あなたのキレイと元気を磨く!「植物の力」で美しいライフスタイルを!

5000年以上の歴史を持ち、クレオパトラも愛した植物との暮らし。植物と向き合い、植物の声を聞くライフスタイルや、ボタニカル・フードのとっておきレシピ。植物の世界からあなたに届く「美しい贈り物」です。

―この番組は、2021年3月で終了しました。―

2016.10.14

Botanical Books7
里山から高尾山、霧ヶ峰まで! 山歩きが楽しくなる花のガイドブック

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山の澄んだ空気や、季節ごとの自然の景色を求めて、登山、山歩きが人気になっています。そして、そんな山で過ごす時間にふと心を和ませてくれるのが、山道の脇に慎ましく咲く山の花々です。

山に秋を告げるシラネセンキュウ


「植物」に関しての名著や新刊書、写真集などを毎回お届けする「ボタニカル・ブックス」。今月は山の花々を楽しく見分けることのできる『原寸大 見分ける低山の花100』(新井和也/山と渓谷社)をご紹介します。


山歩きを楽しくする花との出会い
広がる空の下、山の頂を目指す山歩きや登山。頂上に着いた時の達成感や、そこから望む壮大な風景の素晴らしさも、都会では味わえない至福の体験ですが、その山歩きをもっと思い出深いものにしてくれるのが、山の「花々」との出会いです。


奥多摩、奥秩父、丹沢、高尾山など1年を通じて多くの人が訪れる東京近郊の山でも、 春、夏、秋と多くの印象的な花や植物が、登山客を迎えてくれます。そして、その花は、日頃、植物園や公園の花壇、花屋さんの店先で見るものとは違い、静かに控えめに山の中で凛として存在しています。 山の精霊に命を授かった花々は、どんなに小さくても自然の生命力の結晶と言えるでしょう。

こんな山の花々をより手軽に体験出来る、首都圏の代表的な山と言えば「高尾山」です。都心からでも登山口まで直通電車が走り、初心者の山歩き体験には最適な場所と言われています。昔から信仰の山としても知られ、時代の権力者によって一帯が保護されて来たため、自然に富んだ山として多くの花や植物に恵まれています。同時にその植物が育つことで、昆虫、野鳥が豊富に集い、生物多様性にも恵まれた「高尾山」。ミシュランガイドで最高の「三ツ星」の指定を受けており、四季を通じて日本の山の魅力を手軽に楽しめる山の代表と言えます。


高尾山の四季を彩る花々
『原寸大 見分ける低山の花100』には、里山から高尾山クラスの低山、霧ヶ峰など標高1500メートルの中級の山までを目安に、季節ごとの花のガイドが掲載されています。そこには原寸大で大きさや色の特徴、そして名前の由来なども語られ、小さな山の花が持つ個性的なストーリーを知ることができます。では、ここで低山の花々で四季の移り変わりを追ってみましょう。

ネコノメソウ
漢字で書くと「猫の目草」、 春に2ミリほどの淡黄色の花をつけ、花が咲いた後の果実が「猫の目」のように見えるところから、この名前が付けられています。日本全国の山地、湿地に生え、群生するので比較的見つけ易く、柔らかな春の日差しを受けた黄色と緑のコントラストが、登山客に春の訪れを教えてくれます。


ホタルカズラ
丘陵地から山地にかけて、明るい林や草地に生えます。名前の由来は花をホタルの光に見立てたもの。紫の花の中心に星形の模様があるのが特徴で、新緑の季節をより魅力的にする貴重な花です。


ユキノシタ
山地の湿った岩陰や水辺に生え、名前の由来は花が雪のようで、その下に緑の葉が見えるところから。妖精のような個性的な花弁を持ち、夏を告げる花と言われています。



ツルリンドウ
高尾山などで秋の深まる紅葉の季節に咲く、1センチほどの個性的な小さな薄い紫の花。
先が鋭く尖った緑の葉が特徴。





センブリ
晩秋のフィナーレを飾る花。紫の筋が入った1センチほどの大きさの花で日本全国の低山に咲いています。最も秋が深まってから咲く花の一つで、間もなくの冬の到来を教えてくれる花です。


