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『手紙から始まる物語。』
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マグマ学者の巽好幸さんと「和食」のお話

  • ON AIR
  • 2023/09/17

マグマ学者の巽好幸さんをお迎えして

写真 小山「今日は、僕のリクエストでゲストの方をお迎えしております。いま食べている和食が、ああいうものになった理由ってわかりますか? 出汁を取るとか、お刺身を食べるとか」

宇賀「なんだろう……そのあたりにあったから?(笑)」

小山「それも理由の1つかも知れませんが……その回答をくださる方をお迎えしています」
今回は、マグマ学者の巽好幸さんをお迎えしました。

宇賀「巽さんはジオリブ研究所所長で、神戸大学名誉教授ということなのですが、マグマと和食って関係しているんですか?」
写真 巽「私の研究がマグマを中心に地球の進化を調べておりまして、その過程で「食」が地球の変動、日本列島の変動と関係しているということに気がついたというところです」

小山「最初は地質学を研究されていて、いつ頃、食が入ってきたんですか?」

巽「私が30代後半くらいかな、京都にその頃住んでいて、馴染みの割烹屋さんとかに行っていたんですけども、『なんでこんなにおいしい料理を作れるんやろう?』と。実験と一緒やな、と思って、おやっさんに『なんでおいしくできるの?』と聞き出したのが最初ですかね。そうしていると、我々が知っている日本列島、日本のいろんな地形であるとか成り立ちっていうのが、非常に食材に関係しているというのにある時、気がつきました」
写真 小山「国土は狭いですし、食料自給率も高くはないじゃないですか」

巽「和食の魅力っていうものは、多様な自然と豊かな自然が育むものっていうふうに農水省のホームページにも書かれていますけど、でも、多様で豊かな自然って世界中にあるわけですよ。それは説明にならないなと思うわけです。たとえばということなんですけど、日本の基軸になっているのは、出汁文化ですよね。特に昆布出汁っていうのが非常に重要な要素になっていると思いますけども、昆布の出汁を上手く取れるというのは、実は軟水が非常に効いている。これは料理人の方もよくご存知かと思うのですが、じゃあ日本はなんで軟水なのかということ。そこまではどなたも考えておられないんですけど。それは日本が世界でいちばん、地殻変動が激しい、地震とか火山活動によって山ができている、高くなっている。実は300万年前から急に山国になり出したんですけども、山が高いために、降った雨水が急に流れてしまうので、いわゆるミネラル分を溶かし込んでいる時間がないわけです。それで軟水になるというのが地球科学的な背景です。ですから、出汁文化というのはまさにそういう火山とか地震の変動が育んだ、変動帯出汁文化と呼べると思います」

小山「硬水だったとしたら、日本料理は変わった可能性もあるんですか?」

巽「そうですね、昆布は硬水では膜を作ってしまって、上手くグルタミン酸が出ませんので、やはりイノシシとかそういうのを使ったスープになっていたんじゃないですかね」
写真 宇賀「硬水で、お肉を煮るとおいしくなるということですか?」

巽「そうです。臭みがとれるんですよね。お肉の獣臭さというのは血の臭さですけど、あれってタンパク質なんですよ。硬水はカルシウムが非常に多い水ですけど、カルシウムとタンパク質が結合して、灰汁ができるんです。灰汁を一生懸命、きれいに取ると、臭みがなくなって澄んだスープがとれる。ところが軟水だと、十分にその灰汁がとれないので、身によって臭みが残る。ですから、スープをとるには、硬水でないとダメです」

小山「食以外でも、地質学から見て、日本の文化に繋がっているものってあるんですか?」

巽「食と切り離して考えることはできないと思うんですけど、我々が育んできた日本人独特の精神性みたいなもの。倫理観と言っていいかもしれません。こういうふうなことも、実は変動現象に大きく左右されているなと、最近、富に感じるようになってきました」
写真 小山「倫理観というと、どういう?」

巽「無常観というとみなさんご存知だと思うんですけど、特に鎌倉時代に無常観がだんだん美化されて、はかないものこそ美しいという侘びを感じる日本人の美意識が生まれてきたわけです。無常であるということを受け入れる、美意識として受け入れることで、いろんな変動現象、特に地震とか災害、災禍に対してある種のあきらめを持ってしまう。あきらめを持つ代わりに美化しているわけなんですけど、そういう精神性が日本人には生まれているなというのは強く感じます。特にヨーロッパと比べるとそこが大きな違いで、いろんなことがそこから派生しているなと思うんですけども。よく言われますけど、災害が起こった時に日本では暴動が起きないと、よくヨーロッパやアメリカ、アフリカと対照的に言われますけど、これもある種自然から受けるもの、災禍というものは受け入れるという文化が染み付いているんだろうなと思っています。ただ、おそらくその時に、自然に対して怒りを持つのではなくて畏怖の念は持っているし、その畏怖の念と同時に我々はおいしいものをいただいている。普段、いただいている恵みに対して感謝をしている。感謝の対象でもあるので怒りの対象にはならないわけですよね」

