ドアを開けると、アーティスティックな落書きに埋め尽くされたステージで、すでに「くるり」が音出しをしていた。相も変わらず、リハーサルとは思えぬレベルの高さと完成度。相も変わらず、"プロフェッショナル" を見せつける。見せつけられている中に、3人の姿があった。ライヴハウスの片隅で、固唾を呑んでプロのスタンバイを見つめる3人の18歳。リハーサル前に、狭い畳の楽屋で、くるりのメンバーとすでに交流していたせいか、固い緊張ムードはない。実家の京都に帰省していた岸田先生から、名物のおまんじゅうをお土産でもらったり、お茶飲みバナシをしていた事で、むしろ早くも仲良しになれた大先輩のリハを見れて嬉しい!と言った空気感。
「はい、それじゃ、次ぎ、米騒動さん、リハよろしくー!」
とは言うものの、この指示を皮切りに、やはり一気に焦燥感と緊張感のオーラに包まれた3人。最終日も、閃光アーティストのリハの様子を、一部始終、くるりの面々が見つめている。
しかしパッと見、ペースは崩さない。クールで淡々とした狂気をまとうベースのしょうこ。相変わらずパワフルで怒濤のドラミングを見せる坂本。堂々とした表情、ソリッドなリフで空間をビリビリ振るわすボーカルギターのまなみ。ところがその実、なかなか音色が決まらない。バンドの出音のバランスが揃って来ない。何度も入念に、リハを繰り返す。音が途切れると、彼らの代表曲「Hys」の耳に付くギターフレーズを、口ギターで口ずさむ「くるり」の談笑がわずかに耳に届く。決して表には出さないが、間違いなく、内心の動揺が3人に伝染して行く。諦めか開き直りか、どちらかに似た感覚が、"潔さ" に変わった瞬間、リハーサルは終了。後は、いわゆる "野となれ山となれ" 状態で開場時間を迎えた。 |