金沢の地に生まれ、受け継がれてきた加賀友禅の花鳥風月の世界。加賀五彩といわれる色調や写実的な草花文様で表現される加賀友禅には、自然のありのままの姿と季節の移ろいが映し出されています。
今月のボタニストは、加賀友禅の伝統と魅力を様々な作品を通じて未来に繋げる、毎田染画工芸三代目・毎田仁嗣さんの創作に込めた思いをご紹介します。
加賀友禅に溢れる自然美
加賀友禅は、17世紀後半に金沢に生まれ、受け継がれてきた染色技法です。自然の美しさを独自の技法で表現し、着物のデザイン等に生かしてきました。京友禅が華美で雅な趣きであるのに対し、当時の文化を司った加賀藩の武家社会を背景にした加賀友禅は、落ち着きのある写実的な趣向を持っています。そこに描かれてきたのは、ありのままの金沢の自然や風土、文化そのもの。写実性をより高めるため、花びらや葉を外側から内側にぼかして描き、虫が葉っぱを食べたように表現する病葉(わくらば)と呼ばれる「虫食い」の技法を用いて、自然美を描き出しています。「臙脂(えんじ)・黄土・藍・草・古代紫」の加賀五彩を基調に、朽ち消えゆく自然の美しさと、この世の無情を見つめる眼差しが息づいているのです。
「虫食い」技法を用いた黒留袖
加賀友禅と生きるよろこび
加賀友禅の制作過程では、生地に青花という露草の花の汁で、模様を線で描いていきます。変わることのない伝統の手法で描かれる絵柄や文様は、自然と向き合って生み出されたもの。毎田染画工芸の創始者毎田仁郎(まいだ じんろう)氏は、自然の景色、生命の姿を何日もかけて観察し、自身が直接目にしたものをもとに創作に打ち込んできました。二代目の毎田健治氏も、季節ごとの実や果実など身近にある自然の美を題材に数々の名作を生み出し、三代目の毎田仁嗣さんも、地元金沢に咲く伝統的な花々である、牡丹、椿、山茶花、梅、菊などを題材にしながら、自然の生命の輝きや鼓動を意匠に込め、美しさを追い求めています。
加賀友禅には図案起こしから仕上げまで、15もの作業工程があります。文様を生地に描き出し、色を入れ、染料を定着させ、水洗いの後、乾燥させます。仕上げに近い水洗いの段階は友禅流しといわれ、以前は金沢の風物詩ともなっていました。多い時には120色以上の色調を使用し、着物としての出来上がりを想定して描かれるため、仕立てられた着物にはまるで1枚の絵画のように、四季の物語と自然の命が宿るのです。毎田染画工芸では、加賀友禅を日常生活に取り入れて楽しく使っていただきたいという思いから、着物だけでなく、風呂敷、スカーフ、名刺入れなどの小物からフロアライト、友禅パネルなどのインテリアを「楽友禅」として展開しています。日本文化や伝統を守り続けるため、技術を継承しながらも、時代に合わせて新しい挑戦をしているのです。
名刺入れ
「召しものを通して着る方のハレの日に関わることができる、それが友禅とともに生きる喜びです。さらに、加賀友禅を身近に置いていただくことで、女性の立ち居振る舞いの美しさをさらに引き出す存在になれたら嬉しい。自然そのままの美しさが描かれた加賀友禅の魅力を広く発信し、より多くの方に楽しんでもらいたい。日本ならではの自然の鼓動、四季の輝きを日常の小物にも取り入れていただくことで、もっと心豊かな毎日をお届けしたい」。毎田染画工芸三代目・毎田仁嗣さんの創作に込める思いです。
毎田さんが加賀友禅を未来に繋げる新しい試みをされているように、日本の伝統文化である「書」を新しい表現手段とするため、さまざまな挑戦をされているのが、書家・紫舟さんです。「書」を平面から解放した立体彫刻「翔」をはじめ、絵と文字を融合させた書画、浮世絵の輪郭線を彫刻で立体化した作品など、時代を創造する唯一無二の作品を、ノエビア銀座ギャラリーで見ることができます。
紫舟展「書、立体への挑戦」
会期:開催中〜6月8日(金)まで
開催時間:午前10時〜午後6時(土・日・祝日は午後5時まで)
会場:
ノエビア銀座ギャラリー 入場無料
主催:株式会社ノエビア
TOKYO FM
「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。
また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送している
ノエビア「Color of Life」。3月24日は、「この春、あなたの背中を押す、先輩からの珠玉のひとこと集」と題し、これまでゲストにお越しいただいた方々の印象深い言葉をご紹介します。どうぞ、お聞き逃しなく。