2023年1月15日

堀江敏幸
『送り火』
(新潮文庫・『雪沼とその周辺』)

「子どもら」と言っても絹代さんと陽平さんの、ではありません。ふたりはこの夏のはじめにひとり息子の十三回忌を済ませたばかりでした。穏やかでお互いを大切にしている夫婦の過去にどんなことがあったのか?「送り火」を読んでいくと、ふたりの出会いのきっかけから結婚するまでの経緯、そしてひとり息子を失った悲しみが綴られています。普通の人々の人生の中にも文学的な一瞬が隠れていて、それを見つけ出し小説として残していく堀江敏幸さん。この作品のラストも印象的です。40以上もあるランプに、庭で火を灯すことを決心した絹代さんは、その火を山の上から眺めたいと願います。それは大切なものを失ってしまった現実を受け入れようとする、自分にとっての「送り火」なのかもしれません。

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