2007年10月21日
宮本輝 『錦繍』
心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

宮本輝の「錦繍」。手紙を通して物語が進んでいく「書簡文学」の傑作です。かつて夫婦だった男女の物語。その夫は不倫相手と心中事件を起こし、ひとり生き残ってしまいます。そんな夫を妻は許すことが出来ず離婚。しかし10年の時を経て、偶然にも紅葉の美しい蔵王で再会。そのことがきっかけで妻だった亜紀は、元夫の有馬に宛てて一通の手紙を出すのです。傷ついた妻、傷つけてしまった夫。主人公のふたりは、手紙のやりとりを繰り返す中で次第に過去を受け入れ、そこから心の再生へと向かっていきます。
亜紀はモーツァルトの音楽の中に「生と死」の真理を見つけ、有馬は新しい恋人である令子との暮らしに、ひと筋の光を見いだすのです。

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