こういった山の花を素早く見分けるポイントは、咲く季節を知ることと、色と大きさに注目すること。『原寸大 見分ける低山の花100』の表紙には物差しのようにセンチごとの目盛りが付いていて、そのまま本を花に近づけて大きさを確認できます。山歩きと花との出会いを、より楽しく充実させてくれる一冊です。


より楽しく安全に山の花と出会うために
四季を通じて手軽に山の自然や花々を楽しめる低山の魅力。でも、気をつけておきたいことがいくつかあります。まず、山歩きの基本は足下から。高尾山などの人気のあるエリアの山道は整備されていても、思わぬところに石や岩、木の根が隠れています。スニーカーではなく、しっかりと足首をサポートしてくれる、山用のトレッキングシューズがおすすめです。そして防寒対策、雨対策はお忘れなく。山の自然は都会では考えられないほど、急激に変化します。山では夏も低体温症などの危険性があることを知って、ウエアの準備、カロリー補給のタイミングなどに十分気をつけましょう。


そして、もう一つ。どんなに美しい花があっても登山道から決して外れないこと。筆者の新井和也さんが何よりも大事にしていたのは、「自分が自然に入ってゆくことで、その影響を最小に抑えたい」という考え方。山の植生や植物を理解しながら山に登り、花や植物の写真や情報とともに、自然に向かいあう姿勢を発信した新井さん。自分が自然に入って、自然が持つ意味やすばらしさを伝えていくことで、山に入る他の人が自然を大切に思うようになり、自然が守られる。その生き方に込められたメッセージは共感を集め、その著作とともに多くの人に慕われています。

山歩きの時に出会う花の名前や種類がわかると、その出会った場所により親しみを持つようになります。あなたとその花の出会いは一期一会かも知れませんが、次の年も、またその次の年も、その花がまた同じ場所で静かに咲き続けられるように願いたいですね。


『原寸大 見分ける低山の花100』(新井和也/山と渓谷社)


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。10月は、女優のとよた真帆さんを迎えてお届けしています。どうぞ、お聞き逃しなく。


新井和也(あらい・かずや)
1971年生まれ 植物カメラマン、ジャーナリスト。高校時代から山岳部で登山を始め大学では岩登りから冬山まで幅広く山を体験。農学部で植物社会学を学び、執筆活動を行い、山と渓谷社などで活躍。植物写真の専門家としても知られ、著書に「高山植物ハンディ図鑑」「日本の高山植物400」「日本花紀行カレンダー」など。 環境問題にも関心が高く、自宅に太陽光発電を導入、9割の電力を自給するなど、心から自然を愛していた。2013年7月登山中に不慮の事故で死亡。42歳。

2016.09.09

Botanical Books6
写真集「世界遺産 屋久島」が綴る荘厳な自然と悠久の時間

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写真家三好和義さんは、タヒチ、セイシェル、ハワイなど「楽園」をテーマに数多くの作品を発表され、同時に「富士山」「京都」「仏像」などにも撮影対象を求められています。そして、9年という歳月をかけて撮影に挑んだのが「屋久島」。写真集「世界遺産 屋久島」には、荘厳な「自然」と地球が歩み続けてきた悠久の「時間」が収められています。


「植物」に関しての名著や新刊書、写真集などを毎回お届けする「ボタニカル・ブックス」。今月は、三好和義さんの写真集『世界遺産 屋久島』をご紹介します。


森と水の島 屋久島とは
1993年、青森県・白神山地とともに、ユネスコの世界自然遺産として正式登録された屋久島。南西諸島の北の端に位置し周囲132キロメートルの大きさを持つこの島は、標高2000メートルにせまる花崗岩の隆起によってできた高山を有し、豊かな自然が生まれる環境に恵まれていました。南国の蒼い海に囲まれ、山の斜面に沿って上昇した空気が冷却され雲ができやすいことから、非常に雨が多く、年間降雨量は同じ九州・鹿児島と比べても2倍。特に山間部は世界有数の多雨地帯と言われ、この雨が世界でも類いまれな森を作り上げたのです。土地の90%が森林で成り立ち、日本列島の縮図となる亜熱帯から亜寒帯に及ぶ気候環境がそれぞれの標高に合わせて垂直に分布し、多様な動植物が高い密度で存在しています。

