アメリカ、ニューヨークを代表するランドマーク、ロックフェラー・センター。毎年ここに据えられ世界中から注目を集めるのが、高さ20メートルを超える、世界最大級のクリスマスツリーです。 ニューヨークのクリスマスの象徴とも言えるこの巨大なツリーの輝きの裏には、伝統と緑を守るガーデンチームの活躍があることをご存知ですか?
植物と素敵に関わる人を紹介する「ボタニスト」。今月は、ニューヨーク・ロックフェラー・センターのクリスマスツリーを巡る物語です。
シーズン到来を告げる希望のツリー
マンハッタンの観光、ビジネスの中心地であるロックフェラー・センター。ここに巨大なクリスマスツリーが運ばれてくると、ニューヨークは本格的なクリスマスシーズンを迎えます。最初にこのロックフェラー・センターにクリスマスツリーが立てられたのは、世界大恐慌直後の1931年のこと。センターの建築現場だった場所に、高さ6メートルのツリーを立てたのが最初と言われています。点灯式が正式に始まったのはセンターの一部が完成した1933年からで、それ以来、明るい未来を祈る希望のツリーとして人々に愛され続けてきました。ツリーに使用する常緑樹が、「常緑」、つまり冬場でも葉を落とさず常に緑を保っていることから、力強さ、永遠の命、神の永遠の愛を象徴するという思いを込めて飾られます。
最高のツリーを探し続ける、ガーデンチームの一年
ニューヨークのクリスマスの象徴として立てられるロックフェラー・センターのツリーは、このセンターの緑化を管理するガーデンチームが選び抜いた、一年で最高のもみの木です。選ばれるツリーの条件は、高さ20メートル以上、幹の周囲が14メートル以上あること。そして丈夫で悪天候に耐え、数万個ものLEDライトを支えるため、しっかりとした枝振りであること、また、左右対称で形が美しいことも求められます。
ガーデンチームのスタッフは1年を通してこのツリー探しに奔走します。チームは6人体制で、ヘッドガーデナーのErik Pauzeさんはツリー探しのキャリア30年のベテラン。まず、飛行機やヘリコプターに乗って空から探し、候補になりそうな木を見つけると、今度は実際に訪れてその木を下からじっくり眺め、状態を見ます。ツリーが見つかるプロセスは、毎年それぞれで昨年は、持ち主が応募してきた写真がきっかけでした。最高の木を求めるためなかなか条件にあったものが見つからず苦労する年もあります。そのためチームのスタッフは、郊外の友達や家族に会いに行く時や旅行やドライブの時も常に周りを見回し、一年中いい木がないかを探しているのだそう。彼らにとって、クリスマスツリーを探すのは生活の一部のようになっています。
ちなみに、いい木は森の中ではなく普通の家庭の庭に植えられていることがほとんどで、今年飾られているツリーもニューヨーク州郊外の家の裏庭にあったもの。持ち主からニューヨークへのクリスマスプレゼントとして無償で寄付され、飾られた電飾はセンターの屋上に据えられたソーラーパネルの電気で、クリスマスシーズン毎夜輝き続けます。
クリスマスツリーが生み出す緑のサイクル
ツリーは見つけて、飾り付けて終わりではなく、翌年1月7日まで美しく保つことも、彼らガーデンチームの大切なミッションです。毎朝ホースで大量の水を足し、周囲を掃除し、雪が降れば除雪作業を行います。世界最大級のツリーは、チームの根気と体力に支えられているのです。そして、約1ヶ月に渡りニューヨーカーや世界中から訪れる人々を楽しませたあと、このツリーにはもう一つの大切な役割が残っています。第二の役割として、家を建てるための建材として再利用されるのです。被災地や恵まれない人たちのためにボランティアで家を建てる非営利団体「Habitat of Humanity」に寄付され、ニューヨークで幸せをふりまいたもみの木が、今度は「家」となって人々を見守ります。ガーデンチームは、誰かのために暖かい心を贈るというクリスマスのスピリッツを「もみの木」で伝え続けています。
ロックフェラー・センターは実は1つのビルではなくマンハッタンの48丁目から51丁目、5番街と6番街の間にある19のビル群。このエリアの緑を守り、管理するのもガーデンチームの大切な仕事です。一般公開していない歴史あるルーフトップ・ガーデンやプロムナードなど大小合わせて25のガーデンエリアを常に花と緑で綺麗に整え、春や夏には花のイベントを行うなど、 一年中植物を楽しむことができる街づくりに貢献しています。
「訪れた人がツリーを見て微笑みを浮かべたり写真を撮ったりするのを見るのが、自分にとって大きな喜び。世代を超えて続く素晴らしい伝統です。ロックフェラーセンターは、このクリスマスツリーのシーズンが終わると、イースターに備えてユリの花でいっぱいになります。ガーデンチームが支える花と緑の街並、一度は歩いてみてはいかがでしょうか」(Erikさん)
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