ON AIR REPORT オンエアレポート

6月10日 リヒャルト・シュトラウス 〜後期ロマン派の音楽 〜

2012.07.17


6月第2週目は、今から約150年前の6月11日に生まれたドイツの作曲家、リヒャルト・シュトラウス(1864年6月11日〜1949年9月8日)の音楽について、そして彼が活躍した19世紀後半から20世紀にかけての後期ロマン派の音楽についてご紹介しました。ドイツ後期ロマン派最後の作曲家といわれることもあるリヒャルト・シュトラウス。交響詩、オペラなど、管弦楽の作曲で広く知られ、また、指揮者としても活躍しました。(ちなみに・・・先週取り上げた、ウィーンのヨハン・シュトラウス一族とは血縁関係はありません!)

R.シュトラウスが活躍した19世紀の後半から20世紀の後期ロマン派は、次の新しい時代とオーバーラップしており、新しいもの、調性が崩れたもの、印象主義の音楽、など、様々な要素が混在していた時代でもあります。また西ヨーロッパ、ドイツ、イタリア、フランス、といった従来の音楽の中心地以外の周辺諸国の出身である作曲家が活躍し始めたのもこの時代です。同時代の作曲家としては、1860年代生まれだと、マーラー、ドビュッシー、シベリウス、1870年代生まれでは、スクリャービン、ラフマニノフ、シェーンベルク、ラヴェルなどがいます。ぱっとみても、音楽の多様性が混在した時代ということが分かりますよね。また、同じ作曲家でも初期の作風と後期とでは全く違う方向性を目指したという場合もあります。例えばスクリャービンやシェーンベルクなど作風の変化が著しいと思います。逆にラフマニノフは、生涯に渡りずっとロマン派のスタイルを受け継いだ作曲家です。自身がピアニストだったこともあり、ピアノ曲を多く書いた最後のロマン派の作曲家と言えるでしょう。とすればオーケストラ作品を多く書いたの最後のロマン派作曲家がR.シュトラウスといえるでしょう。 

そんなR.シュトラウスは、ピアノ曲ほとんどありません。僕が演奏したことがあるのは、初期の作品であるヴァイオリン・ソナタ、歌曲でしょうか。R.シュトラウスの歌曲にも素晴らしい作品が多くあります。ちなみにヴァイオリン・ソナタ、大変難しい作品で、ピアノも大活躍します。若いシュトラウスが、自らのやりたいことをいっぱい詰め込んだ作品といえるでしょう。ものすごく音符の数が多いのも特徴の一つでしょう。

クラシック音楽の流れにおいて、この後期ロマン派というのは、最も円熟していた時代といっても良いと思います。その流れの中で濃厚でロマンティックな作品もあり、逆に新しい方向を見据えた音楽もあり・・・いろいろな音楽が混在していた時代といってもいいでしょう。ピアニストにとっては例えばラフマニノフなど後期ロマン派の作品の中には素晴らしい作品がたくさんあり、大変魅力的な時代だと思います。


【オンエア楽曲】
♪M1 リヒャルト・シュトラウス 《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》作品28
  指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
♪M2 リヒャルト・シュトラウス 《ヴァイオリン・ソナタ》作品18
  ヴァイオリン:サラ・チャン、ピアノ:ウォルフガング・サバリッシュ
♪M3 ラフマニノフ《練習曲集「音の絵」》作品39 より第5曲
  ピアノ:横山幸雄 (CD『ラ・カンパネラ〜ヴィルトゥオーゾ名曲集』より)

