2013年05月12日

水村美苗『母の遺産 - 新聞小説』
 (中央公論新社)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

2010年1月からおよそ1年3ヶ月間、読売新聞の土曜朝刊に連載されていた水村美苗さんの小説「母の遺産―新聞小説」。昨年、大佛次郎賞を受賞して話題の本になっています。物語の主人公・美津紀は50代の女性。彼女は様々な問題を抱えています。母親の介護、夫との関係、そして自分自身も体の衰えを感じている。どこにでもありそうな状況だからこそ、読者は共感を持ってしまう作品です。しかしあまりにも正直すぎる言葉の数々。特に年老いた母親を前に、美津紀と姉が繰り広げる会話。その本音はショッキングなほど。読むことで、読者はあらためて自分と母親の関係を見つめなおすきっかけにもなる。そんな小説でもあります。

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