ON AIR REPORT オンエアレポート

2月26日 ピアノ協奏曲の世界

2012.03.13


2月最終週は、「ピアノとオーケストラの共演」=「ピアノ協奏曲」の世界をご紹介しました。中でも後期ロマン派を代表する3大協奏曲を中心に取り上げました。協奏曲はソロとはまた異なる世界で、オーケストラとのアンサンブルが第一です。ただしソリストにハプニングがおこると曲が崩壊してしまう・・・幸いまだそんなことはありませんが、いつも恐怖、緊張と戦っています。その反面、多くの人と一緒に曲を作り上げるという楽しさ、充実感があります。ピアニストにとって、ピアノ協奏曲はまさに「晴れ舞台」といえるかもしれません。

まず1曲目にご紹介したのは、チャイコフスキーの《ピアノ協奏曲 第1番》です。チャイコフスキー(1840-1893)が30代半ばで書き上げた最初のピアノ協奏曲は、数あるピアノ協奏曲の中でも最も華やかでドラマティックな作品といえるでしょう。僕も何度となく弾いてきました。ただ弾く側からすると、指が必ずしも動きやすいように書かれた曲ではありません。チャイコフスキーは作曲に関してもわりと素人的な部分があったと言われています。この作品のように、ゆったりした序奏で始まるピアノ協奏曲も珍しく、ある意味アカデミックな枠にとらわれないチャイコフスキーだからこそ書けた作品かもしれません。

続いてお送りしたのは、チャイコフスキーの後輩にあたるラフマニノフ(1873-1943)の作品。20世紀を代表する名ピアニストでもあった彼が、1909年のアメリカ旅行に携えていった作品です。ニューヨークで初演されています。ピアノ協奏曲第2番と同様に、ラフマニノフの代表作としてよく知られた作品でしょう。演奏家としても作曲家としてものりに乗っていた頃の曲で、演奏の難易度も極めて高い作品です。オケとの調和、濃厚なロマンティシズム、それら全ての要素を成り立たせるというのは至難の業ですが、さすがラフマニノフが気合いを入れて書いた作品だと思います。僕にとっては何か節目の時に演奏する大切な曲。そして演奏するたびに、この曲の素晴らしさを再認識します。古今東西、様々なピアノ協奏曲の中でも最難曲の一つといってもよいでしょう。

最後は1931年に完成されたラヴェルの《ピアノ協奏曲 ト長調》。フランスの女流ピアニスト、マルグリット・ロンに献呈されプレイエルホールにて初演されています。今回は1932年に初演を担当したロンと作曲家本人の演奏でお聴き頂きました。特に第2楽章は、世の中に存在するピアノ協奏曲の中でも最も美しい作品ではないでしょうか。ラフマニノフとは打って変わり、厳選された音で書かれた、非常に研ぎすまされた作品です。僕は中学生の頃にはじめて聴いて以来、ずっとこの曲のファンです。まだ他にも紹介したい作品は多数ありますが、皆さんもぜひピアノ協奏曲、いろいろと探してみてくださいね。

【オンエア楽曲】
♪M1 チャイコフスキー《ピアノ協奏曲 第1番》より第1楽章
 ピアノ:マルタ・アルゲリッチ、指揮:キリル・コンドラシン、バイエルン放送交響楽団
♪M2 ラフマニノフ《ピアノ協奏曲 第3番》より第3楽章
 ピアノ:マルタ・アルゲリッチ、指揮:リッカルド・シャイー、ベルリン放送交響楽団
♪M3 ラヴェル《ピアノ協奏曲 ト長調》より第2楽章 (1932年録)
 ピアノ:マルグリット・ロン、指揮モーリス・ラヴェル、コンセール・ラムルー管弦楽団

2月19日 ミシェル・ルグラン

2012.02.20


ちょうど今の時期は、各地で映画祭が開催されたり、また来週にはアカデミー賞授賞式が行われる時期ですね。映画の中でも音楽はとても重要な役割を果たしているわけですが、今夜はそんな映画音楽の大家として知られる、ミシェル・ルグランを特集してお送りしました。

1932年2月24日パリ生まれのルグラン。今週がちょうど誕生日ですが、今年で80歳になります。まだまだ現役でピアニスト、作編曲家として活躍中です!これまで3度のアカデミー賞、5度のグラミー賞に輝く映画音楽の巨匠で、「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「風のささやき」「おもいでの夏」等、多数の映画音楽を担当しています。また、クラシック、ポップス、ジャズと幅広いジャンルを網羅し、さらにミュージカル、オペラそして映画監督までこなしてしまうマルチな音楽家です。日本でも近年CMに楽曲が使われたりしています。

