ON AIR REPORT オンエアレポート

7月15日 フランスの音楽家たち

2012.08.13


7月第3週は、7月14日の「フランスの革命記念日」にちなみ、フランスの作曲家の作品をいくつかご紹介しました。まず1曲目はドビュッシーから。<花火>はフランスの革命記念日の様子を描いたといわれる作品で、様々な花火の鮮やかな色彩が技巧的に描かれています。曲の最後の方で、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が遠くから聞こえてきます。さて、フランス革命は1789年ですが、ちょうど革命前後に活躍した作曲家をみてみると、バロック期のフランス作曲家では、リュリ、ラモー、クープランなどが活躍していました。その後、革命期を挟んで、ベルリオーズやサン・サーンスが出てきます。パリ音楽院が出来たのもこの頃ですね。実はフランス革命時に創設された無料軍楽隊学校が前身となり発展したものなんですよ。さらに革命後は、ショパンやリストなどフランス以外の出身の音楽家たちが、パリで活躍を始めます。

さて、フランス作曲家の中でも初めてご紹介したのが、シャルル=ヴァランタン・アルカン(1813〜1888)です。ちょうど来年生誕200年を迎える作曲家ですね。ちょうどショパンやリストと年齢的にも近く交流もあったようです。当時はリストと並ぶ技巧派ピアニストとして知られ、また作曲家としても活躍していました。ユダヤ教徒の両親のもとに生まれています。6人兄全員が父親の名前をとって「アルカン」と名乗ったそうで、兄弟全員、音楽家でもあります。幼い頃からピアノの才能を認められ、その後はサロンでの演奏会やコンサートなどをしばしば開いています。とりわけリストはアルカンのことを高く評価しており、パリに滞在したときには、必ずアルカンのもとを訪ねたそうです。19世紀初頭には本当にたくさんの素晴らしい音楽家たちがフランスで活躍していますが、アルカンの音楽はまたショパンやリストとも異なる雰囲気で興味深いですね。来年はちょうど生誕200年ということで、アルカンにまつわる演奏会なども多く企画されるかもしれませんね。

【オンエア楽曲】
♪M1 ドビュッシー《前奏曲集 第2集》より第12曲<花火>
  ピアノ:横山幸雄
♪M2 アルカン《短調による12の練習曲 作品39》より第3曲<悪魔的スケルツォ>
  ピアノ:ベルナール・リンガイセン
♪M3 サン=サーンス《ピアノ協奏曲 第2番》より第1楽章
  ピアノ:パスカル・ロジェ、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

7月8日 クラシック音楽&ジャズ

2012.08.13


7月第2週は、「クラシック音楽とジャズ」をテーマにお送りしました。クラシックとジャズの結びつきには様々な形がありますが、その中でもまずはクラシックとジャズの両面で活躍し、その融合を試みたアメリカの作曲家、ガーシュイン(1898年9月26日〜1937年7月11日)に注目しました。以前この番組でも特集したこともありますが、ガーシュインはポピュラー音楽とクラシック、ジャズとクラシックを融合させ独自の音楽を生み出しました。ときに「アメリカ音楽の父」と称され、後世にも大きな影響を与えました。ガーシュインが活躍し始めるのは1920年代、ちょうどアメリカでは独自の音楽が確立されようという時代です。ガーシュインは兄のアイラ・ガーシュインとともに数々の名曲を生み出して行きました。クラシックの作品の中にジャズのエッセンスを取り込んだ作風を試みたのはガーシュインが最初ではないかと思います。僕自身、ガーシュインはたまに聴くことはあっても、演奏会で取り上げることはほとんどありませんでしたが、今年6月には仙台フィルと《ラプソディー・イン・ブルー》を共演しました。バッハやベートーヴェン、ショパンなどのいわゆるクラシック音楽の作品と比べると、ガーシュインのこの作品は枠組みが大きく異なります。美しい旋律、楽しい情景が次々と現れる感じで、音楽の構成も異なりますし、もちろんハーモニーの使い方も異なります。僕にとっては新しい挑戦でしたが、最初はなかなか指が馴染まず、自然に反応してくれるまでに少し時間がかかりました。最終的には楽しく演奏できましたが、普段あまり馴染みのない作曲家の作品はやはり緊張感がありますね。

