2010年05月30日
堀辰雄『風立ちぬ』 (新潮文庫ほか)

小説「風立ちぬ」は、作家の実体験をもとに書かれています。昭和9年、堀辰雄は軽井沢で知り合った矢野綾子という女性と婚約。しかしその翌年、二人で富士見の診療所に入り、12月にその婚約者は亡くなります。「風立ちぬ」の最後の章は「死のかげの谷」。最愛の人を失って3年半ぶりに、思い出の場所を訪ねる主人公の心が描かれています。そこに挿入されているのはオーストリアの詩人リルケの「レクイエム」。「私は死者達を待っている。」という言葉からはじまるこの詩に自分の想いを託すのです。絵画のように、詩のように、心に残る小説「風立ちぬ」。まるで見えない風をつかまえるような生と死の時間が刻まれています。

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