父親は映画音楽を手がける作曲家のレイモン・ルグラン、母親は楽譜出版社を経営という音楽一家に生まれました。6歳で本格的にピアノを習いはじめ、11歳でパリのコンセルヴァトワールに入学します。ほどなくして天才ぶりを発揮し、10代後半では、 アレンジャー兼伴奏者として生計を立てるようになります。そして20歳で通常よりも4年も早くコンセルヴァトワールを主席で卒業。その後ミシェル・ルグラン楽団を結成し編曲、指揮、ピアニストとして活躍し始めます。映画音楽にも携わるようになり、またジャズピアニストとしても活躍を始めます。30代、40代と多数の映画音楽を手がけ、50代の頃には初の本格的な舞台ミュージカル『壁抜け男』で新境地を開きます。1998年にフランスで初演されたこのミュージカル。もともとフランスではミュージカルが上演される機会がそれほど多くないような気がしますが、この作品は大ヒットを記録します。翌年1999年には日本へ、2003年には本場・ブロードウェイ進出も果たした話題作です。ちょうど現在、「劇団四季」で上演中です。実は僕も今月末に観に行く予定です。そしてまだ先のことですが、今年6月に、仙台フィルハーモニー管弦楽団との共演で、ルグランの作品を一つ演奏することになっています。ルグランが30代に作った《思い出の夏》(映画『おもいでの夏』の主題歌)、これをピアノ協奏曲風にアレンジした作品を演奏予定です。合わせてガーシュインの《ラプソディー・イン・ブルー》も演奏します。ガーシュインもルグランも、ちょうどクラシックと映画音楽との境界線上にあるような音楽で、またジャズの要素もあり、普段ショパンやベートーヴェンを演奏している僕からすると、少し新しいジャンルに挑戦するような気がしていて、今からとても楽しみです!

今夜は、ルグランの代表作から、日本でもCMに用いられている曲など、たくさんお聴き頂きました。いかがでしたか?皆さんもどこかで耳にしたことがある曲が多かったのではないでしょうか。映画音楽は、時に人の感情や感覚に寄り添うものだったり、また時には聴き手の想像力をかき立て、豊かにしてくれるようなものだったり・・・いろいろな楽しみ方ができるのも魅力の一つではないでしょうか。

【横山幸雄の今後の予定】
●デビュー20周年後期ロマン派三大協奏曲の夕べ
日時:年 2月 28日 (火曜日) 午後7時〜9時
場所サントリーホール (地図)
曲目:チャイコフスキー:第1番、ラヴェル:ト長調、ラフマニノフ:第3番
共演:指揮:小泉和裕氏、東京都交響楽団

●Voyageショパンからラフマニノフへ音楽の旅路 <リサイタル・シリーズ第2回(全12回)>
日時:年3月4日、午後3時〜5時
曲目:曲目:ショパン:プレリュードop.45、24の前奏曲 Op.28/ドビュッシー:前奏曲集 第1集
場所:三鷹市芸術文化センター風のホール


【オンエア楽曲】
♪M1 ミシェル・ルグラン《シェルブールの雨傘》(映画『シェルブールの雨傘』主題歌)
♪M2 ミシェル・ルグラン《Di-Gue-Ding-Ding》
♪M3 ミシェル・ルグラン《オーディナリー・マン》(ミュージカル『壁抜け男』主題歌)
/上記3曲ともに演奏:ミシェル・ルグラン

2月12日 フェリックス・メンデルスゾーン

2012.02.19


2月第2週目の放送では、今月生まれの音楽家の中からフェリックス・メンデルスゾーンを特集してお送りしました。2月生まれの音楽家は他にもたくさんいるんですよ・・・実は僕も2月生まれです!

少しご紹介すると・・・
2日フリッツ・クライスラー(1875-1962 : オーストリア出身、ヴァイオリン奏者、作曲家)
3日フェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847 : ドイツの作曲家、指揮者、ピアニスト)
9日アルバン・ベルク(1885-1935 : オーストリアの作曲家、12音技法、無調音楽)
15日アルカンジェロ・コレッリ(1653-1713 : イタリアの作曲家、ヴァイオリニスト)
20日カール・チェルニー(1791-1857 : オーストリアの作曲家、ピアニスト)
23日ゲオルク・ヘンデル(1685-1759 : ドイツ生まれ、イギリスに帰化した作曲家)
29日ジョアキーノ・ロッシーニ(1792-1868 : イタリアの作曲家、美食家)
 