そして、島のほぼ中央に位置し、そこに至る険しい道程のため、まだ人の目に触れて半世紀という屋久島の象徴「縄文杉」。その樹齢も未だ謎に包まれていますが、周辺の森のいたるところで、1000〜2000年を越える樹齢の巨木たちが森の長い歴史を今に伝えています。



写真から伝わる屋久島の自然の息づかいと命
巨木と歩んだ森の長い歴史と、豊かな雨水が作り上げた島の自然が見せる様々な情景。9年にわたりこの島を訪れ、深く森に入り撮影し、屋久島を細部にまで捉えたのが三好和義さんの写真集『世界遺産 屋久島』です。厚い苔で覆われた岩、深い緑を写す水の流れ、重なり合う樹々の葉や枝。一つ一つの写真から濃厚な森の空気が伝わり、三好和義さんが撮影で出会った光景を強烈に共有体験することが出来ます。


屋久島では大地に根をはる長寿の樹々も、それ自体が小宇宙のように動植物の命を育み、屋久島の森をより豊かにしているといいます。 瑞々しい苔をよじのぼるカエル、青空を写した水面に揺れる木の葉。この豊かな森と水の存在は、同時にこの地を命が繋がる場所にしています。

「屋久島」は、長い時間をかけて作り上げられた「豊かな生命の営み」の場でもあるのです。



森に流れる悠久の時間
木を敬い、木に自然界の魂や神の存在を見てきた日本の歴史文化。「屋久島」の森や巨木の存在は、長い歴史の中で作り上げられてきた日本の文化の象徴、心的風景そのものとされています。「大切なものを残して行く」。三好和義さんの作品につねに流れるこの創作の意思が「屋久島」に向かったのも、当然の出会いだったのかもしれません。

『世界遺産 屋久島』その巻末にはこんな自身の言葉が綴られています。

「気持ちが高まってくるとファインダーの中に映る苔むした風景が京都の庭に、滝やゆっくり動いてゆく霧が龍の姿に、地面につきささった倒木が仏像に、木々の間の巨木が五重の塔に見えてくる。(中略)手つかずの原始の姿を残した自然の姿こそが美術品であり、芸術の極地ではないだろうか。日本の中にも探してみれば、まだそういう美しい場所が残されている。先祖から受け継いだこれらの遺産を壊すことなく大切にし、未来に残し伝えてゆくことはたやすいことではないが、そのために美しい写真を撮ることは意義のあることだと思う。1枚の写真には多くのメッセージを込めることができる」

屋久島の森に足を踏み入れるということは、その自然を体験することと同時に悠久の時間に包まれるということ。三好和義さんの撮る一つの写真で私たちが体験出来るのは、風景や空気感といった視覚や肉体の感覚だけではなく、地球や人の歩んできた歴史や時間、魂の世界と語り合うという心的行為であるともいえるでしょう。


写真集『世界遺産 屋久島』。ページをめくりながら屋久島に流れる荘厳な自然と時間、未来へ贈るメッセージを、是非感じてみてください。

『世界遺産 屋久島』(小学館)



三好和義最新写真展情報
三好和義が撮る「日本の世界遺産〜九州山口の産業遺産から富士山まで」(仮)
■日程 10月19日〜25日
■会場 日本橋三越本店 1階中央ホール
日本の世界遺産のすべてを撮影している三好和義さんの日本で初めての「日本の世界遺産」をテーマにした写真展です。今回ご紹介した「屋久島」をはじめ、「小笠原の自然遺産」、「富士山」、「姫路城」などのハイライトが展示されます。


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。9月は女優の草笛光子さんを迎えてお届けしています。どうぞ、お聞き逃しなく。


