京都・大原の築100年の古民家に住む、ハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさん。四季を通じて約200種類のハーブを庭で育て、植物とともに里山暮らしをされています。
ミモザ咲く春の古民家
今月のボタニストは、母国イギリスと日本、それぞれの自然とボタニカルな文化を愛する、ベニシアさんのライフスタイルをご紹介します。
植物がくれた宝もの
11月、秋が一段と深まった京都・大原。ベニシアさんの自宅のハーブガーデンでは、ミントの葉が青々と茂り、ローズマリーが花を咲かせています。ベニシアさんにとってハーブは、ガーデニングの楽しみであるとともに、毎日の生活に欠かすことのできない必需品。イギリス出身のベニシアさんは、大原の自然と伝統的な日本家屋に憧れ、1996年に古民家に移り住み、里山の暮らしを始めました。忙しさから体調を崩し、不眠症に悩まされていたときに思い出したのが、母国イギリスで幼い頃から効用を学んだハーブの存在。故郷イギリスから体に良いとされるハーブの種を取り寄せたり、ご近所の人たちに日本の薬草や山野草を教えていただいたりしているうちに、ベニシアさんにとってハーブは、自身の心と体、生活を支える存在となっていったのです。
春の庭でハーブを摘むベニシアさん
たとえば、春。春の七草のはこべとパセリ、サーモンを使ってディップをつくります。ビタミンとミネラルが豊富で、子供たちも喜んで生野菜を食べてくれます。
はこべとパセリとサーモンのディップ
ミントゼラニウムと花を飾ったチョコレートケーキは、まるでフラワーガーデンのよう。紅茶との相性も抜群です。
ミントゼラニウム・チョコレートケーキ
大原名物の柴漬けにも使われるしそは、平安時代からこの地で栽培されており、夏には大原の景色が赤しその色に染まるほど。赤しそと青しそで作ったまろやかな香りとさっぱりした酸味のジュースは、見た目も美しく、飲むと心と体がすっと落ち着くそうです。
赤しそと青しそで作るしそジュース
そして、バラの花びらで作るイギリスの伝統的な発酵ポプリ。ダイニングルームやキッチンの床に置いて、香りを楽しみます。
バラの花びらのポプリ
植物に触れ、植物を摂ることで得られる毎日の充実感は、ベニシアさんの宝ものとなっています。
ベニシアさんの庭に込めた思い
ベニシアさんは1950年、イギリス、ケドルストンホールの伝統ある貴族の家に生まれました。ただ、貴族の暮らしや慣習に馴染むことができず、瞑想を学ぶ中で東洋の思想に魅せられ、19歳のころインドを旅します。そして、たまたま出会った日本の音楽に惹かれ、71年に来日。日本の里山の自然や風土に魅せられ、京都・大原での古民家暮らしを始めました。ベニシアさんがハーブを育てるようになったのは、かつて暮らしたイギリスの屋敷の庭で遊んだ記憶や、庭で収穫したハーブや花のある暮らしが忘れられなかったからでもあります。イギリス式の庭に丁寧に植えられたかわいい花や野菜やハーブ。大原のベニシアさんの家の庭は、幼い頃、ベニシアさんが心から望んだ家族の温もりを感じる場でもあるのです。
お気に入りの場所で本を読むベニシアさん
ベニシアさんは、ハーブを植えた庭に面した縁側で、季節ごとに表情を変える庭を眺めながら過ごします。そんな時に思い出すのは、幼い頃に暮らした故郷イギリスの野山の風景。大原の景色や庭のハーブを通して、自分が故郷イギリスの自然や家族ともつながっていることを感じることができるとおっしゃいます。
TOKYO FM
「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。
また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送している
ノエビア「Color of Life」。11月24日は、作家、エッセイストの下重暁子さんを迎えてお届けします。どうぞ、お聞き逃しなく。
ベニシア・スタンリー・スミス(Venetia Stanley-Smith)
ハーブ研究家。1950年、貴族の館で知られるイギリス・ケドルストンホール生まれ。京都大原の古民家に暮らし、78年から英会話学校をはじめ、「ベニシア・インターナショナル」を設立。その後、ハーブガーデンを作り始め、手作りの暮らしを実践。ハーブやガーデニングに関する記事を雑誌や新聞に執筆し注目を集める。著作は、『ベニシアのハーブ便り〜京都大原の古民家暮らし』(世界文化社)など。
全写真:『ベニシアのハーブ便り〜京都大原の古民家暮らし』(世界文化社)より 撮影:梶山正