2022年2月13日

井伏鱒二
『朽助のいる谷間』
(新潮文庫)

タエトは、朽助の娘とアメリカ人の間に生まれた少女。育ったハワイから一昨年、日本に戻ってきました。その彼女の手紙には、朽助が暮らしている家がダム建設のため、水の底に沈んでしまうことが記されていました。しかし朽助はいかなることがあっても立ち退かないと言っているとか。その手紙を読んだ「私」は、朽助とタエトに会いに出かけていきます。美しい自然とどこかユーモラスでもある朽助と「私」の豊かなつながり。それはまるで1枚の絵のように心に伝わってきます。実は井伏鱒二は、若い頃から絵が好きで、早稲田大学に通いながら、週に1,2度は絵の勉強も続けていました。絵を描くことと文学。「朽助のいる谷間」は、井伏鱒二の持つ二つの才能が見事に溶け合った小説です。

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