三好和義(みよし・かずよし)
写真家。1958年生まれ、徳島県出身。実家のバナナ農家で南国を感じながら成長したことから、「楽園」をテーマに世界各国を撮影し続ける。1985年発表のデビュー写真集『RAKUEN』(小学館)はベストセラーとなる。1986年 第11回木村伊兵衛写真賞、2004年 藤本四八写真文化賞を受賞。2014年 ニッコールクラブ顧問就任。著書は『富士山』(講談社)、『伊勢神宮(日本の古社)』(淡交社)、『世界遺産 小笠原』(朝日新聞出版)、『世界遺産 屋久島』(小学館)など多数。

2016.08.12

Botanical Books5
ページをめくるたび地球を感じる「森」の写真集

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代々木公園、吉祥寺公園など、身近な緑豊かなスポットが人気を集めています。写真におさめたり、ハイキングをしたり、木陰でのんびり過ごしたりと、「森」の感じ方や「森」から受け取るメッセージは人それぞれです。世界中の森林を撮影し続ける写真家、小林廉宜さんは、世界各地の森を撮影していくなかで、豊かな自然に出会っただけでなく、そこにあるメッセージを発見します。

「植物」に関しての名著や新刊書、写真集などを毎回お届けする「ボタニカル・ブックス」。今月は、小林廉宜さんの写真集『森 PEACE OF FOREST』をご紹介します。

『森 PEACE OF FOREST』(小林廉宜/世界文化社)


地球はひとつの森である
小林廉宜さんの写真集『森 PEACE OF FOREST』 には、さまざまな森の表情が収められています。中でも今回の作品で特徴的なのは、空撮写真です。世界最大の熱帯雨林であるアマゾンや、ロシアの果てしないタイガ林、カナダのメープルの森と、その奥には地平線が見え、空へと繋がります。小林さんがこの写真集のコンセプトとしているのは、「地球がひとつの森である」ということ。空撮写真の一枚一枚は、まさにそれを表しているかのようです。


小林さんが森を撮りたいと思ったきっかけは、20年以上前の屋久島でのこと。大雨の日、カメラを守るのに精一杯になりながらも、縄文杉を撮ったり、ウィルソン株の中に入ったりしながらその楽しさに魅了されてゆきます。 下から木を見上げたり、木の株の中から森をのぞいたり、そこで感じた木々のエネルギーをこう語ります。

「森の中には、1億5000万キロ先からきた太陽の光と、1000年以上の歴史を生きた樹々の生命が一緒に存在しています。それを強く感じてからは、どんどんと森に心を惹かれていきました」


ドイツの「黒い森」の秘密

ドイツ、シュヴァルツヴァルト。ドイツ語で「黒い森」と呼ばれ、小林さんも一度は行きたいと思っていた、世界的に有名な森のひとつです。針葉樹と、ブナの木。二層のコントラストが特徴ですが、なぜこのように二種の木々が共存する森になったのでしょうか。

もともと生い茂っていたのは針葉樹。その色の濃さを遠くから見ると、密集していて黒っぽく見えることから「黒い森」と呼ばれるようになったそうです。ただ、針葉樹は根が浅く、酸性雨に弱いことを現地の人々は懸念していました。「森がなくなってしまうかもしれない」、そう考えた人々は、300年程前、根が深く酸性雨にも強いブナを植えました。そして300年でブナが美しい緑に育ち、もともとあった色の濃い針葉樹との美しいコントラストが生まれたのです。

名前だけ聞くと暗く不気味な世界をイメージしてしまう「黒い森」。ところが、5月にこの森を訪れたという小林さんは、思わず「黒い森の中は黒くないんだ!」と口に出してしまったほど、大きくイメージを覆されます。新緑がとてもきれいで、地面はフカフカやわらかく、雨上がりでできた即席の川に水が流れ、爽やかな風が通り抜けます。

「いい森だなぁと思う森の近くには、代々森を守ってきた、素敵な家族や人の存在があります。人々は森の恩恵を受けながら過ごし、森を守りながら生きていく—」


撮影していて、そういう森とたくさん出会ったと話す小林さん。ドイツの「黒い森」と生きる家族、マダガスカルでバオバブの木の幹によりそう少年たち、デンマークで鹿が住む公園でベビーカーを押す家族など、実はこの写真集の森の風景に欠かすことが出来ないのが「人」の存在です。ただただ自然に圧倒される作品でなく、人、家、動物たちも堂々とフレームの中に存在する姿こそが小林さんが思う「理想の森」なのです。


