里菜ちゃんが福島に戻って曲づくりをスタートしてから、わずか数日後。
なんと、早くも、里菜ちゃんのデモ(=最終的な完成曲になる前の仮楽曲のこと)が完成したとの連絡が山田先生のもとに。
突然の連絡を受け、早速、"山P" (山田プロデューサーのこと笑)が動く。
「じゃあ、今後のためのミーティングもかねて、直接会って、聴かせてもらおうかな……」
山田先生の“招集”を受け、急遽、里菜ちゃんは福島から上京し、東京のスタジオへ。
そう、2人の2回目の対面は、なんとスタジオ。
2週間も経たないうちの再会。
スタジオのドアが開く。
「あ、お久しぶりです、よろしくお願いします……」
「あ、どもども…」
「…………………」
「…………………」
まだまだ、相変わらずお互い、固い様子(笑)。
「…じゃ、じゃあ、一回、つくってきてくれた曲、聴こっか…」
重い空気を埋めるように、山田先生が話を進める(笑)。
とは言え、"今春" の完成というスケジュールを考えると、2人に残された時間は多くない。
早速、短い期間の中で里菜ちゃんがつくってきてくれた曲(この短期間に、なんと、数曲もつくってきてくれた!)を、2人でチェックしていく。
「………………」
「………………」
真剣な表情。合間にかわされた言葉は、わずかだけ。
2人はさらに、時間をかけて、全ての曲を、念入りに聴き込んでいく。
…と。その中に、1曲。
「これ…………」
山田先生に、特に引っかかった1曲が。
「……もう一回、聴かせてもらっていい?」
再度、"その曲" を2人で。
未完成のメロディーが、スピーカーから流れ始める。
里菜ちゃんが今回の話を受けてすぐさま書いた、まだ歌詞すら完成していない、生まれたての曲。
「まだ、全然、荒削りで、自分の中でも、まだまだ磨けるとは思っている曲なんですけど…」
「いい曲だね。本当に。グッときたよ。」
“未完成”のデモに、“何か”を感じた山田先生。
すかさず。
「この曲、今、ちょっと歌ってみてもらってもいい?」
※ ※ ※ ※
突然の展開。そう、ここは音楽スタジオだった。
ケースからギターを取り出し、マイクの前に里菜ちゃんが座る。
ギターをもった彼女は、19歳の少女から、一人のアーティストに変わる。
里菜ちゃんの声が、広いスタジオを埋め尽くす。
…………………
(やっぱり、これだ。)
里菜ちゃんが歌い終わると、しばしの静寂。
そして。
「この曲を仕上げていくっていうのはどうかな?」
「ハイ。お願いします…」
ハニカミながら、うなずく里菜ちゃん。
どうやら彼女にとっても、今回つくってきたデモの中で、特に思い入れのある曲だった様子。
早くも、“原型”となる曲が決まった。
2人はこれから、この "デモ" を元に、全く新しい音楽をつくりあげていく。
そう、これが、春に向かう2人の "始まり"。
曲がひとまず決定したあとも、息をつく間もなく、2人は具体的なイメージをつめて行く作業に取りかかる。
日本を代表するロックバンドのベーシスト。
最近は、全国でLIVE活動を展開している、福島在住のアーティスト。
2人が春までに逢える時間は、かなり限られている。
「普段、曲はどうやってつくっているの?」
「バンドってやったことある?」
「いつも、どんな音楽を聴いているの?」
「好きなアーティストは?」
雑談っぽい会話の中からもにも、山田先生が、"これから" のイメージを探る様子が見て取れる。
そんな中。
「時間もないし…じゃあ、ひとまず。」
おもむろに、山田先生がベースを持った。
「ちょっと、合わせてみるから、もう一回、頭から歌ってみて。」
!
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのベーシストと、閃光アーティストのセッションが始まった。
「じゃあ、もう一回。」
「ちょっとテンポを上げてみる?」
「キーも上げてみよっか?」
里菜ちゃんは戸惑う時間すらなく、必死でギターを弾き、歌い続ける。
―2人がスタジオに入ってから、あっという間に2時間が経っていた。
「ちょっと、休憩しよっか。」
※ ※ ※ ※
しばしのBreak。
さっきまで、ギターとベースであれだけ会話をしていた2人が、一気にただの人見知りに。(笑)
でも、雑談も少しずつ。
「アジカンさんって、どんなバンドに影響を受けているんですか?」
「洋楽だと、weezerとか…」
「……」
「あれ? weezerとか、知っている?」
「知らないです……」
なんだか思わずニヤニヤしてしまう、世代間の話とか。
あと、意外に、里菜ちゃんが古い音楽にチョー詳しいのが判明したり(!)。
ともあれ、一見、共通項が少なそうな2人(笑)も、"音楽" という、同じ色の光に導かれてここにいることが分かった十数分間の休憩タイム。まあ、まだ仲良くなったとは言えないけれど(笑)。
休憩明けは、再び楽器を持って、なんとなくの課題が見えてきたところで改めて、最終的なイメージなどの確認。
「……あと、ざっくりでもいいけど、"こうしてほしい" とかって何かある?」
「アジカンっぽさも出していただけたら…」
「多分ね、そうなっちゃうとは思うよ。おれも、自分の経験からしかできることはないから」
歌詞や曲の構成。お互いに細かい "宿題" を確認して、この日はタイムアップ。
スタジオを出る前。最後に里菜ちゃんが一言。
「あっ! そういえば…アジカン……好きです(笑)」
今さら! (笑)
でも、そっか。この2週間とスタジオでの数時間に、そんな余裕、なかったもんね。
「緊張する暇もないって感じで……今もまだ、何がなんだか分かっていないです。でも、これからこの曲がどうなっていくか、楽しみです。」
一方、この日、スタジオを出てからの山田先生。
「やっぱり、すごい才能だなって思いますよ。まだ、ざっくりとしたイメージしか見えていないですが、僕も楽しみです。」
なんて話に、続けて。
「実は今日、すごく緊張していました。やっぱり単純に、若い女の人と、2人きりで話すことって、あんまりないですから………」
2人はまだ、始まったばかり。
つづく