このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
番組でもこれまでに何度か取り上げましたが、インターネット上に存在する「3次元仮想空間」、メタバースの利用が今、急速に広まっています。そうしたなか今回は、メタバース上で展覧会を開催。メタバース空間での美術館活動の可能性を探っていこうという美術館のプロジェクトをご紹介しました。
お話を伺ったのは、全国に先駆けてメタバースの活用に踏み切った山梨県立美術館で学芸員をされている小坂井玲さんです。
©2022 takakurakazuki
メタバース上の展覧会開催には、こんな経緯かあったそうです。
「ミレーの美術館といわれ、多くのお客様に来館をいただいていたのですが、やはり新型コロナウイルス感染症拡大の状況を受けました。美術館というのはやっぱり、優れた表現とか、新しい動向、その考え方、美術というものが持つその様々なパワーに誰でもいつでもアクセスできることを一番の使命として活動しています。そういったところの根幹の使命の部分を揺るがすような事態に陥るにあたって、館でもその時から様々なデジタルを活用したミュージアム活動の発信というものに、ようやく取り組み始めたところでした。こういった社会的な状況に加えまして、当館は2028年に50周年を迎えるんですけれども、50年の節目、そこからの新しいスタートに向けて、今、新しい美術館はどうあるべきかというビジョンの策定を今年度着手したところでした。
そんな中でも、やはりデジタル技術が持つ可能性というのは、非常に重要なものとして位置づけておりまして。こんな背景の中から、今話題になっているメタバースやNFTというもの、そして、インターネットの新しいあり方。そのWeb3の状況において、ミュージアムには何ができるんだろうか、ということを模索する活動を開始したというのが、実は背景になっております」
このプロジェクトは今月末から本格稼働する予定なのですが、そのまえに、プレオープンしていて、今、山梨県出身の現代美術家のたかくらかずき氏による「大BUDDHA VERSE展」が開催されています。
体験された方達からの反応や声について、小坂井さんに伺いました。
「興味はそれほどないけれど、メタバースとか、仮想空間みたいな言葉を聞いたことがある方が、気軽にまず触れていただけるような展覧会にしたいと思ったので、2月28日以降、本オープンの時には、VRゴーグルを館内に設置しました。それを使ってより没入感の高いVR体験を体験したことがない方が気軽に体験できるようにしています。
こちらの狙った通りといったら変なのですが、壮年以上の方など、インターネットやスマートフォンにそれほど習熟されていないような方でも、これが耳にしたことがあるメタバースというものなのね、というような形で楽しんでいただいたりですとか、小さなお子様がいるご家族からは、これなら子ども楽しんで興味を持って見られるかもしれないというような前向きな言葉をいただいたりしておりまして、従来の美術ファン以外の方々にも楽しんでいただけているということで認識をしています」
今後の展開についても、小坂井さんに伺いました。
「やはり美術館の活動の拡大ということをテーマにしていますので、まずは美術館の基本的な機能から、こういったメタバースの活用を継続していきたいと考えています。作家の作品、展覧会の発信というのをメタバースの空間を使いながら、そして、ミュージアムというのは、やはりフィジカルなリアルな空間を持っている施設ですので、その美術館の館内と、仮想空間を行き来しながら楽しめるような、展覧会作りというのができないかということで、継続していきたいと思っています。
また、皆様にその可能性を感じていただく、そして楽しんでいただくために、例えば、NFTを活用したスタブラリーを行うなどをきっかけに、NFTのデジタルデータによって発生する価値を交換するというようなことも、NFTメタバース、双方向コミュニケーション、コミュニティの形成の中でできるかと考えていまして、ミュージアムならではの体験として、皆様に様々な形で美術を楽しむ可能性を拡大するツールとして、体感していただければと思っています」
小坂井さんは、デジタルアートの専門家ではなくて、デジタルということでは我々と変わらないところからスタートされたそうで、「色々知っていく中で、新しい可能性にワクワクしたその体験を、ぜひ、利用者の方と共有できればいいなと思っています」と最後にお話されていました。
小坂井さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2023
02.13
山梨県立美術館のメタバースプロジェクト