yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第475話 不可能は先入観にすぎない
-【日本武道館にまつわるレジェンド篇】ボクサー モハメド・アリ-

[2024.10.05]

Podcast 

©Tokyu Corporation/amanaimages


1976年6月26日、日本武道館は、およそ1万人の観客の熱気に包まれていました。
伝説の「格闘技世界一決定戦」。
映像は世界に配信され、10億人を超える人たちが、試合開始のゴングを待っています。
アントニオ猪木の対戦相手は、世界ヘビー級チャンピオンでした。
伝説のボクサー、モハメド・アリ。
当時、アリは34歳。2年前にタイトルを奪還したばかりです。
1974年10月30日、ザイール王国の首都キンシャサで行われた、WBC世界ヘビー級タイトルマッチ。
王者ジョージ・フォアマンは上り調子の25歳。
かなりのハードパンチャー。
ロンドンのブックメーカーでは、11対5でフォアマン勝利、でした。
誰もがマットに倒れこむアリを予感し、引退する彼を想像していたのです。
新聞はこぞって、アリが勝つのは不可能だと書きました。
しかし結果は、第8ラウンド2分58秒で、アリがまさかのKO勝ち。王座を奪い返したのです。
世に言う『キンシャサの奇跡』。
試合後のインタビューでアリは、カメラに向かって豪語します。
「オレを疑った批評家たち! 見たか! オレこそが、世界一、史上最高なんだ! わかったか!」
アリは、なぜか、「絶対無理」「不可能」という言葉に、敏感に反応しました。
彼はこう言います。
「不可能は、可能性なんだ。いいか、不可能っていうのは、自分の力で世界を切り開くことを放棄した、臆病者の言葉だ!」
キンシャサの後、いくつかの防衛戦を制し、降り立った日本の地、日本武道館。
アントニオ猪木との試合は、アリ側が決めたルールにより、プロレスの技をほとんど使えない猪木が、終始、マットに寝ころんでキックを繰り出す状態が続きました。
試合は最終ラウンドまでビッグファイトもなく、結果、ドロー。
消化不良を起こした会場のファン、そして全世界の視聴者から非難の言葉があびせられます。
しかしアリの踊るようなステップは、日本人の目に焼き付きました。
ベトナム戦争への徴兵拒否や、数々の暴言でバッシングの嵐の中にあっても、彼は生涯「闘う姿勢」を崩しませんでした。
アリの激しい闘争心は、どこから来るのでしょうか。
バラク・オバマが敬愛し、エミネムが影響を受けた世界チャンピオン、モハメド・アリが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

伝説のボクサー、モハメド・アリは、1942年1月17日、アメリカ合衆国ケンタッキー州ルイビルで生まれた。
出生名は、カシアス・マーセラス・クレイ・ジュニア。
父は、看板画き。宗教的な壁画や風景画も描いた。
母は、上流階級の白人宅で、掃除や食事の世話をした。
貧しくはない。黒人の中では中流階級だった。
のちに対戦する黒人のボクサー、リストン、パターソン、ジョージ・フォアマンたちが、みな一様にひどく貧しい少年時代を送ったのに比べれば、恵まれていた。
ただ、中流階級の黒人に生まれたことが返って、人種差別への怒りを強くする。
生活レベルが白人の子どもとほとんど大差ないにもかかわらず、受ける差別は、ひどい。
遊べる公園は限られ、劇場は入れても桟敷席。
バスは後方に立ったまま。レストランで水を飲むことを禁じられる。
不平等に打ちひしがれて家に戻ると、母はいつもアリを諭した。
敬虔なクリスチャンだった母は、言う。
「ひとを愛しなさい、まわりのひとに親切にしなさい。偏見や憎しみは、誰も幸せにしない」
幼いアリは、母に尋ねる。
「ねえママ、教会に来るひとはみんな黒人なのに、キリストはなぜ白人なの?」
アリが12歳のとき、彼の人生を決める、事件が起きる。
日々の積もり積もった怒りが爆発する、ある事件…。

モハメド・アリは、12歳の時、自転車を盗まれた。
両親からクリスマスプレゼントに買ってもらったピカピカの自転車。
当時のアリは、さえなかった。
失読症のせいもあり、勉強には身が入らない。
何かスポーツをやっているわけでもない。
家では父が酒を飲み暴れた。
「結局、肌の色には勝てねえんだよ」
自転車で風を切って走るときだけ、自分が誇らしく思えた。
その大切な自転車が…。
公会堂の家電製品の展示即売会。
無料でもらえるポップコーンを目当てに友だちと駆けつけた。
帰りに、自分の自転車がないことに気づく。盗まれた!
公会堂の地下に警官がいると誰かに聞き、慌てて階段を降りる。
ちょうど階段を上がってくる警官がいた。
涙ながらに訴える。
「許せない! ボクの大切な自転車を盗んだやつが絶対、許せない! ぶちのめしてやる!」
その警官は、何も言わず、アリ少年を地下にいざなう。
そこには粗末なリングがあった。
警官が言う。
「いいか、坊主、ぶちのめす前に、闘い方を知っておいたほうがいい。
オレはここでボクシングを教えているんだ。
よかったら明日から、ここへ来い」

モハメド・アリは、ボクシングに夢中になった。
黒人の友だちたちは、路上にたむろし、タバコや酒におぼれている。
これではダメだと思った。これでは父が言うように、勝てない。
自分は文字を読むことができない、大学に行けないならバスケットボールやベースボールは無理だ。
でも、ボクシングなら、すぐにリングに立てる。
ただ、強くないと意味がない。
小さい頃から不可能と言われたことを、全部取り返す。
そのためには、ハードトレーニングしかない。
体は大きかったが、決して最初から才能を発揮したわけではない。
すばやい動きと、しなやかな身のこなし。
何より、勝利に対する執念がすごかった。
18歳のとき、ローマオリンピックで金メダルを獲得。
しかし、帰国して金メダルを下げ、白人が経営するレストランに入ろうとしたが、入店を拒否される。
黒人だという理由で。
彼はすぐにプロに転向。
その頃から、ビッグマウス、トラッシュ・トークで話題になる。
「オレは最強だ」そう豪語して、自分を追い込む。
追い込むことで、不可能だと思っている自分を律した。
モハメド・アリは知っていた。
最も恐れるべき相手は、弱気な自分。最初から諦めている自分。

「不可能というのは、自分の力で世界を切り開くことを放棄した、臆病者の言葉だ」
モハメド・アリ

©BD Images/Alamy/amanaimages

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◆SOUL POWER / James Brown
◆ジョーの子守唄 / 小池朝雄
◆THE GREATEST LOVE OF ALL / George Benson

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