PEACE OF FOREST 〜タイトルに込めた想い

滝や川、地上にデコボコに張り巡らされた根っこ、暗闇に吸い込まれそうな深い森。小林さんの作品にはもう一つ、ただ美しいだけでなく、自然の力強さや激しさもとらえられています。初めて足を踏み入れた森を撮るのに危険はつきもの、相当過酷な仕事なのではないでしょうか?小林さんはよく、こう質問を投げかけられるのだそうです。

「森を撮っていて、危ない出来事に出会ったことは、実は一度もありません。もちろん、“夜は歩かない” “危険な場所には立ち入らない”などと、最低限のルールを守ってのことです。それどころか、行く先々で現地の方々に良くしていただいてばかり。そんな、いい思い出しかないんです。森、自然、そういうことを考えていれば、世の中は平和で良い方向に進むのではないかと思うんです」

ご自身のそんな経験と願いを込めて、写真集には『森 PEACE OF FOREST』とタイトルがつけられました。巻末にしたためられたエッセイを、小林さんはこう締めくくっています。「豊かな森があるところに争いは生まれない。Peace of Forest 奇跡は森から起きる」(『森 PEACE OF FOREST』P229より)

ページを開くたびに森林浴をするような、ゆったりとして、爽やかな気持ちになれる。樹々の生命力が夏バテを吹き飛ばしてくれそう、そんな「森」の写真集をご紹介しました。


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。8月13日からは小野リサさんを迎えてお届けします。どうぞ、お聞き逃しなく。


小林廉宜(こばやし・やすのぶ)
写真家。1963年福岡県生まれ。九州造形短期大学写真学科卒業。写真家・三好和義氏に師事後、1992年に独立。希少な自然や文化を撮り続ける。雑誌・広告の分野でも活躍し、2003年には玄光社「コマーシャルフォト」において「今、活躍する100人の写真家」に選出された。著書は『森の惑星』(世界文化社)、『シルクロードを行く』(世界文化社)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)など多数。

2016.07.08

Botanical Books4
ツールは紙とハサミだけ! 自然の美しさに改めて気づかされる「切り紙」の世界

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色鮮やかな花々、そこにふんわりと羽を休める優雅な蝶たち。昆虫、動物、草木や水のざわめき。自然界には「美しい!」がたくさんあり、人はその感動を「表現したい」「誰かに伝えたい」と思います。

写真家として世界各国を取材していた今森光彦さんが、たどり着いたその手段が「切り紙」でした。


「植物」に関しての名著や新刊書、写真集などを毎回お届けする「ボタニカル・ブックス」。今月は、切り紙作家でもある今森光彦さんの作品集『Aurelian 今森光彦 自然と暮らす切り紙の世界』をご紹介いたします。

『Aurelian 今森光彦 自然と暮らす切り紙の世界』
(著 今森光彦/クレヴィス)


切り紙での表現は小学生時代から
今森さんの切り紙作品は、植物、鳥、昆虫など、すべては自然がモチーフです。その創作活動が始まったのは、小学生時代から。外で遊ぶこともしましたが、家ではしょっちゅう切り紙をしていたという今森さん。キットを使ったクラフト作業ではなく、その頃から既にそれは“表現する作業”。自然の中で様々なものを見て「美しい」と感じたその感動が、心の中で収まりきらず、何かで表現したいと思った時にたまたま家にあったのが、「紙」と「ハサミ」だったといいます。切ったり色をつけたりと、現在とほぼ同じ技法を小学生時代に自然に身につけていました。20代、30代は写真家として表現していましたが、40代に入り少し落ち着いてきた頃、ふと思い出した切り紙。それを再びやってみたところ、写真以上の表現となることに気づいたのだそうです。

切り紙は、自分が何をおもしろいと思っているかが写真以上に表れると今森さんは言います。被写体を見たまま残せる写真にこそ、自分の興味が表れるかのように思いますが、なぜ今森さんはそう感じるのでしょうか。