メンデルスゾーンといえば、ヴァイオリン協奏曲で広く知られていますが、一般的にそれほど有名な曲が多い作曲家というわけではないように思います。しかし実は多作の人で、38年の短い生涯で断片を含めると750曲以上を遺しています。音楽家にはいろいろなタイプがあると思います。モーツァルトのように頭に思い浮かんだものをそのまま書けてしまうような天才タイプ、ベートーヴェンのように一つの曲をじっくり仕上げて行くタイプなど。ではメンデルスゾーンはどうかというと・・・明らかにモーツァルトタイプ。早熟の天才として知られています。10歳から作曲をはじめ、14歳で既に100曲を超える作品を作っています。しかし自身が存命中に出版されたのはOp.72までの厳選された作品のみ。彼が亡くなった後で、遺族や知人の音楽家たちが中心となり、さらに50曲ほど足され、Op.121までの作品が出版されました。

1809年2月3日、ハンブルクの富裕な名門に生まれたメンデルスゾーン。ありあまる才能を若い頃から発揮していきます。時代的にはショパン、シューマン、リストが生まれた頃と重なり、ロマン派の幕開けの時代に位置しています。メンデルスゾーンの音楽は、僕は聴いていると、とても心地良くさわやかな音楽という印象を持っています。ピアノを習っている人にとっては、学習曲、発表会用の作品としても親しみがあるのではないでしょうか。

また、指揮者として活躍し、過去の名作を発掘するなど、音楽史上、大変重要な功績を残した点も見逃せません。当時すでに忘れ去られていたバッハの傑作《マタイ受難曲》を再演してその価値を世間に知らしめたり、シューベルト、ベートーヴェンなどの作品を積極的に取り上げたりと、古い時代の名曲を再現するという、今では当たり前のことを慣習化させたのもメンデルスゾーンがはじまりと言われています。その他、34歳の時には自ら奔走して設立資金を集め、ライプツィヒ音楽院を開校し自ら院長となります。そして作曲とピアノの教授にはシューマンを呼ぶなど、音楽界の振興にも寄与しています。しかし38歳で突如亡くなってしまいます。なぜかこの頃は、ショパン、シューマンと短命な作曲家が続いています。

このように、作曲家、ピアニスト、指揮者、教育者として、音楽界全体でとても重要な役割を果たしたメンデルスゾーンですが、音楽以外の面でも、語学堪能、美術のセンスもプロ並みと、様々なジャンルにおいて才能を発揮しています。きっと何でも出来た人なのでしょうね。そんなマルチで才能豊かなメンデルスゾーンの作品を皆さんもいろいろ聴いてみて下さいね。またこれまでと違った一面が見えてくるかもしれません。

【横山幸雄の今後の予定】

●第278回神奈川フィル定期演奏会
日時:年 2月 17日 (金曜日) 午後7時〜9時
場所:横浜みなとみらいホール
曲目:ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番
共演:指揮:金聖響氏、神奈川フィル

●デビュー20周年後期ロマン派三大協奏曲の夕べ
日時:年 2月 28日 (火曜日) 午後7時〜9時
場所サントリーホール (地図)
曲目:チャイコフスキー:第1番、ラヴェル:ト長調、ラフマニノフ:第3番
共演:指揮:小泉和裕氏、東京都交響楽団

●Voyageショパンからラフマニノフへ音楽の旅路 <リサイタル・シリーズ第2回(全12回)>
日時:年3月4日、午後3時〜5時
曲目:曲目:ショパン:プレリュードop.45、24の前奏曲 Op.28/ドビュッシー:前奏曲集 第1集
場所:三鷹市芸術文化センター風のホール

♪ぜひ足をお運び頂ければと思います♪


【オンエア楽曲】
♪M1 フェリックス・メンデルスゾーン《ロンド・カプリチオーソ ホ長調》、
 /ピアノ:ジャン=イヴ・ティボーデ
♪M2 フェリックス・メンデルスゾーン
  《無言歌集 第5巻》より<春の歌>、《無言歌集第6巻》より<紡ぎ歌>
 /エヴァ・ポブウォッカ
♪M3 フェリックス・メンデルスゾーン《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調》
 /五嶋みどり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

2月5日 ゲストはチョン・セフンさん

2012.02.19


2月第1週目は、韓国のご出身で、ポッペラ歌手として韓国のみならず、ヨーロッパ、アメリカ、中国そして日本と、国際的に広く活躍されている、チョン・セフンさんにお越し頂きました。ポッペラ歌手とは、ポップ+オペラ=ポッペラという意味で、ポップスをよく聴く方には、少しクラシックの要素を、そしてオペラなどクラシックを楽しむ方には、少しポップスの要素を楽しんでもらえるような、両方のジャンルの要素をミックスした音楽を紹介していきたいということです。ちょうど1月25日に『Neo Classic』というアルバムも日本でリリースされたセフンさん。収録曲は<ネッラ ファンタジア>(映画「ミッション」より)、<愛のテーマ>(映画「ニュー・シネマ パラダイス」より)、<シンク オブ ミー>(ミュージカル「オペラ座の怪人」より)<オンブラ・マイ・フ>(歌劇「クセルクセス」より)、<アヴェ・マリア>(カッチーニ)<私を泣かせてください>など。日韓共同制作ドラマ『赤と黒』でも挿入歌としてセフンさんの歌声をお聴きになった方も多いのではないでしょうか?

