2012年09月23日
『蜻蛉日記』
 (角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス)

「蜻蛉日記」を通して、作者である右大将道綱母がどんな女性だったのかを知ることもできます。夫に対する不満に執着しすぎる部分もありますが、しかし彼女が残した和歌には素晴らしいものも多く、たとえば「袖ひづる時をだにこそ嘆きしか身さへ時雨のふりもゆくかな」。「涙で袖が濡れるのを嘆いていたが、今は袖どころか身まで時雨に濡れ、涙に濡れながら年老いていく」という意味の和歌です。平安時代、ただ待つだけの人生しか許されなかった女性。彼女たちが唯一自由にできたことが和歌や日記を書くことだったのかもしれません。1000年前、文学にそれだけの意味があったことを「蜻蛉日記」は教えてくれます。

...前に戻る