yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

ストーリー

第470話 後悔しない
-【フランスにまつわるレジェンド篇】シャンソン歌手 エディット・ピアフ-

[2024.08.31]

Podcast 

©Perry van Munster/Alamy/amanaimages


フランス国内のみならず、全世界で今も愛される伝説の歌姫がいます。
エディット・ピアフ。
まだ記憶にも新しい、2024パリオリンピックの開会式。
フィナーレを飾ったセリーヌ・ディオンが魂を込めて熱唱した歌、それはピアフの代名詞、『愛の讃歌』でした。
難病スティッフ・パーソン症候群と闘い、満身創痍で歌ったセリーヌは、度重なる事故や病でボロボロな体でも歌い続けたピアフの姿と重なります。
身長は140センチちょっと。体重は40キロに届くか届かないか。
ステージネーム、ピアフは「小さなスズメ」という意味。
そんな小柄で華奢な彼女の47年の生涯は、壮絶なものでした。
母親から育児放棄を受け、祖母が働く売春宿で暮らした少女時代。
目の病で失明の危機を経験。
大道芸人の父親と二人、路上に立って歌う貧困生活をおくる。
若くして妊娠、出産。しかし、その子を亡くす。
アルコール依存。殺人事件の容疑者として逮捕。
出会う男性が、事故や病で亡くなっていく。
4度にわたる交通事故。大金をだまし取られ、借金生活。
彼女は自伝に、自らの生涯を、こう表現しました。
「私は、おそろしい人生をおくってきました」
しかし、ピアフはまた、こうも記しています。
「私は、なにひとつ、後悔していない。
もう一度人生を と神様に言われたら、私はこの人生を選ぶ」
2007年に公開された彼女の伝記映画『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』のラストシーン。
ピアフに扮するマリオン・コティヤールが、まるで老婆のようにステージに現れます。
やがて歌い始めれば、その力強さに、聴衆は魅了されるのです。
歌ったのは、『水に流して』。
私は後悔しない、代償を払い、全ての過去は清算したと、歌い上げました。
「自分に起きたことは、いいことも悪いことも全部、私には同じこと」
今もなお、圧倒的な存在感を失わないシャンソンのレジェンド、エディット・ピアフが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

©Gilles Targat/Photo12/amanaimages

エディット・ピアフは、1915年12月19日、パリに生まれた。
第一次世界大戦が勃発し、市民の暮らしを追い詰めていた。
ベルヴィルという貧民街。17歳の母は、アパルトマンの廊下でピアフを出産したと言われている。
母は、遊園地でお菓子を売りながら、歌を歌って日銭を稼いでいた。
ほどなく父が戦争に駆り出されると、母は、育児放棄。
祖母の家に預けた。
祖母は、売春宿で働いていた。
およそ、幼い子どもが育つ環境にはそぐわない。
ただ、ピアフは、娼婦たちに可愛がられた。
最も多感で、人格形成に重要な幼児期、彼女が見たのは、欲にまみれた人間の本能の世界だった。
数年後、戦争から戻った父親にひきとられる。
だが、その生活もひどいものだった。
出征前、サーカス団で軽業師や、馬を使った曲芸をしていた父親は、大道芸人を始めた。
その日暮らし。貧乏だった。
幼いピアフは、街角で歌を歌う。
母親ゆずりの倍音。
雑踏や車の音に負けないように、大声で歌った。
やがて、ポツリポツリと、彼女の前に足を止め、路上に置いた薄汚れた帽子に銀貨を投げる通行人が増えていった。

幼いエディット・ピアフは、生活のために歌った。
父はピアフが稼いだお金を全部取り上げる。
毎晩、家に連れ込む女性が違った。
父を憎み、自分を捨てた母を憎んだ。
ただ、街角で歌うのは好きだった。
16歳になった頃、いつも自分の歌を聴いてくれる男性に気づく。
運送会社の配達をしていた、プティ・ルイという男性。
背がすらっと高く、笑顔がよかった。
「ボクと暮らさないか?」と言われ、二つ返事で家を出た。
狭くて汚い部屋だったけれど、幸せだった。
日曜日に「アルカザール座」で映画を見るのが、二人の唯一の贅沢だった。
すぐに子どもを身ごもる。マルセルという女の子を出産。
幸せの頂点かと思われたが、やがてピアフは別の男性と恋に落ちてしまう。
プティ・ルイには、物足りないものを感じていた。
そんな矢先、娘が2歳で他界してしまう。脳膜炎だった。
唯一プティ・ルイとの間をつなぎとめていたものが、消えた。
プティ・ルイと別れ、恋に落ちた男性のもとに行こうとしたが、彼は単身アフリカに渡り、現地で亡くなってしまう。
エディット・ピアフは、完全にひとりぼっちになった。
ただ、街角で歌うことだけは、やめなかった。
歌だけが、彼女を見捨てなかった。

街角で歌うことが、エディット・ピアフの原点だった。
Rの発音を巻き舌のように激しく震わせることで、感情を爆発させ、聴いているひとの心をつかむ。
きらびやかな服を着ても、夜の街では目立たない。
声だけで大衆を振り向かせる技を磨いた。
後年、有名になったピアフのお気に入りの衣装は、黒のワンピースだった。
小柄で、決して美人ではない彼女が、なぜここまで多くのひとの心を揺さぶってきたか。
彼女は、いつも自分をさらけだし、吠えるように歌った。
「私を見て! 私の人生を聴いて! 私の前で立ち止まって!」
語りかける相手は、ただの通行人であり、自分を捨てた母であり、自分を利用した父。
エディット・ピアフは、幼くして決めた。
「私は、どんなことがあっても、後悔しない」
不幸が押し寄せ、愛するひとを失い続けても、両手を伸ばし、幸せを、愛するひとを求めた。

「私が歌ったのは、他に生きる術がなかったからです。
ただ、歌っていると、幸せな気持ちになれました。
だからこう決めたのです。
私は歌うために生まれてきた。
だから、歌う以外のことは全部、どうだっていいのです」
エディット・ピアフ

©GAUTIER Stephane/Alamy/amanaimages

【ON AIR LIST】
◆水に流して(私は後悔しない) / エディット・ピアフ
◆なんにも、なんにも / エディット・ピアフ
◆バラ色の人生 / エディット・ピアフ
◆愛の讃歌 / エディット・ピアフ

STORY ARCHIVES

AuDee

音声を聴く

放送のアーカイブをAuDeeで配信中!
ぜひ、お聴きください!

MAIL

メール募集中

リスナーの皆様からのメッセージを募集しています。
番組のご感想、ご意見などをお寄せください。

メッセージを送る