なんと男声も女声も自由自在に出すことが出来るというセフンさん。今回のアルバムにも女声と男声を織り交ぜた曲が収録されています。普通は裏声にチェンジする音域があると思うのですが、セフンさんの場合は、特に境界線はなく、瞬時にチェンジするといった感じなのだそうです。実際に声を出して説明して下さいました! ポッペラ歌手として、オペラの曲をアレンジして演奏する機会も多いというセフンさん。常にポップスとクラシックとの中間、中庸のものを目指しているそうです。ジャンルにこだわるというよりも、いつも自分が感じるままに歌い、聴いて下さる方に「真心」を届けたい・・・そう願いながら奏でられるセフンさんの音楽は、きっとファンの方の気持ちもぐっとつかむのではないでしょうか。今後また日本でも、益々ご活躍されることと思います。楽しみですね! 次回はぜひ共演できたらと思います。



【オンエア楽曲】
♪M1 カッチーニ《アヴェ・マリア》
♪M2 エンリオ・モリコーネ《愛のテーマ》〜映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より 〜

1月29日 モーツァルト特集②

2012.02.19


1月最終週は、引き続き1月27日生まれの大作曲家、モーツァルト特集②ということで、ウィーンを中心に活躍した人生後半と、晩年の傑作をご紹介しました。

モーツァルトは、25歳頃からウィーンに定住するようになります。オペラの作曲やレッスン、楽譜の出版などで生計を立てていましたが、加えて自らの演奏会も頻繁に行うなど過密スケジュールの生活を送るようになります。そしてこの頃から自身が主催する演奏会用に、ピアノ協奏曲を連続して作曲しています。とりわけ28歳から30歳頃まではピアノ協奏曲第14番から25番までが、凄い勢いで書かれています。1曲目にご紹介したのは、ちょうどこの頃に書かれた《ピアノ協奏曲第20番》。モーツァルトの数あるピアノ協奏曲の中でも高い人気を誇る一曲です。

その後も、《ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」》、《ドン・ジョバンニ》など精力的に作曲活動を展開し、代表作のオペラ《フィガロの結婚》《魔笛》など大成功を収めたものの、晩年は徐々に人気に陰りがさし、借金がかさむなど、生活も苦しくなっていったモーツァルト。一説には、経済観念が希薄で収入以上に様々な経費がかさんだ、妻のコンスタンツェも浪費家であった、等言われています。そして、1781年、35歳で《ピアノ協奏曲第27番》を仕上げたのち、《レクイエム》作曲途中、筆半ばにして亡くなります。2曲目は、その最後のピアノ協奏曲より第3楽章をご紹介しました。最後とは感じさせない軽さと明るさをもった作品だと思います。特に第3楽章=フィナーレは、通常の早いテンポと比べ、比較的ゆったりした明朗な音楽です。曲調に深刻さはないものの、一歩一歩天国に近付いていくような、もしかしたらモーツァルト自身も死が近付いていることを感じていたのでは?と感じさせる作品です。

モーツァルトの活躍した古典派の時代は、ピアノがまだ未完成で、ダイナミックな表現やデリケートな表現も現代ピアノに比べると難しく、作曲上も、枠組みがしっかりしていて、例えばテンポ一つとっても、同じ楽章の間で大きく変化することはほとんどありません。それがベートーヴェンを経てロマン派に入ると、ドラマティックな表現やテンポの揺れも多くなっていきます。僕自身はモーツァルトを弾く機会はそれほど多くありませんが、より表現力が豊かになった現代ピアノで弾くと、ちょっとモーツァルトにしてはドラマティック過ぎるかな、と思ったり、逆に枠や抑制を重視するとモーツァルトの音楽がもつ生き生きとした新鮮さや即興的な要素が減ってしまったり・・・常にバランスを考えながら演奏するように心がけています。


【オンエア楽曲】
♪M1 モーツァルト 《ピアノ協奏曲 第20番 K.466》より第2楽章
 /ピアノ&指揮:ウラディーミル・アシュケナージ、フィルハーモニア管弦楽団
♪M2 モーツァルト 《ピアノ協奏曲 第27番 K.595》より第3楽章
 /ピアノ&指揮:マレイ・ペライア、ヨーロッパ管弦楽団

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