その他、クラシックにジャズのビート感を取り入れたり、有名なクラシックの作品をジャズ風に演奏したりと、両者の融合は様々な形がありますが、続いてはバッハの作品のジャズ風アレンジをご紹介しました。バッハの音楽はそれ以降の西洋音楽に比べるとハーモニー構造やメロディーが割合シンプルに出来ていますので、いろいろな形に発展させやすいのかもしれませんね。さらに近年は、もう少しクラシック的な形式とジャズ的なハーモニー、グルーヴ感が密接に結びついた新しい形の作品も生み出されてきています。その中からロシアの作曲家、ニコライ・カプースチン(1937〜)の作品もご紹介しました。実は日本でも静かなブームとなっているカプースチン。音楽大学でも試験曲に取り上げる学生がいますし、僕も教えたことはありますが、自分で演奏したことはありません。一度は取り上げてみたいと思います。

【オンエア楽曲】

♪M1 ガーシュイン《ラプソディー・イン・ブルー》
  ピアノ:アイヴァン・デイビス、指揮:ローリン・マゼール、クリーブランド管弦楽団
♪M2 バッハ《イタリア協奏曲》より第1楽章
  演奏・アレンジ:ジャック・ルーシエ
♪M3 カプースチン《3つの練習曲》作品67より第1曲
  ピアノ:ニコライ・カプースチン

7月1日 エリック・サティ

2012.08.13


7月第1週は、フランスの作曲家、エリック・サティ(1866年5月17日〜1925年7月1日)を特集してお送りしました。サティといえば、19世紀末から20世紀のパリで活躍した作曲家で、自由奔放、個性的な音楽スタイルで、「音楽界の異端児」と称されることもあります。ピアノ曲を中心に遺していますが、曲のタイトルがユニークということでも知られていますね。パリ音楽院に入学するものの、アカデミックな雰囲気が性に合わず退学してしまい、その後はモンマルトルのカフェやキャバレーのピアノ弾きをしながら作曲活動も行っていました。ところが40歳を目前にして改めて音楽学校に入学して勉強し直したりしています。型にはまらない生き方ですね。ちょうど時代的にはドビュッシーやラヴェルなどと同時代にあたりますが、伝統にとらわれないサティの革新的な音楽は、印象主義の作曲家や後進の音楽家たちに大きな影響を与えたとも言われています。また、「家具の音楽」(=環境にとけ込み生活の妨げにならない、聴くことを強要しない音楽)という考え方を提唱したサティはイージー・リスニングの先駆者でもありました。僕にとってのサティは、遊び心にあふれた作品が多く、曲自体は耳馴染みは良いけど、実際演奏するとなると覚えるのが大変そう・・・という印象です。

また番組後半では、ショパンの音楽活動を献身的に支えたジョルジュ・サンドの誕生日(7月1日)にちなみ、ジョルジュ・サンドとの思い出がつまった1曲を選んでみました。《24の前奏曲集》は、二人がマジョルカ島で過ごした際に大半を仕上げた作品です。最も有名な<雨だれ>に続きドラマティックで勢いのある第16番で曲集の一つの盛り上がりを迎えます。そしてこの第17番がちょうど折り返し地点となり、後半へつながる構成であるような気がします。

【オンエア楽曲】

♪M1 サティ《3つのジムノペティ》より第1番
 ピアノ:アルド・チッコリーニ
♪M2 サティ《あなたが欲しい(ジュ・トゥ・ヴー)》
 ピアノ:アルド・チッコリーニ
♪M3 サティ《嫌らしい気取りやの高雅な3つのワルツ》
 ピアノ:高橋佳子
♪M4 ショパン《24の前奏曲集》より第17番
 ピアノ:横山幸雄

