このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
ここ数年、街の本屋さんがどんどん減っています。書店調査会社のアルメディアによると、1990年代の終わりに全国に2万3000店ほどあった書店は、2020年には1万1024店に減少。書店数のうち、売場面積を持つ店舗に限ると9762店となり、1万店を割り込んでいます。この理由としてよく言われるのは紙離れ、出版不況などですが、「返品率の高止まり」、こちらも大きな原因のひとつで、出版業界が抱える深刻な課題なんです。
そうしたなか、AIを使って、返品の原因である需要と供給のミスマッチを減らして、返品率を下げようという取り組みが今注目されています。この取り組みを行なっているのが、「TSUTAYA」を展開するCCCカルチュア・コンビニエンス・クラブです。
そこで今回は、この取り組みについて、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のBOOK本部長の内沢信介さんにお話を伺いました。
取り組みを始めた背景には、こういった構造的な問題があるそうです。
「出版業界には普通の一般的な小売と違って委託制度というものがありまして、自分の意志で買い切りで仕入れるのではなくて、本という商材は発注しなくても自動で送品がされてきて、売れなかったら返品ができるという仕組みになっています。書店にとってはリスクなく仕入れができるんで、非常に良い制度だという風に思われてきたんですけれども、逆に利幅は薄くて、構造的にあんまり儲からない、薄利多売な商売になってしまっています。一方で出版社さんも返品リスクがありますので、すごく頑張ってベストセラーを出しても、返品が多いと利益が出なくなってしまうという構造になっています。
そこで、我々は書店側がきちんと目利きをして、本を買い切りで仕入れを行えば、出版さんに無駄な返品がまずいかなくなって、出版さんの利益が増える。出版さんの利益が増えたら、その増益分の半分を書店に還元してもらうことで、書店の利益も増えて、結果として町の書店を増やすことができるんじゃないかと考えて、この本を買い切りで、書店が自分の意思で仕入れるという取り組みを始めました」
内沢さんによると、現在、返品率は業界的に35%〜40%くらいと言われているそうで、この返品率を15%から20%くらいまで下げることができれば、出版社も書店も持続可能な状態になるのではないかとお話されていました。そして、この15%から20%くらいまで返品率を下げるためにAIを活用しているんだそうです。
「現在TSUTAYAでは、全体の約3割のお取引がある出版さんにご協力いただいて、返品枠付きの買い切り条件で仕入れをさせていただいております。出版社さんから発売前に作品の情報をいただいて、人の目でこれはいくつ仕入れるという風に目利きをして、仕入れているんですけれども、すごく膨大な数の新刊が毎日毎日発売になって、人の目だけでは限界があるなと考え、AIで補完をすることを考えて開発をいたしました。
弊社ではそれを新刊のAI発注と呼んでいるんですけれども、本の情報とか著者さんの情報、また、その店舗がある地域の情報などを60以上の因子を基に、発売前に需要予測をするシステムになります。また、新刊だけではなくて返品率を下げるには、適切な追加、いくつ追加するんだという発注も重要になります。こちらも追加のAI発注という仕組みで行っており、売り上げデータなど様々な因子を基に需要予測をして、無駄な発注を減らして逆に販売数を上げております。 結果として、実売率を1.5倍にすることに現在成功しております」
そして、この10月からはこんな取り組みも初めているそうです。
「返品率を下げるには、仕入れをコントロールするだけではなくて売り上げを上げる必要があります。そこで、お店の品揃えに着目しました。お店の品揃えといってもやはりそれぞれお店の立地の特性によって変える必要があるんですけれども、それをAIで行うという仕組みを開発しました。Tカードの購買履歴を基に、書誌同士、本同士の類似性とか、お店との類似性を見つけて、その店にあった品揃えを選書するという仕組みです。現在、新たにそのお店にこれは合っているんじゃないかと選書された作品と、元々お店にあった作品を交換して実験したところ、1.2倍の実売率で上がったので、10月からこれを今、全店導入を開始いたしました」
最後に、現在の課題と今後の展開について伺いました。
「我々の今までの取り組みを、書店ゼロの町をなくそうということをスローガンにこのAI発注や、書店の利益構造を変える取り組みを今行っているんですけれども、やはりそれだけでは、書店ゼロの町をなくすというのはできないかなと思っています。さらに、お客様にとって書店の価値を変えていく取り組みが必要なんじゃないかなと思っています。
お客様にとって書店の価値を変えるというためには、我々は新たな書店の体験価値を創造しようかなと思っています。具体的に言いますと、例えば児童書と知育玩具であったり、学習参考書といろんなことが学べるボードゲームであったり、実用書と食雑貨といったように、書店と雑貨を融合した新たな生活提案を行っています。これは横に併設するではなくて、ただもう売り場として一体になったような売り場を作るということです。
また、時間制のシェアラウンジといったものを一緒に併設したり、様々なリアルなイベントや、売り場にいるんですけれどもオンラインのイベントであったり、そういうことを行うことで、地域のコミュニティの場、ハブになるような取り組みを行っています。こうすることでリアルの書店にしかできない体験価値を創造して、書店ゼロの町をなくすということに、さらに取り組んでいきたいなと思っています」
書店ゼロの街をなくすには、お客さんにとっての書店の価値を変える。新たな書店の体験価値を創造するという話は、とても興味深かったです。他の業種やサービスでも同じことが言えるような気もしました。
内沢さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2022
10.31
AIを活用した本の返品率を下げる取り組み