心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。
「富士には月見草がよく似合う」という言葉でも知られる「富嶽百景」。昭和14年、太宰治が29歳の時に発表した小説です。主人公は思いをあらたにする覚悟で、かばんひとつ下げて秋のはじめの甲州に出かけます。向かった場所は、海抜1300メートルという御坂峠の頂上にある「天下茶屋」。そこにはこもって仕事をしている作家の井伏鱒二がいました。太宰治は、14歳の時に井伏鱒二の「山椒魚」を読んで座っていられないぐらい興奮し、21歳の時に師事。井伏の紹介で甲府出身の女性とお見合いをして結婚もしています。そのエピソードも盛り込まれた「富嶽百景」。青年時代の太宰治の初々しさも感じる作品です。
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