VOL.312「茶箱いす」
茶葉を新鮮に保存し、運搬するための入れ物として、
江戸時代から使われてきた木の箱、「茶箱」。
お茶の名産地・静岡には、
昔から、職人さんによる、県産の杉材を使った“茶箱づくり”の文化があり、
全盛期には、県内に30軒ほどの「茶箱工房」があったといいます。
湿気を防ぎ、虫も寄せにくく、匂い移りがしないため、
茶葉だけでなく、
どんなものを入れても使い勝手の良いのが茶箱の特徴です。
そんな茶箱の文化を、絶やさずに未来へと伝えていきたい、と、
静岡県・川根本町にある、茶箱専門店「前田工房」では、
茶箱を原型に、収納できる椅子、「茶箱いす」を製作しています。
もともとは、一日中、立ち仕事で茶箱を作り続ける工房のスタッフが
休憩できるようにつくったという「茶箱いす」。
本来、座るためのものとして作られていない茶箱を
椅子として利用することができるように、
正方形にすることで、体重に耐えられる構造に作り替えました。
「茶箱がいくらいいものでも、伝統があったとしても、
使われなかったら意味がないんですよね。
みなさんに使っていただくためにはどうしたらいいかなと、
日々、考えています。」
そう語るのは、「前田工房」、代表の薗田喜恵子(そのだ・きえこ)さん。
スタッフの労をねぎらい、ゆったり座って休憩ができるように、
蓋にウレタンを付けて布を張って、
座面を柔らかくする工夫が施された「茶箱いす」。
若い30代の男性や女性の職人が、
黙々と茶箱を作っている姿は、涙が出るぐらい嬉しいと、薗田さんは話します。
「茶箱が日本からなくなるということは、
世界からなくなる、宇宙からなくなる、ということですからね。
あまりにももったいないので、とにかく100年先まで残したいという気持ち。
そこだけはブレないんですね。そこだけ、ですね。」
一人に一個用意された「茶箱いす」で体をいたわりながら、
職人さんたちが腕を振るう「茶箱」づくり。
この光景こそが、100年先まで残したい“タカラモノ”ですね。