名前も憶えていないクラスメイトが書いた読書感想文の一節を、なぜか明確に記憶しています。読んだことのないお話でも、切り取られたある部分はいつの間にかひとりでに、頭の隅っこに住みついていたりします。宮沢賢治とその作品の存在は、こんなふうにとても自然に私たち誰もの中に根付いていて、それってすごいことなのではないかとあらためて思うのです。賢治の作品で出会うきらきらしたものたちを子供は宝箱にそっと収め、それらに再会した大人は忘れていた宝箱の存在を思い出す。そんなふうに思いました。作品を手に取り、声に出す小川さんの表情のやわらかさ。数え切れないほどの本を読んできた小川さんでもやはり宮沢賢治は別格のようです。
(アシスタント:小山ジャネット愛子) |