6月24日 生誕150周年 ドビュッシー生演奏特集

2012.07.17


6月最終週は、ちょうど今年が生誕150周年のドビュッシーの作品を中心に、久々に僕の生演奏でたっぷりとお届けしました。ドビュッシーはこれまで何度か番組で取り上げていますが、ショパンやリストの時代より50年ほど後にパリで活躍した音楽家です。初期の作品は、とりわけショパンの影響を受けているといえるでしょう。当時、ショパンの音楽の影響は大変強く、ドビュッシーのようなフランスの作曲家だけでなく、ロシアのラフマニノフ、スクリャービンなども若い頃の作品はとてもショパン風だと思います。そして、徐々にショパン風から抜け出し、それぞれ独自の作風を確立していきます。ドビュッシーの場合は、印象主義とよばれた作風へと移って行くわけですが、もともと「印象主義」というのは絵画の方で生まれた考え方です。ドビュッシーは<版画><映像>といった作品にはじまり、<前奏曲集>である意味、印象主義の音楽の完成形へと達したように思います。第1集、第2集と合わせて、計24曲あり、ドビュッシー自身によってタイトルが付けられています。タイトルというと、通常は冒頭に書かれるわけですが、この作品の場合は、最後にメモ書きのように遠慮がちに添えられています。このことから、タイトルのイメージにとらわれて欲しくない、というドビュッシーのメッセージが込められているのかもしれません。24曲の中には、軽快でウィットに富んだ作品から哲学的な作品まで幅広い音楽が含まれています。ドビュッシーの音楽は、まるで詩のような、単語が羅列されているような・・・ぱっと聴いて「好きだな」と思う方と、「よく分からないな」と感じる方と分かれるかもしれません。もしかしたら何度か聴くうちに、その魅力にはまっていくのかもしれません。僕自身は、10代後半から生活していたパリの雰囲気が懐かしく、今でも疲れたりすると、ドビュッシーやフォーレなどフランスの作品をなんとなく弾きたくなります。今回は前奏曲集を中心に、僕がプロデュースする渋谷のリストランテGにて収録したものからお届けしました。

【オンエア楽曲】
♪M1 《前奏曲 第1集》より<亜麻色の髪の乙女>
♪M2 《前奏曲 第1集》より<パックの踊り>
♪M3 《喜びの島》
♪M4 《前奏曲 第2集》より<ヴィーノの門>
♪M5 《前奏曲 第2集》より<オンディーヌ>
 ピアノ:横山幸雄

6月17日 バッハ作品のアレンジいろいろ

2012.07.17


6月第3週目は、約200年前の6月17日、パリで生まれたフランスの作曲家、シャルル・フランソワ・グノー(1818年6月17日 - 1893年10月18日)をまずご紹介しました。グノーといえばなんといっても<アヴェ・マリア>が有名ですね。ただし、この作品はバッハの『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1曲の前奏曲を伴奏として、そこに新たな歌をかぶせた曲です。このようなバッハの作品をもとにしたアレンジ曲は、グノーの他にも、多くの作曲家が取り組んでいます。その中からいくつかバッハ作品のアレンジ、編曲をご紹介しました。

アレンジと一言でいってもその方法は様々・・・①<グノーのアヴェ・マリア>のように既存曲をそのまま活かし、自由にメロディーを付け加える、②ある楽器(群)のために書かれた楽曲を、異なる楽器や編成に編曲する、③ある主題(テーマ)をもとに、リズム、拍子、音高などを変化させたり、装飾を付けるなどして変奏する。といった方法が考えられるかと思います。実は僕も、<バッハ=グノーの主題による即興曲>という作品を作っているのですが、いつもエンディングで使われている曲です。原曲はバッハ、そこにグノーが旋律をのせて、さらにそれを僕がアレンジしています。演奏することが急に決まったため、短時間でほぼ即興に近い形で作り上げました。

さてその他のアレンジとして、音楽特有かもしれませんが、人名を音に読み替えて、その音型をモティーフに作曲するという手法があります。バッハの名前をモティーフにした作品も数多く作られています(B-A-C-H=シ♭ーラードーシと音に置き換えることができます)。バッハ自身もこのモティーフを使って作曲していますし、その他シューマン、リスト、リムスキー=コルサコフ、ブゾーニ、レーガー、オネゲル、プーランクなどが作品を遺しており、ヨハン・セバスチャン・バッハへの敬意の表明として使われています。プーランクのワルツなんかは、とても軽やかで洒落た作品に仕上がっています。いろいろなアレンジ方法で出来上がった作品を聴き比べてみるのも面白いですね。


♪M1 バッハ=シャルル・グノー《アヴェ・マリア》
  歌:ルネ・フレミング、指揮:アンドレアス・デルフス、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
♪M2 横山幸雄 <バッハ=グノーの主題による即興曲>
ピアノ:横山幸雄
♪M3 プーランク《BACHの名による即興ワルツ》 
  ピアノ:パスカル・ゴダール
♪M4 リスト《Bachのモティーフによる前奏曲とフーガ》より<前奏曲>
  ピアノ:パスカル・ゴダール

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