道路交通上では様々な場面で優先される立場と優先すべき立場があります。
それを理解していない、あるいはルールを守らないドライバーがいたなら
交通事故が起こってしまう可能性が高まります。


今週はJAF 東京支部  事業課 交通環境係 高木孝さんにお話を伺い
道路交通上の「優先」についてお伝えしました。





高木さんによると道路上に「優先」を設ける理由は大きく2つあります。
1つは円滑な交通の流れをつくること。もう1つは交通弱者の安全を守ること。

誰もが「我先に」の姿勢をもてば、そこかしこで事故が起きてしまうでしょう。
交通社会の一員である全員が「優先」というルールを守る義務があります。
では、例えばどんな「優先」があるのか? 高木さんによるとまずは交差点。

例えば一時停止の規制がある側というのはこれは譲らなければならない。
中央線がある側とか車両通行帯が決められている道路と
そうでない道路が交差している場合では車両通行帯があったり
中央線がある道路の方が優先。

そして、自転車と歩行者では歩行者が優先ということも忘れてはいけません。
自転車は基本的に車道を通行しなければいけませんが、
歩道の中には自転車の通行が認められている箇所もあります。
そういった歩道では自転車は通行が認められていても歩行者優先。
歩行者の安全を脅かしてはいけないのです。





交通においては、頻繁に「優先」があることを
常に頭においておくことが必要でしょう。
日々の運転の中で他の誰かを優先するべきか
考えこまなくても判断できることが望まれます。

他にも交差点では右折と直線の関係性だと直進車が優先。
右折をしたいドライバーは前方から直進してくるクルマが見えていても
「まだ距離が少しある、曲がれる!」とハンドルを切ることもあるでしょう。
これ、けっこう危険なんです。

「どのタイミングで右折するか?」というJAFの実験によると
交差点から30m離れたところに直進車があった場合には
「右折しない」と答えた方が多数。40m離れていても大半が「右折しない」。
ところが、50m離れた時に「右折する」と答えた人が過半数を超えました。

この交差点までの距離と時間を検証してみましょう。
右折にかかる所有時間は意外に個人差があまり無く「4秒」。
そし「50m」と「4秒」の関係が意外に微妙です。

対抗直進車が50m先から時速40kmで走ってきた場合、
4秒後に進んでいる距離は44m以上。時速50kmだと56m以上。

つまり、完全にアウト。
それにも関わらず現実は事故がないとうのは、対抗直進車が速度を緩めているから。
目に見えない協力関係が、交通の何気ない場で働いているのです。





このタイミングで道路交通上の「優先」と聞いて、
多くの人が頭に浮かぶのは「信号がない横断歩道での歩行者優先」でしょう。
いま「日本ではいかに多くのクルマが停まらないか」問題になっています。
信号のない横断歩道での歩行者優先は思いやりやマナーではありません。
道路交通法に定められていることです。





折しもJAFが昨日「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における
車の一時停止状況全国調査」の最新版を発表しました。

結果は停止率が全国平均17.1%。
前年度の調査の8.6%からは上昇しました。
一番停止率が高かったのは長野県68.6%、続いて静岡県52.8%。
気になるのは人口が多い東京都の5.8%。
これは平均をかなり下回って47都道府県中43位。

この数字はなんとかしたいもの。
いまは全国に海外からの観光客の方がいます。
クルマが停まってくれる自国のように行動している人も多いはず。

来年の東京オリンピック。
さらに多くの人が日本を訪れるでしょう。
車を運転する方は自分自身はきちんと停止しているか?
胸に手を当てて考えてみていただけたらと思います。

