2013年09月29日

辻邦生
『安土往還記』
 (新潮文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

小説家でフランス文学者でもいらした辻邦生さん。「安土往還記」は、1968年に発表された辻さんの初期の作品。「文部省芸術選奨新人賞」にも輝いた小説です。テーマは織田信長の時代。その描き方は今までにないものでした。まずフランスで発見された古写本に長文の書簡断片があって、それを日本語に訳したというところからはじまります。その手紙を書いたのはイタリア・ジェノヴァ生まれの船員。彼は宣教師と一緒に16世紀の日本に降り立ちます。異国の地からやってきた人物を通して描いた織田信長とその時代。日本という国や日本人について、あらためて感じるきっかけも与えてくれる貴重な作品です。

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