2017年5月14日

田山花袋
『田舎教師』
 (新潮文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

田山花袋と言えば、まず浮かぶのが妻子ある文学者が主人公の「蒲団」という小説。彼は、弟子だった女学生がふるさとに帰ってしまったあと、部屋に残された彼女の蒲団の匂いをかいで泣きます。その衝撃のラストシーンは忘れられません。今回取り上げた「田舎教師」は、「蒲団」から2年たった明治42年に出版された小説。主人公は林清三という若者です。5年間の中学校生活を終えた彼は、友人たちと同じように進学の希望を持っていましたが、家が貧しかったために小学校の先生として働くようになります。文学や音楽への夢、恋、友情、母の愛など、その日常が淡々と描かれている小説。飾り立てずありのままの姿を追求する自然主義文学の代表作です。

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