このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和に緩和され、ニュースなどで空港が賑わっている様子をよく目にしますよね。そんな空港で今年の夏、視覚障がい者のための自律型ナビゲーションロボット「AIスーツケース」の実証実験が行われました。
「視覚障がいがあると、一人で安心して街を出歩いて楽しむことができない」、こういった課題を解決したいという思いから開発されているスーツケースの形をした自律移動型ロボットです。
開発をはじめたのは、「AIスーツケース コンソーシアム」という団体で、清水建設やOMRON、IBM、アルプスアルパインといった企業や盲導犬協会、さらにカーネギー・メロン大学や早稲田大学といった大学が加盟していて共同開発を行っています。
今回は、このAIスーツケースの取り組みについて、そのAIスーツケースコンソーシアムの一員である日本科学未来館の副館長兼アクセシビリティラボ室長、高木啓伸さんにお話を伺いました。
AIスーツケースの開発には、こういった背景があったそうです。
「現在、視覚障がい者が街中を歩こうとすると、例えば白杖であったり、あるいは点字ブロックの上をつたったり、あるいは盲導犬の助けを借りたりする必要があります。なのですが、なかなか知らない場所に行けない。どうしても自分がトレーニングを受けた知っている場所にしか行くことができないというのが大きな課題でした。
以前、視覚障がい者のためのナビゲーションアプリ、スマートフォンのアプリを開発していたのですが、それでもやはり方向であるとか、まっすぐ歩くとかそういうのは全て、今までと同じように白杖を使って周りの音を注意深く聴きながら、例えば反響音などを聴いて部屋の大きさを確認したり、自分がまっすぐ歩いているかどうか壁までの距離などを聴いて、耳で確認して歩いて行かなければいけないということで、非常に負荷がかかっていました。ユーザーにとって大変だったということです。
それをもっと楽にしたいということで、ただついて歩くだけで街中を知らないところにも行けるようにできないかということで、こういうナビゲーションロボットですね、物理的なロボットの開発を思いつきました」
こういった目的で開発されたAIスーツケース、こんな機能が搭載されているそうです。
「このAIスーツケースの上にいくつかセンサーがついています。一番上のセンサーがライダーというセンサーになっています。これは自動運転自動車などと同じなのですが、周りの壁や障害物を360度ぐるっと1周測定をして認識ができるようにしています。これによって壁の形を測定することでまず自分がどこにいるのかを認識することができて、さらに周りの障害物の認識もできるというセンサーになっています。一番キーになるセンサーですね。その下にいくつか別のセンサーがついていて、これが人を判別するセンサーになっています。つまり周りの歩行者を認識して、その人たちをちゃんとどこに行くのかを確認をして避けたり止まったりということをできるようになっています。
あともうひとつ、ハンドルに少し工夫がしてあって、振動によって、右に曲がるのか左に曲がるのかを事前に教えてくれます。つまり、もうすぐ右に曲がるよ、という時にはハンドルの右側が振動することによって、視覚障がい者に動く方向を教えてくれるという仕組みも入っています。もうひとつは、ハンドルの下にタッチセンサー、触っているのかどうかのセンサーがついています。これによって、例えばハンドルを握っている時には動くんだけれどパッと手を離すとすぐに止まるようになっています。これによって何かおかしいなと思ったらすぐに手を離すことによって直感的にスーツケースを止めることができるという安全装置の役割を果たしています」
最初にAIスーツケースコンソーシアムといって、複数の企業や団体が参加して開発しているという話がありましたが、なかなか1社だけでこういうものを開発するのは難しくて、いろいろな企業が技術を持ち寄って開発をしているっていうのは、とてもいいことだと思いました。
高木さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2022
10.24
自律型ナビゲーションロボット「AIスーツケース」