日本語学者の金田一秀穂さんと“言葉”のお話
- 2022/05/15
金田一秀穂さんをお迎えして
5月18日は「ことばの日」。今回の放送では今一度「言葉」について考えてみます。スタジオに、日本語学者の金田一秀穂さんをお迎えしました。
宇賀「金田一さんといえば、日本語の神様と呼ばれている金田一家の三代目ということで」
小山「国語の辞書にいつも“金田一”って書いてありましたもんね」
金田一「最近では探偵の方が有名ですけどね(笑)」
小山「よく、日本語という言語はものすごく難しくて、それを我々は話しているといいますけど、世界的に見るとやっぱり難しいんですか?」
金田一「いや、易しいですよ。発音なんか易しいですもん。子音と母音の組み合わせでしかないでしょう? とっても発音は易しいんですよ。僕のところに来たら、みんな1週間くらいで話せるようになりますね」
小山「金田一さんから見た、この地球上で難しい言語は何ですか?」
金田一「ロシア語じゃないかと。メインの言葉としてですよ、ニューギニアとかいろいろな言葉がありますから。身近にあるのではロシア語が難しいんじゃないかと。動詞がやたら変化するんですよね、人称とか。名詞まで変化するんですよ。“お茶”というのが、“彼女のお茶”だと“オチャッピ”とか、“私のお茶”だと“オチャッパ”とかどんどん変わっちゃう。人の名前も変わるわけですね」
小山「どういうことですか?」
金田一「“クンドウ”が“クンドウニ”“クンドウメ”とか“クンドウゴ”とか、どんどん変わって行っちゃう」
宇賀「それはもう覚えられる気がしないですね」
金田一「“スタジオに来た”という時にも、どうやって来たのかを言わなきゃいけないんですよ、ロシア語って。歩いて来たか、自転車に乗って来たか、電車かタクシーか……それを全部使い分けるんです。違う動詞があったりして。でもね、僕たちの言葉もそうで。“ある”っていうのはそうだって言うんです」
宇賀「ある?」
金田一「たとえば、“ここにハンカチがある”って言うでしょう。僕がもし置いて帰っちゃったら、“忘れていった”とか“置いていった”とかで、“ハンカチがある”とは言わないじゃないですか」
小山「確かに、言わないですね」
金田一「“お金が落ちている”って言うでしょう、“お金がある”とは言わないですよね」
小山「そうやって考えていくと面白いですね。それは感覚として理解しているっていうことなんですかね」
金田一「僕らは思わずそうなっちゃうんですよね。そこが面白いところですよね。意識が決定されるんですよね、言葉によって」
小山「(金田一さんの携帯電話を見て)その、先生の携帯と先生のイメージがあまりにも違うんですけど(笑)」
金田一「いいでしょう、これ。チェシャ猫です。『不思議の国のアリス』の」
小山「横にはキラキラしたものがついていますね」
金田一「娘が買って来てくれたんですよ、ディズニーランドで。チェシャ猫って良いんですよ。アリスが道に迷うんです、森の中で。右と左に分かれている分かれ道なんです。それで『どっちに行ったらいいの?』とアリスが聞くんです。そうすると、『お前は一体どこに行きたいのかにゃ?』と聞くんです。『わかんないのよ』と言うと、『じゃあどっちに行っても同じだにゃ』と答えるんですよ。……深いなあ、と」
宇賀「確かにその通りですよね」
金田一「どっちに行っても同じなんだから、どっちに行ったっていいんだよと答えるわけです」
小山「その、先生の“にゃ”というのは?」
金田一「ちょっと演出しました(笑)。わからないわけですよ、普通。この会社に勤めたらいいのか、この会社がいいのか、どっちに行ったらいいんでしょう、とかよく聞かれるんですよ、学生から。どうしたいわけ?と聞くと『わからないんです』と。そうしたら同じだよ、そこで迷っちゃいけないんだよ、と。もっと先のことで迷えよ、って」
小山「とりあえず行ってみることが大切なんですね」
金田一「アリスを書いたルイス・キャロルは頭のいい人だなあと思うんです」
宇賀「この番組はみなさんからいつもお手紙をいただいているのですが、手紙を書く時のコツを教えていただけますか?」
金田一「最近はコミュニケーションメディアがいっぱいあるわけですよね。それこそZoomとかね、リモートでいろいろ喋るじゃないですか。対面じゃなくなっちゃう。僕も授業が対面じゃなくてZoomだったりしているわけですね。そうすると何が伝えられないんだろう、何が伝えられるんだろうということはすごく思うんですね。結局、気配っていうんですかね。それがないんだなあと。僕らは言葉だけだったら通じるわけですよ、簡単にね。そこに気配があるわけじゃないですか。たとえばここに猫が1匹いるとしたら気配があるでしょう、言葉は一切発さないけど。それを伝えられるのがやっぱり本当に会って喋っている時のコミュニケーションだと思うんです。それがないんですよね。見えればいいやという形、それでは気配が通じない。言葉だけ、文字だけでやるとやっぱりメールみたいなのは気配が通じない。手書きというのはかなり違うんじゃないかと」
