観光旅行もいいけれど、旅のスタイルはそれだけではありません。
近頃はオーバーツーリズムも気になって、せっかくの休みに敢えてまた人混みに?
そんなこの時代にこそ体験して欲しいのが「農泊」です。
例えば「旅行」と「キャンプ」が全然違うように、農泊もまた、そのどちらとも違うもの。
今までに味わったことがない旅の感動を、農泊で体験してみませんか。
私たちが取材現場に到着すると、早速「和牛鍋」を作るイベントがスタート。
大分牛とたくさんの野菜を大鍋で煮込み、
すき焼きのような味付けで食べる地域の名物料理です。
川瀬さんもエプロンを取り出し、すぐその輪に加わりました。
まずは大量の白菜を大鍋に投入!
すでに炭火で熱々の鍋からジュ〜っと大きな音が上がります。
続いて菜箸で白菜を混ぜていく…のかと思いきや、
なんと参加者の一人・時枝仁子さんが素手で白菜を混ぜ始めました!
このまさかの光景に川瀬さんも一瞬呆然…。
その後、大根やニンジン、ゴボウ、里芋などが次々と投入され、
あっという間に大鍋がいっぱいになっていきます。そして牛肉が!
…あっと!ここで、時枝さんが再び素手で鍋に入った肉をほぐしていきます。
目を疑うような時枝さんの“大技”が繰り出される一方、
他の皆さんもワイワイガヤガヤと言葉を交わしながら、鍋作りが進みます。
「けむって、かすんで、みんながキレイに見える〜」
「採れたて、新鮮を食べるから、元気!キレイ!これ田舎の特権!」
「水を全然使ってないでしょ。具材の水分だけで作るから美味しくなるの」
とにかく皆さん賑やかで元気。大笑いする川瀬さんとも、すぐ仲良しに。
和牛鍋が完成すると、いつの間にか会場の人数も増えていて、
他にも用意して下さった地元グルメてんこ盛りのランチタイム!
取材に伺って、「まずはご飯から!」…というのは初めての体験です。
さすが農泊発祥の地☆
おもてなしレベルの高さと、仲良くなるスピードの速さに驚きました。
そんなここ安心院町で農泊文化を誕生させたのが、
安心院グリーンツーリズム研究会の会長・宮田静一さん。
西日本有数のブドウ産地と言われる安心院町で
ブドウを生産する農家さんでもいらっしゃいます。
宮田さんが農泊を始めたのが30年前。
以来、この安心院町に農泊を普及するため様々な力を尽くしてこられました。
その一つが「大分・安心院グリーンツーリズム実践大学」。
(下の写真中央にも、その名称が掲げられていますね)
地域で農泊を営む皆さんを集めて、提供する料理の勉強会はじめ、
安心院町の農泊クオリティーを向上する取り組みを行っています。
農泊と聞くと、「農家さんが暮らす一般のお宅に、ただ泊まりに行く」
というようなイメージを持つ方も、ひょっとしたらいるかも知れません。
しかし安心院町では、プロのホスピタリティーで宿泊客を迎えるため、
こうした研鑽を皆さんが日々積んでいらっしゃるんです。
だから、「安心院町ならではの農泊の特徴は?」という私たちの質問に、
宮田さんはこう即答されました。
「みんながシッカリと勉強していることです」
実は宮田さんによると、農泊を始めるまで地域の中には、
田舎暮らしに対する不満や閉塞感の声もあったそうです。
でも、宿泊に訪れる人々が、安心院町の自然の素晴らしさや、
農業に支えられた暮らしの豊かさに感動している姿と接するうちに、
意識が変わっていったと言います。
その結果が、和牛鍋イベントで見た活気溢れる様子なのかも知れません。
「観光地を回って楽しむ旅もあるけど、農泊は人と楽しむ時間を味わって欲しい」
そう宮田さんは語ります。
だから、日本各地で農泊について話す機会がある宮田さんは、
「うちの村には何もないし…」と言われた時、
「とんでもない、あなたがいるじゃないか」と答えるそうです。
宮田さんの話の中で、もう一つ印象的だったのは、
「農泊は、何かを体験しなければいけないと誤解されている」
という言葉でした。
農業体験、自然体験、料理やモノ作り…etc。確かにそれらも体験可能です。
でも、「ぜひ農泊では、何もしないことをして欲しい」とのこと。
ご自身も東京で暮らした経験があるだけに、
自然がいっぱいの田舎で何もせずに過ごす時間が、
人生の中でどれだけ特別で、贅沢なのかがよく分かると仰っていました。
そして一度これを体験すると、もう一度してみたくなるんだとか。
農泊はリピーター率がとても高いことも特徴なんだそうです。
取材に伺ったのは、紅葉鮮やかな晩秋でした。
美しい自然の風景、農家さんが心を込めて育てた美味しい食材、
そして笑顔と真心が溢れるおもてなし。
これらだけに身を委ねて過ごす豊潤な時間。
それこそ正真正銘の贅沢です。
行列や人混み、積み上げたスケジュール、そして検索検索検索…。
そういう旅を一回パスして、ぜひ「農泊」に足を向けてみて下さい。