2010年11月21日
織田作之助
『夫婦善哉』
 (新潮文庫)

「夫婦善哉」という題名が、法善寺境内にあるぜんざい屋さんの店名から付けられているなど、この小説の中には大阪の「うまいもん」が数多く登場します。湯豆腐、ドテ焼き、粕饅頭、そして「自由軒」の玉子入りライスカレー。もともと作家の織田作之助自身が、仕出し屋の息子で、庶民的味が大好きだったとか。自分が普段よく食べていたものを登場させているので味覚にもリアリティがあります。なかでも印象的なのが蝶子の父親が商いをしている「一銭天麩羅」。牛蒡、蓮根、芋、三つ葉、蒟蒻などを揚げる冒頭のシーンから美味しそうな匂いが流れてくるのです。笑いあり涙あり、そしてB級グルメあり。まさに大阪ならではの文学作品です。

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