日本各地の農業の現場から川瀬良子がお伝えする「あぐり紀行」。
今回、川瀬さんからのリクエストもあって向かったのは山形。
実は「あぐりずむ」の制作現場には、“山形ラテン説”という言葉があります。
長年、各地の生産者さんに電話インタビューを行う中で、
山形の生産者さんに電話を繋ぐと、ほぼ10割の確率で性格が陽気!
「本当にそうなのか…?」 半信半疑で訪れた山形で出会ったのは、ひときわパワフルな生産者さんでした。
まだ日差しも暖かさを残す秋空の下、
出迎えて下さったのは、
山形県天童市のリンゴ生産者・平田洋さん。
JAてんどう果樹部会りんご部の部長さんでも
いらっしゃいます。
デニムのつなぎにオレンジ色の長靴。
随所に冗談を交えては、豪快な笑い声が広大なリンゴ畑に響き渡ります。
「誰も聴いている人いないので!」と言ってまた大笑い。
そんな平田さんのお歳を伺うと、なんと59歳!「若さの秘訣は、やっぱりリンゴですか?」と聞いたら、
「リンゴあんまり食べないですね〜(笑)…肉かな」。
そこでまた大爆笑!ハッピーオーラ全開のりんご部長さんです。
平田さんのリンゴの木…とても不思議な姿をしているんです。
普通、枝は上向き、もしくは横に広がって上に向かうイメージだと思うのですが、なんと下に垂れ下がっています。
そして頭の上から腰の下あたりにかけて、リンゴの実がついています。
これが、このリンゴ「サンふじ」を育てるのに平田さんがベストだとお考えの栽培法「ぶら下げ式」。
枝が上向きだと、木は栄養を枝の先へ先へ送ろうと上に押し上げるため、
下側の枝に栄養が充分行き渡らなくなるのですが、
このやり方ならそれぞれの枝に栄養が均等に下がっていくので、どのリンゴも美味しくなるんだそうです。
そうなるように毎年それぞれの枝を整え、この枝のこの芽に実をつけさせようと狙いを定めて手入れを行います。
更に実がついたら、全体が赤く色付くように、まず葉を落とし、
一個一個の実を180度ずつ向きを変えてあげながら、両側を陽に当ていくことを繰り返すんだとか…。
平田さんのリンゴ畑の広さは約1500㎡。
繁忙期以外は、奥様と二人でこの畑を管理されているとのこと。
私たちには気が遠くなるような作業を毎年続ける平田さんには、ヤッパリ“肉”が必要だな〜と思いました。
ところで、リンゴ農家さんは冬もまた忙しいってご存知ですか?
収穫が終わって冬が来ると、そこから始まるのが木の剪定。
一本一本の木を理想の形に仕上げる作業が、一面雪景色の中、なんと3ヶ月以上も続きます。
これが次の秋の収穫を決めるのですから決して手を抜くことはできません。
静まり返った雪原で黙々と行う作業は大変じゃないんですか?と尋ねたら、
「ラジオ聴きながらやってるから、全然ツラくないよ」と平田さん。
ラジオが農作業のお供をさせて頂いている…という話を各地で本当によく耳にしますが、ご愛聴、心より感謝です!
こうして冬から秋まで休む暇もなく続く平田さんのお仕事。
(事実、年に一回、一泊二日の温泉旅行が唯一の休日だとか…)
天童市の冬の気温は、大体マイナス5〜6 度くらい、寒波が来ればマイナス10度を下回ります。
一方、フェーン現象にも見舞われる夏は40度クラスの暑さと向き合います。
しかし、この気候こそが美味しい農作物を作る上で大切なんだと平田さんが教えてくれました。
冬は寒く、夏は暑い盆地特有の気候。
そんな山形の中心にあるのが天童市。
寒暖差約50度の風土が地域に豊かな恵みをもたらしてくれるのです。
実は、リンゴだけでなく桃やサクランボなども生産されている平田さん。
「美味しい果物が穫れる場所は全国各地に色々あるけれど、
山形にはリンゴも桃もサクランボもラ・フランスもある。
よそから来た人から、山形はホントに欲張りだぁ〜って、よく言われます」…と、
大笑いがまたリンゴ畑に響き渡りました。