2010年05月30日
堀辰雄『風立ちぬ』 (新潮文庫ほか)
心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

堀辰雄が、昭和11年から13年にかけて発表した「風立ちぬ」。フランスの詩人ポール・ヴァレリーの詩句「風立ちぬ、いざ生きめやも。」を主題にしたこの小説は、タイトルからもわかるように、死の間際にいる人の「生」を鮮やかに綴った作品です。病床にある婚約者・節子に寄り添い、一緒にサナトリウムに入る主人公。死にゆく最愛の人を見守る中で静かな時間が流れていきます。「この小説が読み継がれている理由は、安易に泣かせるだけの作品ではないから」と小川洋子さん。冷静に死をみつめる中から生まれた言葉は、まるで1枚の絵画のように美しく、読む人の心の中にも風のように入っていくのです。

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