このコーナーでは「暮らし、仕事、社会」、私達の身近なところにあるデジタル化の動きをご紹介しています。
日本は他の国と比べ高齢化が進んでいて大きな社会課題となっています。
そんな超高齢化社会の日本にとって、重要な課題と言われているのが認知症の予防と進行抑制です。現在、認知症患者はおよそ500万人と言われ、2025年には700万人を超え、65歳以上の5人に1人は認知症になるとも言われています。
一方で、食生活や運動不足の解消などの対策で、ある程度は予防できるとも言われています。そんななか、認知症の予防に使えるのではないか?ということで、高齢者にAIを使った「擬似作曲」を体験してもらい、それによって認知機能に変化がみられるのか、音楽が認知機能に与える影響を検証する音会プロジェクトがスタートしています。
そこで今朝は、この音会プロジェクトについて共同研究を進めている東京都立産業技術大学院大学の特任教授の佐藤正之さんと、助教の田部井賢一さんにお話を伺いました。
音会プロジェクトは、東京都立産業技術大学院大学とAIを使った作曲支援プラットフォーム「Evoke Music」を開発した株式会社Amadeus Codeなどと共同で今年の2月にスタートしました。
このAIを使った「Evoke Music」が、作曲の擬似体験を可能にしてくれるとのことなんですが、いったいどのようなソフトなのか、佐藤さんに伺いました。
「ソフトの詳しい説明は私の範囲を超えますが、結果的に言うと、日本語で言葉を入れるとAIがその言葉に合わせた曲をざーっといっぱい提示してくれる。例えば悲しいっていったらその悲しいというイメージと合った、しかもオーケストラで作るのかとかピアノで作るのかとか指定はできますし、長さも指定できるっていうソフトが作られて、今ネットで配信されています。YouTuberが自身の動画の背景のバックミュージックとして利用しているケースが多い」
そして、去年の春くらいに、このソフトを開発したAmadeus Codeから、このソフトを何か認知症予防であったり、医療の現場で役立てられないだろうかという話を持ちかけられたのが、このプロジェクトの始まりだったそうです。
「こういったソフトを用いることで、これはある意味、擬似作曲体験になります。お年寄りの方に限らずですけども、いろんな知的活動を行うことは非常に推奨されています。ところが、例えば映画好きな方はお絵かきできるんですね。また、俳句が好きな人には、句会というものがあるんですね。ところが、こと音楽に関していうと、昔から楽器をやっていたとか、特別なレッスンを受けたっていう方は別ですけども、そうでなかったら自分で曲を作るっていったことは、ほぼ不可能なんですね。句会があるなら、じゃあ音会があってもいいんじゃないかと。つまり普通にご自身の力では作曲ができなくっても、この「Evoke Music」っていうソフトを使えば、その言葉を入れることによって自分のイメージしているものに一番ぴったりした楽曲といったものを選ぶことができる。つまり、いっぱいある中からイメージしたものを選ぶことができる。これはである意味、非常に高度な認知能力を要するといったところで、だったらこれを認知症予防に取り入れることができるんじゃないかっていう予測のもとに始めたのが音会ですね」
今回、作曲にフォーカスしたのには、こんな理由があったそうです。
「この作曲に焦点を当てた理由っていうのは、音楽って言うと、聞くとか演奏する、歌う、作るなどがありますが、聞くっていうのは誰にでもできるんですけど、誰にでもできるということは受動的なんですね、その中に意味を見いだすといった積極的な面もあるんですけど、基本的には流れてきたものを受け止める形になるので、やはり、そうじゃなくって自らが何かアクティブに行うこと、能動的に行う方が効果がより得られやすいだろうというふうに考えられます。そこで、じゃあ演奏するかって話になってくるとですね、楽器というのはなかなか五十の手習いで始めてすぐにできるようになるものでもないですし、ましてや作曲は更に後ハードルが高い。しかし、このAIの「Evoke Music」っていうのを使えば作曲のコアとなるようなところ、要するにイメージを思い浮かべてそれを譜面に書く代わりに、流れてきたもので選ぶっていったところで、コアになるようなことは踏襲できるんじゃないかというふうに考えたわけですね」
このプロジェクトは、ヤマハ音楽振興会の協力のもと、65歳以上の高齢者100人を対象に、10人程度のグループで週に1回、半年間で計24回開催されます。そこで参加者は事前に与えられた「お題」に沿った楽曲を「Evoke Music」を活用して作曲し、音会に持ち寄ります。そこでは疑似作曲の体験だけでなく、なぜその楽曲を選んだのかを他の参加者や先生役の音楽家と議論するそうで、そのことも脳への刺激になると期待されているそうです。
最後に、今後の課題について東京都立産業技術大学院大学の助教の田部井賢一さんは、こんなお話をされていました。
「デジタルデバイトの問題とかなり重なるところはあると思いますが、今回オンラインで実施することにおいて、やはりそういった機器を使えるもしくは使えないっていうのですごく差が出てきてしまうと思いますですので、そういった使えない方、そういった環境にない方も、このような取り組みにどういう風に参加していただけるのかということも、きちんと考えながら多くの人が参加して頂けるような仕組みというものを今後を考えていく必要があるのではないかと思っております」
インターネットやコンピューターを使える人と使えない人との間に生じるデジタルデバイドつまり情報格差の問題はよく耳にしますが、認知症に関しては対象者が高齢者ということもあり、重要な課題かもしれませんね。とても興味深いプロジェクトだと思いました。検証結果が楽しみですね。
佐藤さん、田部井さん、貴重なお話、ありがとうございました。
2022
08.22
認知機能に音楽が与える効果を検証する共同研究「音会プロジェクト」