このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
今朝のテーマは“需要予測”。普段、なかなか耳にする機会が少ない言葉ですよね。意味はそのままで、過去の需要実績を用いて未来の需要を予測することを言います。
例えば、コンビニ店が今日はこれくらい売れるだろうと発注するお弁当の数を予測するとか、これも需要予測になります。この需要予測、店舗や倉庫における人員配置計画などにも使われていて、人手不足の問題解決にもつながるそうです。そんな需要予測ですが、AI技術の進歩もあり、精度が上がっていて今、様々な企業や業界から注目されているんです。
そこで今回は、AIを利用した需要予測の現状やメリットについて、キヤノンITソリューションズ株式会社のR&D本部 数理技術部の永井杏奈さんとR&D本部 数理技術部のシニアコンサルティングスペシャリストの青山行宏さんにお話を伺いました。
様々なシチュエーションで活用されている「需要予測」ですが、日本経済新聞のWebサイトで需要予測に関連する記事を検索して、掲載年別に集計すると、2017年までは40件前後だったものが、2018年に120件を超え、翌年に一度減少したもののその後は毎年増え続けているんだそうです。
なぜ今、需要予測に対する関心が高まっているのか、永井さんに伺いました。
「需要予測への関心が高まっている背景には大きく三つの理由があります。
一つ目は食品ロスとかCO2の削減などといった環境問題です。昨今これらの環境問題に対応するために需要予測の精度を上げて無駄な生産を減らすことや効率的に輸送することが求められています。二つ目は需要傾向の急激な変化です。新型コロナの感染拡大は事業に非常に大きな影響を与えました。また毎年のように発生する自然災害や異常気象も需要変動の要因となっています。このような想定できない需要変動の発生も需要予測への関心が高まっている一因と言えます。最後に三つ目ですが、働き方改革などによる慢性的な人手不足も理由の一つです。需要予測が外れて限られた生産リソース、物流リソースを無駄にしてしまわないようにより精度が高い需要予測が求められています。こういった背景から近年益々、需要予測に関心が高まってきていると言えます」
さらに、具体的な予測方法について青山さんに伺いました。
「これまでの需要予測は基本、販売実績をもとにトレンドや周期を見て将来を予測しているという流れになっています。ただ昨今、話題に上がってるAIを活用した需要予測はこれまでの販売実績だけではなく例えば気象情報、価格情報、キャンペーン情報、イベント情報、さらに最近で言えばSNSの情報、こういった情報を販売実績とともに活用することで需要予測を行っています」
今後の展開についても、青山さんにお話を伺ったところ、AIを活用することでこんな効果も期待できるそうです。
「どの会社でも苦労してる新製品の需要予測に、AIを活用できるのではと考えています。新製品の需要予測は過去の販売実績がないので、これまで担当者が勘と経験に基づいてやっているというケースがほとんどかと思います。販売実績はなくても他の様々な情報をAI予測のインプット情報にすることにより新製品予測の自動化っていうのも、今後可能になってくるのではないかというふうに考えています」
また一方で、AIを活用していく上ではまだ課題もいくつかあるそうです。
「例えばその一つとして、AIを利用するにはまだまだ専門的な知識というのが必要です。外部の専門家に任せるだけではなく自社内でもある程度AIに関する専門的な知識を有する人材を育成することでAIを自社内でより効果的に活用できるのではないかという風に思います。あともう一つ挙げるとすると、需要予測のインプットである情報をどう収集していくかということがあります。自社内の情報だけで精度の良いAI予測ができるのであれば、それに越したことはないんですけれど、社外にある情報も活用できれば予測精度向上の期待値がさらに上がるという風に思います。ただ問題はどうやって社外の情報を電子化して自社内に取り込むか、こういうシステム的な課題もあります。今述べたことは課題の一例なんですけれど、こういった課題をクリアしていくとAIを需要予測に活用できるのではという風に思います」
お二人のお話を伺って、AIを活用した需要予測はこれからどんどん広がっていくのではないかと感じました。
青山さん、永井さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2022
10.03
AIを利用した需要予測