6月3日 シュトラウス2世&ビゼー

2012.07.17


6月第1週目は、3日が命日の作曲家二人を取り上げました。その二人とは・・・
「ワルツ王」ヨハン・シュトラウス2世(1825年10月25日- 1899年6月3日)
「カルメン」で有名なジョルジュ・ビゼー(1838年10月25日- 1875年6月3日)
です。実はこの二人、誕生日も同じ10月25日。すごい偶然ですね!シュトラウス2世はウィーンで、ビゼーはパリで活躍しました。シュトラウスの方がビゼーよりも13年早く生まれ、24年長く生きていますが、ほぼ同時代に活躍した作曲家といえるでしょう。共に現在でも演奏される機会の多い人気作曲家ですが、生前は二人の境遇は正反対だったといえるでしょう。シュトラウス2世は、オーストリアの紙幣に肖像が描かれたこともあるほどの知名度を誇り、生前から大人気!その輝かしい活躍に比べ、生前はあまり評価されなかったのがビゼーです。現在では、代表作<カルメン>が広く知られていますが、この作品も初演は失敗に終わっています。そしてその初演からわずか3ヶ月後にビゼーは亡くなっています。同時代に活躍した二人ですが、生前から大人気だったシュトラウス2世と、死後ようやく認められたビゼー。クラシック音楽の分野では亡くなってから人気が出た作曲家の数のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。

さて、このビゼーですが、9歳でパリ音楽院へ入学しています。ピアノもうまかったそうですが、作曲家の道へと進みます。なんといっても代表作は<カルメン>。初演はあまり評価されなかったものの、これまでに数えきれないほど上演されれている大人気のオペラの一つです。僕も何度か見た事がありますが、ビゼーのカルメンは音楽的に全く無駄がなく楽しめるオペラの一つだと思います。オペラは、オーケストラ、合唱、ソリスト、舞台装置・・・全ての要素が入った総合芸術、総合エンターテイメントです。そういったオペラの素晴らしさを十分に満喫させてくれるのが<カルメン>ではないかと思います。実はビゼーはカルメン以外にもピアノ曲も遺しています。生前はピアノの名手と言われていたそうで、「ピアノの魔術師」と呼ばれたリストからも絶賛されたことがあるそうです。ご紹介した<ラインの歌>は、1865年の作で、ピアノ曲としては最後の作品になります。非常に聴きやすく、カルメンのような迫ってくるような迫力や音楽的な官能とは正反対の作品だと思いますが、いかがでしたか?



【オンエア楽曲】
♪M1 ヨハン・シュトラウス2世 ポルカ<ハンガリー万歳>
   指揮:ダニエル・バレンボイム、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
♪M2 ビゼー オペラ《カルメン》より<前奏曲>、<ハバネラ>
   指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
♪M3 ビゼー《ラインの歌》より<暁><帰還>
   ピアノ:ジャン・マルク・ルイサダ

5月27日 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ追悼

2012.05.31


日付も変わり5月28日。今日はドイツの名バリトン歌手、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが誕生した日です。20世紀を代表する歌手として、めざましい活躍を続けてきましたが、つい先日5月18日、87歳の誕生日を目前に亡くなったばかりです。オペラと歌曲(リート)の両分野で多大な功績を残し、特にリートでは、歌詞の深い解釈と豊かな表現力で知られ、後に続く歌手に大きな影響を与えました。なかでも、母国語でもあるドイツ語のリートはフィッシャー=ディースカウの活動の柱でした。イタリアオペラのような華やかな世界とはまた異なる歌曲(リート)の魅力を世に広めた歌い手の一人と言えるでしょう。素晴らしい録音も多数遺しています。僕も日本にいた頃は、ドイツ・リートも好きでよく聴いていました。フィッシャー=ディースカウも若い頃と晩年とでは、歌い方も異なり、年を重ねるごとに、よりドイツ的で厳格なイメージが増してきたように思います。演奏スタイルの移り変わりというのに注目して聴いてみるのも一つの楽しみ方ですね。また、同じ曲でも歌い手によってだいぶ異なりますので、いろいろな演奏家を聴き比べてみるとよいかもしれませんね。ご紹介した曲は、フィッシャー=ディースカウの活動の柱であったドイツ・リートよりシューベルト、シューマン、そしてメンデルスゾーンの作品を取り上げました。僕はどちらかと言うとオペラの中の代表的なアリアをピアノ伴奏することが多いのですが、リートもまたピアニストにとって魅力ある作品が多い分野です。シューベルトやシューマンの歌曲は何度かやったことがありますが、ピアノパートも単なる伴奏ではなく、前奏、後奏も重要な役割を担っています。リートのピアノにも注目して聴いて頂けると、また楽しみも広がるのではないでしょうか。

