このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
噛むことが全身の健康に繋がるという話、よく聞きますよね。認知症の防止にもなるって話もあります。
一方、そんな噛む力は年齢と共に低下していくと言われています。低下するのは噛む力だけではなく、舌や唇を動かす力や、飲み込む力も低下するそうです。オーラルフレイル(口腔機能の衰え)といって、社会課題にもなりつつあるんだそうです。
そこで今朝は、乳幼児や高齢者など噛む力が弱かったり衰えたりしている人のために開発された噛む力を分析する実験装置「オーラルマップス」をご紹介したいと思います。
お話を伺ったのは、株式会社 明治 研究本部技術研究所の井上元幹さんと神田玲奈さん。
そもそも、なぜ噛む力に注目したのですか?
「噛むという行為自体が様々な効果を持つということは知られております。例えば唾液の分泌を促して口の中を清潔に保つようなことですとかストレスを緩和させる、あとは認知機能を高めるといった効果も知られております。
とはいえ本来の目的としては栄養を豊富に含む食物を安全に飲み込める状態にするということです。ですので、高齢になってもしっかりと噛む力が維持されていればご家族や友人たちと同じように食事ができ、肉とか野菜とかお好きなものを食べることができる。そういったことを通して心身の健康の維持に大きな影響があるというふうに考えています。
こういったように噛む力というのは非常に重要なものですけれども、一方で一般の方が普段あまり意識を向けることはないのではと考えております。そういったなかで、我々が商品として持っているグミというものが一般のお客様に対して噛むということを意識していただくような体験を提供するに非常に有効なものであるというような考えがありまして着目しているということになります」
井上さんによると、現在、一般的に食品を評価する方法として官能評価という方法が多く使われているそうです。人が実際に食品を食べて、たとえば硬いとか柔らかいとか、甘いとか甘くないといった評価をしていって点数を付けるという方法です。官能評価は非常に有効な方法ですが、曖昧な人の感覚に基づく評価という部分もあり、そのため、評価の信頼性を高めるために、評価する人の訓練や試行回数を増やすというようなことが必要になります。
一方で機器を用いた測定は人に比べて精度が高く、繰り返しが可能で短時間で多くの実験ができ、また倫理的な配慮も不要になるという利点があります。そんななか、開発されたのがオーラルマップスなんです。
いったいどんな装置なんでしょうか?
「一言で言うと汎用型咀嚼プロセスシュミレーターです。人は食べ物を食べる時、その咀嚼によって食品を小さくしながら唾液とだんだんと混ぜ合わせていって、飲み込める状態にします。この細くなった食品と唾液が混ざり合った状態を食塊と呼びます。食べ物の塊と書いて食塊と呼ぶのですがオーラルマップスは食品が咀嚼によってどのように状態が変化していくのか、食塊をつくるプロセスを可視化できる装置です。
また、オーラルマップスは噛む力やそのスピード、人工唾液などの添加量の条件などを自由に設定して運転することができるので食品に合わせて適切な評価を行うことができます」
これまでは数値化することが難しかった食品が食塊に変化するときの様子とその数値を簡単な操作で、少ない人数、短い時間で効率的に確認することができるようになったそうです。
ちなみに、こんな発見もあったそうです。ラーメンの上にのっているネギと茹でたもやしで実験した際、噛み始めは、ネギも茹でたもやしも、ほとんど同じ力がかかっていたそうですが、噛み続けてみると、もやしはかかる力はどんどん小さくなっていくのに対して、ネギにかかる力はあまり小さくならなかったそうです。
オーラルマップスは、さらにこんな効果やメリットもあるそうです。
「自分の噛む力というのを普段の生活で実感することができる機会はあまりないと思います。オーラルマップスから得られた食感チャートは好みの食感を例えば食感チャート2が好きな方ですとか3が好きな方という風に好みの食感を選びやすくするだけではなく、普段の生活の中で楽しみながら自分の噛む力を実感できる指標としても利用することが出来ます。
また高齢化社会が進んでいますが、自分の噛む力を把握してそこから自分に適したレベルのグミや食品などを使ってトレーニングを行うことで、フレイルの進行を抑制し健康寿命の延長などが期待できると考えています」
デジタル化が進むことで食品開発はどうかわっていくと思いますか?
「人を中心にした考え方に変わっていくのかなという風に考えておりまして、人を理解するためのデータ収集や解析というのが重要になってくるだろうと考えています。
従来、食品開発の中心は当然食品というモノであったわけですけれども、今はいろんな食品が簡単に手に入って同じようなモノも多くある状況です。その中で誰しも何かを選択しているわけですよね、その基準は色々とあるんでしょうけれども似たようなものだけども、なぜかこちらの方が気に入るとか自分に合っていると感じることもあるかと思います。
そういった感覚というようなものは、モノだけを見ていてもわからずモノと人との関係性の中で現れてくるものだろうと考えております。
そのようにモノのデータだけではなくて、人がモノから五感を通してどのような情報を受け取るのか、その結果身体や感情や行動といったものがどう変わるのか、そういった観点の評価が技術の進化でできるようになりつつあるだろうと感じております」
モノだけではなく、それを選ぶ人との関係性からみていく…面白いですね。デジタル化が進むことで、食品がこれからどう変わっていくのか楽しみですよね。
井上さん神田さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2022
03.14
食品の噛み応えなどを計測・分析できる実験装置「オーラルマップス」