Yuming Chord
松任谷由実
2014.09.26.O.A
曲がり角をひとつ間違えて、道を見失った。薄く長く伸びる影、灯りはじめる街のあかり。標識はどれも錆びていて、はっきり読み取れない。夕闇の中、立ち尽くす私の名前を呼ぶ声がする。ふりむくと、あの日の母がそこに居た。
アネモネ柄のエプロンのまま、つっかけをはいて、泣きそうな顔で。そんなこと、あるはずがない。
私は母の年齢を、とうに追い越したはずなのに。
■今週のChordは“ノスタルジー”
Where You Stand
Travis
ノスタルジーを感じるバンドのひとつではないでしょうか?昨年リリースされたアルバムからのタイトルナンバー「Where You Stand」。
秋が深まってくると、ふと、不思議な感情におそわれる瞬間がありませんか?しとしとと雨が降る日や、たそがれ時・・・、鼻の奥がツン、胸の奥がきゅん、とする感じ。今日のコードは「ノスタルジー」です。
ノスタルジー、という言葉から連想されるもの...人それぞれだし、主観的なものではあるけれど、そこに共通するのは「喪失感」ということでしょうか。「そこにあるはずのものがないという寂しさ」とか、「確かに自分が体験したことのある、近過去の出来事」とか...。
失くしてしまったものは何なのか。間違いなく、キラキラした幸せな時間、じゃないでしょうか?つまり、ノスタルジーを感じられる、ということは幸せな記憶がある、という証拠!
たとえば、映画でいえば『草原の輝き』。1961年のアメリカ映画です。当時すでにスターだったナタリー・ウッドと、無名俳優だったウォーレン・ベイティが共演しました。舞台は1920年代のアメリカ・カンサス州。
保守的な母親に厳しくしつけられたディーンと、父親から過大な期待を受けて苦しむバッド。高校三年生の二人は愛し合うのですが、やがて悲劇を迎える...という青春悲恋モノです。
劇中にも出てくるのがイギリスのロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースの詩。
「草原が輝いていたとき、花が美しく咲いていたとき、あの頃にはもう戻れないけれど、嘆き悲しむことはない。見出そう、あのときの力はまだ私たちの中に残されている」
まさに、ノスタルジックな詩です。ちなみに、この『草原の輝き』は、村上春樹さんが"観るたびに胸打たれる映画"と評していて、涙腺がゆるんでしまうのだとか。
特にナタリー・ウッドの演技について、「青春というものの発する理不尽な力に打ちのめされていく、傷つきやすい少女の心の動きを見事に表現している」と、絶賛しています。
Now You're Not Here
Swing Out Sister
黄昏のビギン
ちあきなおみ
昭和、という時代も今やノスタルジーの代表選手。あの頃、お母さんが着ていた洋服の柄、ちょっと胸が“きゅん”としますよね。
今の時代に、そのノスタルジーを表現しているデザイナーといえば、ナネット・レポーをまっさきに思い出しました。アメリカのデザイナーなんですけど、オバマ大統領夫人をはじめ、テイラー・スゥイフトやニッキー・ミナージュ、スカーレット・ヨハンソンなどが愛用中です。
ノスタルジックな小説、というのもありますよね。私はトルーマン・カポーティの『遠い部屋、遠い声』をあげたいと思います。カポーティは"早熟の天才"とか"恐るべき子ども"と注目を浴びた作家で、21歳のとき『ミリアム』でO・ヘンリ賞を受賞しています。でも、晩年はアルコールと薬物中毒に苦しみつつ、ハリウッドの友人宅で急死してしまいました。
そんな彼の処女長編が『遠い部屋、遠い声』。幼い頃に離れ離れになった父親を探して、アメリカ南部の小さな町を訪れた主人公・ジョエル。そこで出会う大人の世界に傷つきおびえながらも、冷静な目で観察し、成長していく姿を描いています。
こうやって思い出してみると、やっぱりそこには、幸せな記憶がある。ノスタルジックな気持ちになるモノやコトを探してみると、今の自分が幸せになるためのヒントがあるかもしれないですね。
未来の答えは、過去にある、かも?
ひとつの恋が終わるとき
松任谷 由実
ノスタルジーを感じると、ちょっと悲しくて鼻の奥がツン、となりつつも、心をじんわりあたためてもくれますよね。そんな秋のノスタルジー探しを楽しんでみてください。
もしかするとこの舞台もノスタルジックな気持ちになれるかも...。
いよいよ目前に迫ってきました!私が座長をつとめる舞台「Yuming sings...『あなたがいたから私がいた』」。10月8日から31日まで、帝国劇場にて開幕します。
前回の舞台の時もそうだったんですけど、本当に、お稽古のときでさえ、私、何度も舞台で泣きそうになっちゃうんですよね。
ハンカチ持参で、ぜひ、いらしてください!
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