2013年04月07日

佐藤春夫
『田園の憂鬱』
 (新潮文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

大正8年に完成した佐藤春夫の小説「田園の憂鬱」。物語の主人公は若き詩人。彼は都会の重圧と喧騒を逃れ、妻と2匹の犬と1匹の猫を連れて、武蔵野の山里に引っ越します。しかし実際に住んでみると、自然の脅威を感じるような場所。やがて彼は、絶え間ない幻覚と焦りに悩まされていくのです。この物語は、実際に佐藤春夫の体験がベースになっているとか。「田園の憂鬱」を発表する3年前、当時、同棲していた芸術座の女優と犬2匹猫2匹を連れて神奈川県に移り住み、5月から3ヶ月間暮らしたそうです。自分の憂鬱にとことん付き合っている物語の主人公。その姿は、詩人としても作品を残した佐藤春夫と重なります。

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