「現物から紙に移行するプロセスの中で、写真以上にモチーフを観察し、頭の中で整理します。例えば白黒の紙を使うとしたら、どこをどう切ったらあそこを黒くできるか……など。さらに、美しい部分をより美しく、美しくない部分はあまり強調せず……という無意識のデフォルメが入ります。それによって、写真で見ると“気持ち悪い”と言われることが多い毛虫や蛾(が)でも、切り紙にしたらそんなことを言う人は誰もいません。切り紙にはそんな“作品に参加する楽しみ”があります」。確かに今森さんの作品には、昆虫の細い足に生えた細かな毛にまで見入ってしまう不思議な魅力があります。


作品づくりで重要なのは「本物を見て感動する」こと
今森さんが切り紙創作で使う道具は、“ラシャ”という種類の紙と、先が尖ったハサミ1本だけ。道具にはそこまでこだわらず、“本物を見る”というプロセスに重きを置きます。琵琶湖の田園近くで過ごした幼少期や、写真家として世界各国の熱帯雨林やサバンナを訪れ、多くの“本物”を見てきた経験が、今の作品づくりに大いにいかされています。絵画風、下書きをしない即興切り、立体切りなど、切り紙にも様々な表現スタイルがありますが、今森さんはスタイルに強くこだわらずに、やれるものは全部やるというスタンス。ただそこにあるのは「命」だという芯は揺るぎません。

切り紙をやってみたい、もっと上達したいという人に言いたいことも「まず本物をたくさん見てほしい」ということだそうです。それを理解した上で、もうひとつ初心者にオススメするなら、紙を二つに折ってから切り、最後に開いて完成する、シンメトリー(左右対称)作品。花や昆虫など、実は自然界には左右対称のものはたくさんあります。多少切るのが下手でもシンメトリーならきれいに見えるので、初心者の方はそこからチャレンジしてみても良いかもしれません。


自然に触れて得られるのは「感性の栄養」
今森さんがアトリエを置く滋賀県で、子ども向けに開催している「昆虫教室」。今森さんと子どもたちが一緒に里山を巡り昆虫を学ぶ企画です。子どもたちは目の前の昆虫採取に夢中になっていますが、目的としているのは、虫をとることではなく“自然と触れ合う環境を与える”ということ。今森さん流の言葉で言うとそれは“感性の栄養”。食べることばかりが栄養ではなく、感じることそのものが栄養になります。学校教育だけでは足りない、“感じる”ための環境を子どもたちにたくさん与えたいという想いで活動しているのだそうです。

幼少期から現代までずっと変わらないのは、自然が大好きだという気持ち。「見たもの全部を作品化したい」そんな壮大な夢を持つ今森さんの切り紙作品集は、全200ページ、分厚くずっしりと贅沢な1冊です。クーラーのきいた涼しい部屋で過ごす、快適な初夏のおともにいかがでしょうか。


作品集から「どうぶつ」作品を集めた展覧会も開催されています。




今森光彦ペーパーカット展「どうぶつ島たんけん」
ブッシュの中のライオン、アボリジニーの家族と追いかけたカンガルー。熱帯雨林からサバンナまで世界中旅した今森さんの思い出がつまった動物のペーパーカット作品が展示。

会期:2016年7月4日(月)〜 9月2日(金)
開催時間:午前 10 時〜午後 6 時(土・日・祝日は午後 5 時まで)
会場:ノエビア銀座ギャラリー(株式会社ノエビア 銀座本社ビル 1F)
入場無料
主催:株式会社ノエビア


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。7月9日からは、女優の浜美枝さんをお迎えしてお届けします。どうぞ、お聞き逃しなく。


今森光彦(いまもり・みつひこ)
1954年滋賀県生まれ。写真家。切り紙作家。
大学卒業後、独学で写真技術を学び、1980年よりフリーランスの写真家となる。以後、琵琶湖を望む田園にアトリエを構え、自然と人との関わりを「里山」という概念で追う一方、世界各国を訪ね、熱帯雨林から砂漠まで、生物の生態を取材し続けている。切り絵作品集は『魔法のはさみ』(クレヴィス)、『むしのあいうえお』(童心社)、『どうぶつ島たんけん』(小学館)など多数。
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