柔らかな光に包まれる夕暮れから、夜の世界へと表情を変える特別な時間に素敵なお客様をお迎えするこの番組、
今回は、作家の平野啓一郎さんをお迎えしました。
短編『富士山』
人生の分岐点で人が立ち止まり、どのように決断を下すかがテーマとなっている平野さんの短編集『富士山』。本仮屋さんは全ての主人公になり切って読んだそうですが、平野さんも読者が物語を自分に置き換えて読んでほしいと考えているそうで、平野さん自身も「自分もなりきりタイプなんですよ。いろんな登場人物になりきっているというか…それがないと、ちょっと物足りないっていうか」と話します。平野さんにとって、大切なのが「共感」。読者が登場人物とリンクすることが文学の醍醐味だと言います。
「自分が社会とズレている」という感覚と文学への傾倒
自身の若い頃を振り返り「僕も社会不適応人間なんで…友達の話が合わなくなってくるとか、自分の考えてることがちょっとずれてくるとか」と、周囲とのズレを感じていたという平野さん、その頃に出会った文学が、心の拠り所になったのだとか。「小説を読むと、そんなこと考えてる人がここにいる、みたいな…それで文学にのめり込んでいったんですよね」と、共感できる登場人物との出会いが、作家としての道を歩むきっかけになったようです。
『富士山』で描いた「偶然性」と「運命の分岐点」
偶然がもたらす人生の分岐点を描く平野さん、『富士山』の中でも、例えば新幹線の中で虐待のサインを目撃した女性が、そのサインにどう反応するかが物語の重要な転機となっていますが、「コロナの時に、DVとか増えてしまって…そこに自分がどう介入するかなって考えた」といいます。社会問題を取り入れつつ、人間がどう行動を取るかの難しさを描きたかったという平野さん、「人生ってこう、努力してる人が幸せになって、そうじゃない人は幸せになれない、っていう風に言う人いますけど、もうちょっと複雑だと思うんですよね」と語ります。
創作における「第〇期」
自身の創作活動を「第〇期」と区分しているという平野さん。「技術で言えばピカソとか…なんか国語便覧を見ていると、谷崎潤一郎の『悪魔主義時代』とか『古典主義時代』とかが分けられているのを授業中に見たりして…だから生きてるうちに自分でこう区切って行こうと思って」と話します。ちなみに、現在は「第五期の最初」という位置づけで、偶然性をテーマに据えて新たな作品に取り組んでいるそうです。
映画『本心』の公開と池松壮亮さんへの信頼
平野さん原作の映画『本心』がいよいよ公開となりましたが、この作品は、主演を務めた池松壮亮さんが平野さんの作品を読み込み、「企画を監督に持ち込んで実現した」というもの。平野さんから見て、池松さんは、ひたむきに一生懸命生きている主人公の青年とシンクロするところが多いのだとか。今回の池松さんの熱意に、平野さんも「またいい本を書かないとな」という刺激を受けたそうです。
平野啓一郎さんの新刊「富士山」は新潮社より発売中です。
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