小山「気配が通じるんですね」
金田一「書いた人の気配なんですよね。それはなんとも言いようがないものなんだけど。それが通じると、人と人とがうまく繋ぎ合わさるのかな、と。ただ、理解しあえるか、うまくいくかというとそうもいかないんですけどね。理解しあうとかえって喧嘩になったりね。難しいですけどね」
小山「気配っていうのはわかりますね」
宇賀「今日は、『いま手紙を書きたい人』に宛てたお手紙を書いていただいているんですよね」
金田一「坪内稔典さんという俳句の方なんですけど。やっぱり坪内さんのような俳句の人、詩の言葉というのは、世界を広げてくれる人。言葉ができることの限界をもうちょっと広げてくれる。そういう気がするんですよ。僕らはみんな狭い井戸の中に住んでいるような気がするんですよね。井戸の中の蛙なんだ。それは言葉という壁で、狭い日本語の壁の中でなんとなく住んでいるんだけど、谷川俊太郎さんみたいな人が出てくるとそれをふっと広げてくれる。坪内さんの俳句は言葉の可能性が広がる、すごい俳人なんです」
金田一さんの書いたお手紙の朗読は、ぜひradikoでお聞きください(5月22日まで聴取可能)。
金田一さんが館長を務める山梨県の山梨県立図書館で、坪内さんのトークショーが7月23日に開催されるとのことです。こちらもぜひ、チェックしてみてください。
小山「山梨には何かご縁があったんですか?」
金田一「父親の別荘があったんですよね。死んで本を全部引き取ってもらったんですよ。助かったんです、本当に。そうしたら図書館に何かやって、と言われて。甲府の県立図書館で、立派な図書館なんですよ。阿刀田高さんも図書館長だったんですけどお辞めになって、私が後に入って。月に何度かゲストスピーカーをお呼びしているんです。小山さんも今度、ぜひ。おいしい果物とワインがあるので(笑)」
小山「ぜひ。ワインにつられて(笑)」
宇賀「今日の放送を聞いて、金田一さんへお手紙を書きたい、と思った方もいらっしゃると思います。ぜひ番組にお寄せください。責任をもって本人にお渡しさせていただきます。【郵便番号102-8080 TOKYO FM SUNDAY’S POST金田一秀穂さん宛】にお願いします」
金田一秀穂さん、ありがとうございました!
小山「国語の辞書にいつも“金田一”って書いてありましたもんね」
金田一「最近では探偵の方が有名ですけどね(笑)」
小山「よく、日本語という言語はものすごく難しくて、それを我々は話しているといいますけど、世界的に見るとやっぱり難しいんですか?」
金田一「いや、易しいですよ。発音なんか易しいですもん。子音と母音の組み合わせでしかないでしょう? とっても発音は易しいんですよ。僕のところに来たら、みんな1週間くらいで話せるようになりますね」
小山「金田一さんから見た、この地球上で難しい言語は何ですか?」
金田一「ロシア語じゃないかと。メインの言葉としてですよ、ニューギニアとかいろいろな言葉がありますから。身近にあるのではロシア語が難しいんじゃないかと。動詞がやたら変化するんですよね、人称とか。名詞まで変化するんですよ。“お茶”というのが、“彼女のお茶”だと“オチャッピ”とか、“私のお茶”だと“オチャッパ”とかどんどん変わっちゃう。人の名前も変わるわけですね」
小山「どういうことですか?」
金田一「“クンドウ”が“クンドウニ”“クンドウメ”とか“クンドウゴ”とか、どんどん変わって行っちゃう」
宇賀「それはもう覚えられる気がしないですね」
金田一「“スタジオに来た”という時にも、どうやって来たのかを言わなきゃいけないんですよ、ロシア語って。歩いて来たか、自転車に乗って来たか、電車かタクシーか……それを全部使い分けるんです。違う動詞があったりして。でもね、僕たちの言葉もそうで。“ある”っていうのはそうだって言うんです」
宇賀「ある?」
金田一「たとえば、“ここにハンカチがある”って言うでしょう。僕がもし置いて帰っちゃったら、“忘れていった”とか“置いていった”とかで、“ハンカチがある”とは言わないじゃないですか」
小山「確かに、言わないですね」
金田一「“お金が落ちている”って言うでしょう、“お金がある”とは言わないですよね」
小山「そうやって考えていくと面白いですね。それは感覚として理解しているっていうことなんですかね」
金田一「僕らは思わずそうなっちゃうんですよね。そこが面白いところですよね。意識が決定されるんですよね、言葉によって」
小山「(金田一さんの携帯電話を見て)その、先生の携帯と先生のイメージがあまりにも違うんですけど(笑)」
金田一「いいでしょう、これ。チェシャ猫です。『不思議の国のアリス』の」
小山「横にはキラキラしたものがついていますね」
金田一「娘が買って来てくれたんですよ、ディズニーランドで。チェシャ猫って良いんですよ。アリスが道に迷うんです、森の中で。右と左に分かれている分かれ道なんです。それで『どっちに行ったらいいの?』とアリスが聞くんです。そうすると、『お前は一体どこに行きたいのかにゃ?』と聞くんです。『わかんないのよ』と言うと、『じゃあどっちに行っても同じだにゃ』と答えるんですよ。……深いなあ、と」
