このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
今回は、水産業界でのDXについて取り上げました。漁業や養殖業、水産加工業も他の第一次産業と同じように労働者の減少、高齢化が進んでいます。
そうした人手不足といった問題を解決しようとAIやICTの活用への期待が高まっています。なかでも期待されているのが、「スマート養殖」です。
そこで今回は、NTTグリーン&フード株式会社 代表取締役の久住嘉和さんにお話を伺いました。
まずは、久住さんのところで行っている「スマート養殖」の概要についてお聞きください。
「従来、養殖というのは海面で主に行われていたものなのですが、我々がやっているようなスマート養殖、陸上養殖は陸上で水槽を作り、建屋を作って水槽を置いて、その中で養殖をやる形になります。その中で、できるだけ効率化を図るためにセンサーとかカメラとかを使いながら遠隔で監視をしたり、自動で給餌をしたり、できるだけ省略化を果たしながらやる養殖をスマート養殖と言います。
魚ってやっぱり弱ったりすることがあるので、弱った魚をそのまま置いておくと他の魚が影響を受けて死んでしまうことになるので、弱った魚はすぐに除去するようにそれをカメラで監視しながら弱った魚は取り除くといったことになります。
水管理はいろんなところに影響しまして、温度がわかると養殖場は冷たい時は加温したり、熱い時は冷やしたりするのですが、エネルギーマネジメントを最適化、できるだけコストを安くするために温度を逐次管理しながら、最低限のエネルギーを使って温度を快適な状態に維持するといったことをやっています」
陸上養殖は従来の海上養殖にくらべ、こんなメリットもあるそうです。
「魚がいろんな餌を食べたりするのですが、海洋にはいろんな微生物が住んでいるので、例えばノロウイルスとか、アニサキスとか、そういったものの、ウイルスを体内に取り込んでしまうということもあります。
あと、マイクロプラスチックという細かいガラス繊維のものが魚の体内に餌と間違って食べることがあるんです。そういったものを陸上にあげて、しっかり水の水質を管理された水で育てると、そういった病気とかマイクロプラスチックの可能性が極力少ない魚ができることになります。
もう一つの観点は、養殖ですと、例えば赤潮とか天候とか、そういったものに左右されて、生産量が増減、極端に振れることもあるのですが、陸上養殖ですとその辺の水質とか水温を最適な管理で生産することができるので、安定的に生産をすることができる。その二つがメリットなんじゃないかと思います」
スマート養殖の開発の難しかった点についても伺いました。
「農業と違って水の中というのが一つ大きいものなんです。なかなか水の中ですと通信の電波が届かなかったりするというところもありますし、濁っているのでなかなか水の中の状況というのが把握しづらかったというところもあります。
そういったところで、農業用のいわゆるICT、スマート農業と比べると、スマート養殖の分野は非常に遅れていたというところがあります。それはテクノロジーの部分です。
もう一つは、ICTを導入するには財源がいるんです。コストがいるのですが、一人当たりの水産業の平均所得が農業に比べると少ないというところもあり、その辺りもICTを導入する上でコストというところが非常に課題になっておりました。
まずは画像認識の技術とかがAIの発達とともに、コストも低廉価してきたというところもありますし、通信技術も無線の技術も、お家芸ではありますが、そのあたりの強みも活かしながら水産業の技術を進化させてきたと、そういったところがあります」
最後に、今後の課題と今後の展開について伺いました。
「スマート養殖≒陸上養殖と考えると、やはりコストなんです。海面だと漁業権はあるものの、ほぼほぼ環境的にはタダでできるものを、土地を買って建物を建てて水槽を作ることになります。そのコストをどうやって下げるのか。そこが大きな課題です。そこで、今後の展開として品種改良についても進めていきたいと考えています」
久住さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2023
11.13
水産業界のDX 「スマート養殖」