【オンエア楽曲】
♪M1 シューベルト<音楽に寄せて D.574>
  歌:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ピアノ:ジェラルド・ムーア
♪M2 シューベルト 歌曲集《白鳥の歌》より<セレナーデ>
  歌:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ピアノ:ジェラルド・ムーア
♪M3 シューマン《詩人の恋 op.48》より
   <美しい五月に><わたしの涙から><ばらに、ゆりに、はとに>
  歌:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ピアノ:アルフレッド・ブレンデル
♪M3 メンデルスゾーン 歌曲集《6つの歌》より<歌の翼に>
  歌:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ピアノ:ヴォルフガング・サヴァリッシュ

【今後の予定】
★Voyage三鷹リサイタル・シリーズVol.3
日時:6月7日(木) 、夜7時15分 開演
場所:(東京)三鷹市芸術文化センター・風のホール
曲目:ドビュッシー:前奏曲第2集/スクリャービン:前奏曲集op.11- 2、9、11、12、13、14
   ラフマニノフ:前奏曲集 op.22-2,4,5、op.32-5,10,12

5月20日 アレクサンドル・スクリャービン特集

2012.05.31


5月第3週目は、ロシアの作曲家、ピアニストであるアレクサンドル・スクリャービン(1872年1月6日〜1915年4月27日)を特集し、人生&音楽をご紹介しました。同じくロシア出身の音楽家の中では、チャイコフスキーの少し後、ストラヴィンスキーよりも少し前の時代に活躍しました。またラフマニノフとはモスクワ音楽院で同級生として共に学んだ仲間です。そんなスクリャービン、ピアノ曲を多く遺していますが、若い頃と晩年では作風が大きく変化しています。特に若い頃は「ロシア風ショパン」と呼べるほど、ショパンに強い影響を受けたものが目立ちます。そして、後期になると「神秘主義」に傾倒していき、調性の枠を超えたり、様々な新しい試みを取り入れたりと、独自の音楽表現を目指すようになります。

1曲目にご紹介したのは、初期の作品より《12の練習曲集》です。この練習曲集は、ショパンの作品10や25の練習曲集を意識して書かれたといわれています。特に第12番は、ショパンの同じく第12番の<革命>との類似性が示唆されています。この作品はスクリャービン自身も好んでよく弾いていたそうです。続いてご紹介したのは《24の前奏曲集》です。こちらも練習曲集と同様、ショパンの24の前奏曲と同じスタイルで書かれています。スクリャービンはその他にも多くの前奏曲を遺していますが、形式もより自由で即興的な要素もある前奏曲のスタイルがしっくりきたのかもしれませんね。ある意味、ショパンにとってのマズルカと同じような位置付けだったのかなと思います。最後にご紹介したのは晩年の作品より《ピアノ・ソナタ第10番》です。この曲は僕がパリで行った初めてのリサイタルで演奏した思い出の曲でもあります。ショパンのスタイルを踏襲した初期から比べると、だいぶ変化してきたことが感じられるのではないでしょうか。

さて、2曲目にご紹介した前奏曲ですが、来月のリサイタルでも取り上げます!ドビュッシーの第2巻の前奏曲集を全曲、そしてスクリャービン、ラフマニノフの前奏曲集より抜粋して演奏いたします。同じ前奏曲といっても、作曲家によって音楽的なメッセージが少しずつ違います。作曲家一人一人の音楽的センス、考え方の違いを聴き分けてもらえたらと思います。詳細は下記をご覧下さい。

