？レコーディングをしたときのバラバラのデータだぞ。いろんな音が重なって音源になっているわけだが、2ミックスって言って(L＋R)2チャンネルにまとめられているが、まとまっていない音源をもらって検証すれば、先生は分かると思う。だからこれに関しては……」

「分からない……！」



「次は、映画『バックドラフト』のサントラ。『バックドラフト』って消防の、海外の映画ですよね？それのサントラに、男の子の声で「助けて……」って入っているらしいんですけど、これ海外の映画なのに、海外の映画のサントラなのに、日本語で「助けて」って入っているのは一体どういうことかと。1分18秒あたりに、男の子の声で「助けて……」。ちょっと、聴いてみましょう。」


映画『バックドラフト』サウンドトラックより「Burn It All」

「……聞こえましたね。もう一回聴いてみましょう。……確かに「助けて」って声が聞こえますね。もう一度聴いてみましょう。……聞こえましたねー。……でも、先生、これ分かっちゃったぞー。先生、この「助けて」の謎、解明いたしましたね。先生なんと、10月3日から公開されます、映画『バクマン。』　の主題歌だけではなく、劇中音楽も担当したということで、この『バックドラフト』のサントラがどう作られているか、いろいろ分かってきちゃったりするわけですね、経験者は語る。多分ですけど、映画のサントラを専門に作っている人がいたり会社があったりするわけです。ハリウッドくらいになると、結構デカめの会社が担当して作るわけですね。そういう会社って、いくつも、いくつも、いくつもサウンドトラックを作っているわけですよ。となると、依頼があったときに、データとして自分たちの会社で作ったものを使い回す可能性があります。例えば、炎なら炎の(音源だけをまとめた)フォルダが多分めっちゃある。ストリングスの盛り上がる部分……とかだったら、そういうフォルダがいっぱいある。あと、音を埋めるためのパット素材みたいなものが、ばーっとあったりすると思うんですよね。それをいろいろ重ねてこういう映画は作られていると思うので、いくつも素材を使っていく中に、かつて日本の映画のサントラを作ったことがあって、その中の音をこの映画の音に足したと。そこに日本語が入っていたんだけど、外国人の方だから日本語が分からないと。だから、音としてしか聞こえていなくて、そのまま採用したって可能性は考えられませんか？……どうでしょうか、この読み。多分ありえますよね。もしこれが本当に「助けて」っていう日本語の声が入っているとするならば、いろんな帯域での重なりで声に聞こえちゃってるのではなく、声が本当に入っているんだと。可能性としては、それしか考えられません。……しかし。しかしですよ。もしそうじゃなかった場合……」

「先生には、分かりません……。」



「ふふふ(笑)。怖ーい、怖ーい、サカナLOCKS!……。」

今回の授業も、終了の時間となりました。

「今日は夏の怖い音源特集をお届けしてきましたが、サカナクションの音源の中にもね、実は怖ーい、怖ーい声が……入っているんですね……。あぁ……。今、後ろで流れているこの曲……の中に、怖ーい、怖ーい……はっ……！」


サカナクション「Ame(B)」