「優先」すべき側が「優先」されるべき側をきちんと「優先」する。
それは余計な事故を回避できて結果的に「優先」すべき側も守ることにもなるはずです。


日本では交通事故死亡者ゼロを目指してさまざまな対策や
交通安全のための施策があります。

結果として、その数は年を追うごとに減少。
去年2018年は前年から162人マイナスで
1948年の統計開始以降、最も少ない3,532人でした。

減っているのは喜ばしいことですが、
まだ3,500人を超える方が亡くなっているという現実があります。
また、交通事故全体の数も前年から4万件も減っていますが、
それでも43万345件も起こっているのです。
そこで、今週はもっと交通事故が減るように
諸外国での交通安全に対する取り組みを見てみました。
いずれも日本で少しずつ広がっていることです。


<トリックアートを使った横断歩道>

人間の目の錯覚を利用した絵や造形物「トリックアート」。
それを横断歩道や道路上のマークに取り入れたのです。
始まりはフィンランドだと言われています。
ドライバーからは横断歩道のラインなどが立体的に浮き上がって見える。
そうすると反射的に気をつけようとスピードを落とるというもの。
信号のない交差点の手前や車道の両側
中央線や歩道との境界線を超えないように
この方法がとられているところもあります。


<早めのヘッドライト点灯>

日暮れが早くなってきました。
ドライバーの皆さんは早めのヘッドライト点灯を実行していますか?
海外では日中でもヘッドライトの点灯を義務付けている国があります。
チェコ、ブルガリア、フィンランド、ハンガリー、ノルウエーなど。
「義務」ではなく「推奨」を入れればヨーロッパではさらに多数。
ヘッドライトはいつでも点けることが常識になってきています。

早め点灯のメリットは視界の確保はもちろん、
自分のクルマの存在を他のクルマや歩行者、
自転車を乗る人に気づいてもらえることです。
いずれ日本も日中でも義務化されるようになるかもしれません。


<ラウンドアバウト>

イギリスで生まれて世界に広まる現代版「ラウンドアバウト」。
日本でも2014年の道路交通法改正で「環状交差点」として法律的に法整備され
少しずつ全国に広がっています。

ラウンドアバウトは信号がなく、円を描いている交差点です。
日本では左側通行なので右回り。
一方通行で円を描くようにクルマが走り、             
環状内に入るクルマは交通の流れを見極めながら徐行でアプローチします。
環状内から出ていくときは左折をする感じで次の進路へと向かいます。

この交差点のメリットはスピードが出せないこと。
他のクルマと衝突しても大きな事故になる可能性は低いのです。
また、信号のための電力を必要としないため災害に強いという側面もあります。


<飲酒運転に対する処罰>

法律違反に対して厳格な処罰が待っている国もあります。
デンマークでは飲酒運転で検挙された場合、運転免許は取り上げ。
クルマは没収されてオークションで競売にかけられてしまうそうです。
売り上げは国のもの。

また、フィンランドではスピード違反に対する罰金の額が膨大。
収入や扶養家族の人数などによっても変わってきますが、
何百万円、何千万円も請求されることがあるといいます。

厳しすぎるという見方もあるかもしれないが、
悪質な交通違反には、そのくらいのペナルティがいいのかもしれません。


<ビジョン・ゼロ運動>

いま交通先進国では交通事故死者数をゼロにする
「ビジョン・ゼロ」という本気の取り組みが始まっています。
その先駆けがスウェーデンで1997年に道路交通安全法が成立しました。

これは長らく続いてきた、多くの国と地域では今でも続いている、
ドライバーの過失を無くすというアプローチから脱却しようというもの。
ドライバーなどの道路利用者が交通安全の責任を持つという考え方をやめて
交通システムを作る側が安全性に責任を持つという前提に立っています。


<厳しいスピード制限を設ける>

・正面衝突事故のリスクのある道路では70km/h以下
・側面衝突事故のリスクのある道路では50km/h以下
・歩行者・自転車と車が衝突する可能性のある道路では30km/h以下