宇賀「確かにその通りですよね」
金田一「どっちに行っても同じなんだから、どっちに行ったっていいんだよと答えるわけです」
小山「その、先生の“にゃ”というのは?」
金田一「ちょっと演出しました(笑)。わからないわけですよ、普通。この会社に勤めたらいいのか、この会社がいいのか、どっちに行ったらいいんでしょう、とかよく聞かれるんですよ、学生から。どうしたいわけ?と聞くと『わからないんです』と。そうしたら同じだよ、そこで迷っちゃいけないんだよ、と。もっと先のことで迷えよ、って」
小山「とりあえず行ってみることが大切なんですね」
金田一「アリスを書いたルイス・キャロルは頭のいい人だなあと思うんです」
宇賀「この番組はみなさんからいつもお手紙をいただいているのですが、手紙を書く時のコツを教えていただけますか?」
金田一「最近はコミュニケーションメディアがいっぱいあるわけですよね。それこそZoomとかね、リモートでいろいろ喋るじゃないですか。対面じゃなくなっちゃう。僕も授業が対面じゃなくてZoomだったりしているわけですね。そうすると何が伝えられないんだろう、何が伝えられるんだろうということはすごく思うんですね。結局、気配っていうんですかね。それがないんだなあと。僕らは言葉だけだったら通じるわけですよ、簡単にね。そこに気配があるわけじゃないですか。たとえばここに猫が1匹いるとしたら気配があるでしょう、言葉は一切発さないけど。それを伝えられるのがやっぱり本当に会って喋っている時のコミュニケーションだと思うんです。それがないんですよね。見えればいいやという形、それでは気配が通じない。言葉だけ、文字だけでやるとやっぱりメールみたいなのは気配が通じない。手書きというのはかなり違うんじゃないかと」
小山「気配が通じるんですね」
金田一「書いた人の気配なんですよね。それはなんとも言いようがないものなんだけど。それが通じると、人と人とがうまく繋ぎ合わさるのかな、と。ただ、理解しあえるか、うまくいくかというとそうもいかないんですけどね。理解しあうとかえって喧嘩になったりね。難しいですけどね」
小山「気配っていうのはわかりますね」
宇賀「今日は、『いま手紙を書きたい人』に宛てたお手紙を書いていただいているんですよね」
金田一「坪内稔典さんという俳句の方なんですけど。やっぱり坪内さんのような俳句の人、詩の言葉というのは、世界を広げてくれる人。言葉ができることの限界をもうちょっと広げてくれる。そういう気がするんですよ。僕らはみんな狭い井戸の中に住んでいるような気がするんですよね。井戸の中の蛙なんだ。それは言葉という壁で、狭い日本語の壁の中でなんとなく住んでいるんだけど、谷川俊太郎さんみたいな人が出てくるとそれをふっと広げてくれる。坪内さんの俳句は言葉の可能性が広がる、すごい俳人なんです」
金田一さんの書いたお手紙の朗読は、ぜひradikoでお聞きください(5月22日まで聴取可能)。
金田一さんが館長を務める山梨県の山梨県立図書館で、坪内さんのトークショーが7月23日に開催されるとのことです。こちらもぜひ、チェックしてみてください。
小山「山梨には何かご縁があったんですか?」
金田一「父親の別荘があったんですよね。死んで本を全部引き取ってもらったんですよ。助かったんです、本当に。そうしたら図書館に何かやって、と言われて。甲府の県立図書館で、立派な図書館なんですよ。阿刀田高さんも図書館長だったんですけどお辞めになって、私が後に入って。月に何度かゲストスピーカーをお呼びしているんです。小山さんも今度、ぜひ。おいしい果物とワインがあるので(笑)」
小山「ぜひ。ワインにつられて(笑)」
宇賀「今日の放送を聞いて、金田一さんへお手紙を書きたい、と思った方もいらっしゃると思います。ぜひ番組にお寄せください。責任をもって本人にお渡しさせていただきます。【郵便番号102-8080 TOKYO FM SUNDAY’S POST金田一秀穂さん宛】にお願いします」
金田一秀穂さん、ありがとうございました!
今週の後クレ
今回のメッセージは、岩手県〈陸前高田郵便局〉山本美保さんでした!「2022年4月18日(月)、街の中心部に陸前高田郵便局の新局舎が開局しました。2011年の東日本大震災以降、仮設の局舎で11年というのはやはり長かったように感じます。プレハブの局舎に、机と椅子と端末機を置いて営業していたので、ここから新たなスタートを切るという気持ちで頑張っていました。とにかく地域のお客さまが優しく、だからこそ復興に向かって進む力が出たのかなと思います。陸前高田市のみなさまに『寄り添う』というよりは、『一緒に、一緒に前に』という形で、自分には何が出来るのかを考えながら、日々過ごしています。」
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