2012年04月15日
葛西善蔵
『子をつれて』
 (講談社文芸文庫)

自分の体験を赤裸々に描く私小説。その代表作というと以前取り上げた田山花袋の「蒲団」を思い出します。あの小説は明治40年の作品。真実の姿を追求する「自然主義文学」の流れを作り、私小説というジャンルもここから生まれました。葛西善蔵の「子をつれて」は、さらに11年たった大正7年に発表。これを読むと田山花袋が生み出した私小説の世界が、葛西善蔵によってしっかり受け継がれているのがわかります。人間の恥ずかしい部分を徹底的にえぐり出す私小説。葛西善蔵の場合は、どんなに生活が苦しくても不思議と絶望していないのが特徴。自分の破滅的な人生も、最終的にはそれを文学という形に残すことができたからなのかもしれません。

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