小山「国によっては自然災害に対して、怒りを覚える国民性のあるところもあるんですか?」

巽「怒りというと言い過ぎかもしれませんけど、少なくとも一神教、たとえばキリスト教が広まっているヨーロッパでは、神から人間は自然を支配することを託されているわけです。ですから災害が起こったことは、ある種人間の責任でもある。人間がそれを何とかしないといけない、ということが、やはり日本人とはだいぶ違う感性だというふうには思います」

小山「先生にちょっと、個人的にうかがいたいんですけど……いま、大阪万博の食のパビリオンを準備していまして。そこでいちばん伝えたいのが、食に感謝をする。食を通して感謝の気持ちを育んでいくというのをテーマにしようと思っているんですけど、先生のお話を聞いたら日本人には通じるけれども世界の人にはそれってなかなか通じないんですかね?」
写真 巽「ある意味、宗教的な問題もあって通じない可能性はあると思うんです。ただやっぱり、そういう文化が日本で育まれてきたということに関してはすごく興味を持たれると。異文化なわけですよね、彼らからすると。いろんなミステリアスジャパンを皆さん感情をお持ちだと思うんですけど、その1つ、根幹となるところなのでこれは伝わると思うんです。なぜ我々は『いただきます』をするのか。感謝は畏怖の念の裏返しだと思うんですね。そのあたりはぜひお伝えいただければいいなと思います」

小山「ありがとうございます。やっぱりそこに火山が関係しているというのは考えたこともなかったので、目から鱗でした」
写真 宇賀「この番組はお手紙をテーマにお届けしているのですが、『今、想いを伝えたい人』に宛てたお手紙を書いてきてくださっているんですよね。どなたに宛てたお手紙ですか?」

巽「兼好法師、吉田兼好さんです」

小山「マグマと関係があるんですか?」

巽「いえ、マグマとは関係なくて、日本人の倫理観を大きく作られた方というふうに思っているので、兼好さんに少し物申したいことがある、というところございます」
写真 巽さんが吉田兼好さんに宛てたお手紙の朗読は、ぜひradikoでお聞きください(9月24日まで聴取可能)。

宇賀「今日の放送を聞いて、巽さんにお手紙を書きたい、と思ってくださった方は、ぜひ番組にお寄せください。責任をもってご本人にお渡しします。
【郵便番号102-8080 TOKYO FM SUNDAY’S POST 巽好幸さん宛】にお願いします。応募期間は1ヶ月とさせていただきます」

巽好幸さん、ありがとうございました!
写真 巽好幸さんの著書『「美食地質学」入門和食と日本列島の素敵な関係』もぜひお手に取ってみてください。

『「美食地質学」入門和食と日本列島の素敵な関係(光文社新書)』

皆さんからのお手紙、お待ちしています

毎週、お手紙をご紹介した方の中から抽選で1名様に、大分県豊後高田市の「ワンチャー」が制作してくださったSUNDAY’S POSTオリジナル万年筆をプレゼントします。
引き続き、皆さんからのお手紙、お待ちしています。日常のささやかな出来事、薫堂さんと宇賀さんに伝えたいこと、大切にしたい人や場所のことなど、何でもOKです。宛先は、【郵便番号102-8080 TOKYO FM SUNDAY’S POST】までお願いします。

今週の後クレ

写真 今回のメッセージは、東京都〈文京音羽郵便局〉石田実さんでした!

「私は2011年に転職し、そこから12年間、郵便局で勤務しています。 東日本大震災の発生当時、Webサイトに関わる仕事をしていたのですが、震災の影響でインターネットが機能しなくなっていく中、郵便局が被災地に手紙などを配達しているというニュースをテレビで見て、この会社はすごいと思いました。震災など、大変なことが起こった時には、人と人の繋がりが一番強いと感じたことで、郵便局で働いてみたいと思い、転職しました。 『石田さん今日いないの?』とお客さまに言っていただき、地域の方々に必要とされていることを感じた時に、郵便局で働いていてよかったなと思います。」
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