心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。
昨年の10月13日、87歳で亡くなられた丸谷才一さん。小説家、文芸評論家、翻訳家、エッセイストとして数多くの作品を残されていますが、今回は1988年に川端康成文学賞を受賞した「樹影譚」を取り上げました。樹の影が魅惑的に描写されている書き出しはまるでエッセイ。しかし読み進めていくと作家を主人公にした小説だということがわかります。彼は樹の影をモチーフに小説を書こうとする。しかしそれはすでに他の作家が書いているのではないかと思うのです。フィクションの中にフィクションが。小説の中に小説が含まれている不思議で複雑な構造。その隅々まで丸谷才一さんの手が行き届いている作品です。
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