少し過ぎてしまいました。
11月 第3日曜日は「世界道路交通犠牲者の日」。
今年は11月20日でした。

交通事故のニュースは音声で、文字で、映像で伝えられます。
でも、そこからは「悲惨さ」が抜け落ちています。
「交通事故」という言葉の裏に、どれだけの酷さ・悲しさ・辛さがあるのか。
誰もがわかっているようで、わかっていないのかもしれません。

今週と来週は9年前、交通事故で10歳の長女えみるさんを亡くした
俳優・タレントの風見しんごさんに体験談。
風見さんは事故以来、交通安全啓蒙活動も行っています。

その交通事故が起きたのは、いつもと変わらない平日の朝。
えみるさんはいつものように元気に「行ってきまーす!」と家を出ました。
自宅から100mほど進み、右に曲がって姿が見えなくなるのですが、
えみるさんは、その日もいつものように100m進んだところで振り返り、
家族に手を振って姿を消しました。
それが風見さんの家族が生きているえみるさんを見た最後になってしまったのです。

右折してから50mほどのところにある横断歩道を青信号で渡っている時、
えみるさんは右折してきたトラックに巻き込まれて命を落としました。

風見さんは自宅に駆け込んできた近所の人から事故を知らされます。
その人は何を聞いても「えみるちゃん、事故」と繰り返すだけだったといいます。
風見さんはどこか擦りむいて血を出しているか、
ひどければ骨折でもして泣いているかもしれないなと思ったといいます。

しかし、サンダルを引っ掛けて現場に行くと、
泣いているはずのえみるさんの姿はありません。
横断歩道に不自然に停められた1台のトラック。
何故、そうしようと思ったか分からないそうですが、
風見さんがトラックの下を覗き込もうとすると
近所の人に「見ないほうがいい!」と声を上げました。
それでも、風見さんがトラックの下を見ると、後輪の間にえみるさんはいました。

風見さんはトラックを持ち上げてえみるさんを助けようとしました。
でも、どんなに力を入れてもトラックはびくとも動きません。
その瞬間、風見さんは現実のあまりの酷さと自分の非力さに道路にへたりこんでしまいました。
そこから目に入ったのは、エンジンがかかったままのトラックの下から
えみるさんを救い出そうとしている奥さんの姿でした。

それまでの風見さんは、死亡交通事故のニュースにふれれば、
「悲惨だな」「辛いだろうな」と思っていました。
ただ、えみるさんの死まで、まさか自分や自分の家族の身に、
そんなことがふりかかるとは想像もしていなかったといいます。

交通事故は突然、起こる。
気を許せば誰かが加害者になり、誰かが被害者になる。
そのことを肝に命じて、毎日の生活を送らなければいけません。


  
   ー 前編から続く ー 

今回は「フリッカーテスト」という
心理学・生理学的な数値を利用する交通事故防止策を追跡する後編。

フリッカー値による疲労計測を、
雇用するドライバーの交通安全に活かせないかと考えたのが、
東京 武蔵野市 東京ユニオン物流株式会社 安全環境衛生室に勤め、
交通心理士でもある 岡本秀郎(おかもと・しゅうろう)さん。

現在、運送業を営む会社はドライバーの健康や疲労を
点呼時に確認することが義務づけられています。
しかし、それはどうしても自己申告に頼ることになってしまい、
自分の疲労をきちんと把握しているか?
疲労があると思っていても正直に管理者に報告をするか?
という2つの問題がありました。

その壁を取り払わないと本当の事故防止には繋がらないと。
疲労を客観的に測る簡易的なシステムが無いか探していたところ、
岡本さんはフリッカーヘルスマネジメント株式会社 
代表取締役 原田暢善さんが開発したアプリにいきあたったのです。

そこでメールを送ったことから2人は直接会い、
原田さんは、その時点の技術を、岡本さんと意見交換をして改良。
Flicker Health Management System(FHMシステム)を確立させました。

東京ユニオン物流では、
このFHMシステムを交通事故防止に利用し、
長い営業所では3年になるといいます。

使用は朝と夕方の点呼時。
疲労を数値化して計測値も出ますが、
その人の過去の計測値から算出した標準値に対して、
どれだけ落ちたか? を評価して「疲れています」「元気です」
「管理者に相談しましょう」という判定までしてくれます。
それを基に点呼する人が実際に面談をして判断するというように
東京ユニオン物流では補助的な情報として使っているそうです。

やはり、こうしたシステムは得られた情報を、
どう取捨選択してどう生かすのかが重要なポイント。

東京ユニオン物流では去年1年間のデータを解析。
朝のフリッカー値と1日走った走行の正確さというのに相関があるとか、
急フレーキの回数と相関があるとかが出るので
そこから事故防止に繋げられると考えていると
岡本さんはおっしゃっていました。

国交省は今、疲労に対する事故の対策に、
補助金を供出したりして高度な管理を目指しています。
フリッカーヘルスマネージメントも国交省の補助対象。
しかし、こうしたツールを使っている運送会社は、まだ一握りだろうとのこと。

プロドライバーの危険運転をなくす手段として
より正しく心身の状態を判断できるツールがを
運輸業界各社が活用するようになることが待たれます。


今回と次回は「フリッカーテスト」という
心理学・生理学的な数値を利用する交通事故防止策を追跡します。

「フリッカー」とは液晶画面や蛍光灯で生じる光の点滅、

▷ あなたは光を見ているとしましょう

▷ その光は点滅しているのですが、点滅が高速のため、点滅に気づきません

▷ でも、点滅の速度を少しずつ遅くなると、どこかで光の点滅に気づきます
 
「点滅していることがわからなかった」光が、
「点滅して見える」ようになった境目の値
「閾値(しきいち)」がフリッカー値。
被験者の「フリッカー値」を出す測定方法が「フリッカーテスト」。

このフリッカーテストは、およそ70年前に見出されたもの。
フリッカー値は同じ光の点滅でも見る人によって違います。
同じ人でも心理的な状態や身体的な状態によって変わります。
疲れた状態になるほど光の点滅に気づくタイミングが遅くなるのです。

そこで、このフリッカーテスト、
これまでも眼科での視力機能の測定や、
労働分野での疲労測定に使われてきましたが、
かつての装置は大きく費用なものでした。

しかし、ITの技術革新でコンパクトなものがつくれるようになります。
かつては箱型の大きな計測器が、今やPCやスマートフォン上で、
アプリケーションを起動させればできるようになったのです。

ドライバーの事故防止に努める運送業。
その中のある物流会社に「フリッカー値」を活用できないか? と考えた
交通心理士の資格を持つ安全環境の担当者がいました。
彼は原田さんに相談を持ちかけたのです。

ー 後編へ続く ー

«Prev || 1 | 2 | 3 |...| 141 | 142 | 143 |...| 169 | 170 | 171 || Next»