2016年5月8日
椋鳩十
『片耳の大シカ』
 (偕成社文庫)

椋鳩十が動物の物語を書き始めたのは昭和13年。そして昭和16年頃には精力的に執筆しています。昭和16年というと太平洋戦争が勃発した年。その当時を振り返って椋鳩十はこんなふうに語っています。「当時は殺すこと、死ぬことが正義であるという考えが大手を振ってまかり通っていた時代。私は気が小さい臆病な人間でしたが、せめて自分の心にいつわる卑怯者にだけはなりたくないとひそかに思うのでした。人間でない野性の動物をかりて、生きることがどんなに尊いことか、愛し合うことがどんなに美しいかということを若い人々に語りかけたいと思いました」。椋鳩十のその想いは、戦後70年以上たった今、あらためて響いてくるのです。

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