【オンエア楽曲】
♪M1 スクリャービン《12の練習曲集 op.8》より第12曲番
 ピアノ:横山幸雄(「ヴィルトゥオーソ名曲集」2006年のアルバムより)
♪M2 スクリャービン《24の前奏曲集 op.11》より第1曲、第9曲
 ピアノ:ウラディミール・ホロヴィッツ
♪M3 スクリャービン《ピアノ・ソナタ 第10番》
 ピアノ:ウラディミール・アシュケナージ

【今後の予定】
★Voyage三鷹リサイタル・シリーズVol.3
日時:6月7日(木) 、夜7時15分 開演
場所:(東京)三鷹市芸術文化センター・風のホール
曲目:ドビュッシー:前奏曲第2集 / スクリャービン:前奏曲集op.11- 2、9、11、12、13、14
   ラフマニノフ:前奏曲集 op.22-2,4,5、op.32-5,10,12

5月13日 ヨハネス・ブラームス特集

2012.05.22


5月第2週目は、5月生まれの音楽家から、ドイツを代表する作曲家、ヨハネス・ブラームスを取り上げて紹介しました。ブラームスは1833年5月7日にドイツのハンブルクに生まれました。作曲家、指揮者として有名なブラームスですが、同時に優れたピアニストであったことも知られています。

僕もかつてブラームスの演奏会を全4回シリーズでやったことがあります。ピアノ曲の数はそれほど多くない方でしょう。若い頃にピアノ・ソナタなどの比較的規模の大きな作品を書いており、その後は変奏曲を、そして晩年になって小品集をまとめて書き上げています。ピアノ曲以外ですと、交響曲を4曲、その他室内楽、また合唱曲などを多く書いています。ブラームスは、決して筆が早いタイプでは、じっくりと作曲に取り組むタイプだったのではないでしょうか。いずれにしても、どの作品も非常に完成度の高いものであることは間違いありません。

ブラームスは同時代の様々な音楽家と交流がありますが、中でもシューマン夫妻との関わりは生涯にわたりブラームスに大きな影響を与えています。23歳年上のシューマンは、早い時期からブラームスの才能を高くかっており、評論を通してブラームスが世に出ることを後押ししてくれた張本人です。しかしほどなく、シューマンは若くして亡くなってしまいます。その後もブラームスはシューマン一家との交流を続け、特にクララ・シューマンとは、深い絆で結ばれていました。クララが亡くなった後、一年もしないでブラームスも亡くなっています。1897年4月3日のことでした。

今回、ブラームスのピアノの作品の中から、若い頃、30代、そして晩年と、それぞれの時代の作品をお聴き頂きました。こうして聴き比べていくと、若い頃の作品からすでに若さと同時に重厚感、落ち着きというものを兼ね備えていたように感じます。ブラームスの音楽は、どちらかというと、聴いて分かりやすい作品かというとそうではなく、何度も繰り返し聴くことで体にしみ込んでいくような味わい深い作品が多いと思います。僕もブラームスを演奏する機会はそれほど多くありませんが、久しぶりに聴いてみて、また改めて取り組んでみたいなと思いました。

【横山幸雄の今後の予定】
● Voyage三鷹リサイタル・シリーズVol.3
日時:6月7日(木) 、夜7時15分 開演
場所:(東京)三鷹市芸術文化センター・風のホール
曲目:曲目:ドビュッシー:前奏曲集第2巻
     スクリャービン:前奏曲集op.11- 2、9、11、12、13、14
     ラフマニノフ:前奏曲集 op.23-2,4,5、op.32-5,10,12


【オンエア楽曲】
♪M1 ブラームス《ピアノソナタ 第3番 op.5》より第1楽章
   ピアノ:エフゲニー・キーシン
♪M2 ブラームス《ハンガリー舞曲集》より第1番(ピアノ独奏版)
   ピアノ:エフゲニー・キーシン
♪M3 ブラームス《4つの小品 op.119 》より第1曲
   ピアノ:マレイ・ペライア

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