2022年4月17日

川端康成
『掌の小説』
(新潮文庫)

「掌の小説」の中から今回最初に取り上げたのが「指環」という作品。貧しい法科大学生が翻訳の仕事を持って山の温泉場に行き、そこである少女と出会うという内容です。その少女は岩を穿った湯船に裸で立っていて、どこか「伊豆の踊子」とも重なる小説。実際に川端康成が伊豆を旅した時の体験がもとになっています。短編よりもさらに短い作品のことを「掌編小説」と呼びますが、まさに掌に入ってしまうぐらいの短いお話。しかし短いからこそ、そこに描かれているものは、心の奥底、深いところまで続いています。川端の心の引き出しを開けては覗き、開けては覗くような読書体験。そこに見つけたのは、人間誰もが持っている「ゆがんだ心」なのかもしれません。

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