<過失があっても事故が起きない、
 事故が起きても重傷や死亡に繋がらない交通システムを整備>

・自転車専用道路をつくる
・道路を作るときにスピードが出ないような仕組みにする


安全のためには、多少のmobiltyが失われてもやむ無しとするのです。
海外の学ぶべき交通安全アプローチは、
どんどん日本も導入を検討して、
1つでも交通事故の数が減らしたいものです。



週明けの9月30日 月曜日までは、
「令和元年 秋の全国交通安全運動」実施期間。
今週は、その重点ポイントをお伝えする、後編をお送りしました。
お話を伺ったのは警察庁 交通局 交通企画課の 熊谷 優子さん。

今週、特に絞って話を聞いたのが、今回5つある重点ポイントのうち、
「子供と高齢者の安全な通行の確保」についてです。

それは小学生以下の子供の死者、重傷者数は減少傾向にあるものの
今年の4月以降、子供が犠牲となる事故が相次いで発生していること、
さらに高齢者の死者数も減少傾向ですが、
依然として死者全体の半数以上を高齢者が占めているからです。

幼児も含めて小学生以下の子供は歩行中の事故が多くなっています。
高齢者は歩行中と自転車乗用中が多く、歩行中では70%以上を、
自転車乗用中でも約66%を高齢者が占めています。
特に10月から12月は、1月から3月に比べると高齢歩行者の死者数は3割以上、
高齢自転車乗用中の死者数も4割以上多くなっているので注意してください。

また最近、日本ではあまりに多くの車が信号のない横断歩道の前で、
歩行者がいるのも関わらず、停車しないと指摘されています。
横断歩道では歩行者の優先が義務づけられていること。
ドライバーは横断歩道手前における減速義務と
横断歩道における歩行者優先義務を再認識して下さい。

平成30年度交通安全ファミリー作文コンクール 
警察庁長官賞を受賞した当時小学1年生 
永幡樹一くんの作文を紹介しましょう。

僕の弟は車椅子に乗っています。
まだ3歳なので、疲れて道路の真ん中で急に止まったり、横断歩道の後、
段差が上れなくて困る事があります。
そんな時、すぐ近くを車がスピードを出して通ると、とても怖いです。

それから、僕の家の近くを、白い杖を持ったおじさんが通ります。
そのおじさんが横断歩道を渡るのをみていたら、周りの車は、
おじさんが渡り終わるまで、皆止まって待っていました。
僕はその時、車に乗っている人達がとても優しいなと思いました。

大人はいつも忙しそうです。車も急いで道を通っています。
だけど、僕の弟や白い杖のおじさんのように、
道をゆっくり通らなければならない人もいます。

だから、白い杖のおじさんを見守った車みたいに、
みんなが優しい人達だといいと思います。
そうすれば、誰でも安心して外を歩ける町になると思います。



とても心に訴える大人のドライバーも考えさせられる作文。
子供たちの目はこういうふうに見ているのだということを
ハンドルを握るみなさんに心にとめておいてほしいと思います。

ところで一方、一方で、交通事故に遭ってしまう歩行者、
自転車を運転している人の側にも多くの割合で法令違反があります。
今年上半期では、交通事故で亡くなった歩行者、
自転車運転者の3分の2に、信号無視などの法令違反がありました。
歩行者も自転車運転者も、まずは交通ルールを守ることを徹底してください。
また、日が落ちるのが早くなるこれからの季節は特に、
夕暮れ時と夜間の歩行に注意するようにしましょう。

最後に熊谷さんからのメッセージです。

この交通安全運動を契機として、交通ルールの遵守と
思いやり・ゆずり合いの気持ちを持った交通マナーの実践をお願いします。
また、子供を交通事故から守るため、
地域ぐるみで子供を見守る活動に御協力ください。

自動車と歩行者の衝突による死亡事故では自動車は速度超過していることが多く、
特に夕暮れ時は約3割、夜間は約5割に速度超過が認められます。
ドライバーの皆様は、交通法規を遵守して、安全な速度で走行してください。

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