yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第466話 規格品の人生を歩まない
-【フランスにまつわるレジェンド篇】ファッション・デザイナー ココ・シャネル-

[2024.08.03]

Podcast 

©robertharding/Alamy/amanaimages


ファッション・デザインによって女性の自由を獲得したレジェンドがいます。
ココ・シャネル。
イギリスの文豪、バーナード・ショーは言いました。
20世紀最大の女性は、キュリー夫人と あともうひとり。
それは、ココ・シャネルであると。
シャネルは、多くの芸術家を支援しました。
パブロ・ピカソ、ジャン・コクトー、ストラヴィンスキー。
彼女が支援するアーティストには共通点がありました。
革新的で、独創性が飛びぬけていること、そして、それゆえに理解されず、ときには心ない批判、誹謗中傷につぶされそうになっていること。
シャネル自身、いつも「人がやらないことをやり」、そのことで叩かれ、虐げられてきました。

父の愛を知らず、母を早くに亡くし、孤児院で育ったシャネル。
歌手になる夢を抱きますが、オーディションに落ちる日々。
しかし、絶望の中でも、彼女はある信条を手放すことはありませんでした。
それは、「特別な存在になるには、ひとと違っていなければならない」。
シャネルは、自分が感じた違和感、疑問を大事に守り、そこからデザインを発想し、新しいファッションを創り出していったのです。
初めて富裕層のパーティーに出席したとき、彼女は思います。
「なぜ、女性は男性を喜ばすためだけに、カラフルな色を身にまとうのでしょう。
女性の美しい肌をいちばん際立たせるのは、黒。
だから、私は、黒一色でドレスを作りたい!」
当時、喪服にしか採用されなかった黒い服を、一般的なものに変えたのは、シャネルだったのです。
封建的な男性社会にあって、彼女の存在は疎まれますが、彼女は、生涯、生き方を変えませんでした。
戦争をくぐりぬけ、87年の人生をファッションに捧げた賢人、ココ・シャネルが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

世界的なファッション・デザイナー、ココ・シャネル、本名・ガブリエル・シャネルは、1883年8月19日、フランスの田舎町、ソミュールで生まれた。
父は衣料品を地方に売り歩く行商人。ほとんど家にはいない。
母は、近くの修道院に駆け込み、シャネルを産み、たったひとりで6人の子どもを育てたが、過労がたたり、33歳の若さでこの世を去る。
葬儀にも、父は顔を出さなかった。
お金を家に入れず、いつも調子のいいことばかり言う父。
それでもシャネルは、父親を嫌いになれない。
12歳で孤児院に入っても、彼女は、父を待ち続けた。
「いつ、迎えにきてくれるの?」
そんな問いかけに、父は、
「すぐに来るよ、ああ、必ず迎えに来る」
修道院に馬車の音が近づくたびに、彼女は正門に走った。
「お父さん! お父さんが迎えに来てくれた!!」
でも、父は二度と来なかった。
修道女は、女の子たちに説いた。
「いいですか、女性は、どんな男性に出会うかで人生が決まります。
男性のいうことをきいて、家事や育児を全て担うのが、女性の最大にして最高の仕事なのです」
シャネルは、その言葉に違和感しか抱かなかった。
「じゃあなぜ、お母さんは、あんなに哀しそうに死んでいったの?」

©Tuul and Bruno Morandi/Alamy/amanaimages

ココ・シャネルにとって、孤児院に入ってよかったことが、ひとつあった。
それは、裁縫。洋服の修繕や針仕事を習ったこと。
楽しかった。時間を忘れた。
まわりの子が寝てしまっても、彼女ひとり、いつまでもボタンをつけ、リボンを創作した。
孤児院の制服は汚れが目立たない黒っぽい色のスカートに白い襟のブラウス。それに蝶結びのタイ。
シャネルは、他の子と同じが嫌だった。
タイを、びっくりするくらい大きな蝶結びにする。
スカートの丈を短くする。
それだけで、驚くほど、おしゃれに見えた。
やがて、他の女の子も、「私のも同じように変えて!」とリクエストしてくるようになった。
修道女たちは、反抗心が強いシャネルに手を焼いていたが、彼女のセンスには言葉がなかった。
それは圧倒的で、オリジナリティがあった。
シャネルは、修道女たちの制服までデザインするようになる。
斬新で素敵な洋服を身にまとうと、女性の顔が輝くことを、彼女は知った。
シャネルは、のちに、こんな言葉を残した。
「奇抜さは、着ている洋服ではなく、女性の心の中にこそ宿る」

©Tuul and Bruno Morandi/Alamy/amanaimages

ココ・シャネルは、孤児院に隣接した修道院を出た。
昼は洋品店で服を縫い、夜はキャバレーで歌を歌い、なんとか暮らした。
「私のココを見たひとは誰なの?」という歌をよく歌ったので、常連客は、彼女のことを『ココ』と呼んだ。
シャネルは、この呼び名が気に入った。
ガブリエルより、おしゃれ、可愛い。そう感じた。
歌手になって、姉や兄弟たちを裕福にしたい。
そう願ったが、歌手としては、素人。オーディションに落ち続ける。

ただ、舞台の衣装は、褒められた。
奇抜な帽子。斬新なデザイン。
全て自分のアイデアだった。
やがて、彼女は気づく。
私が私であるために、私が他のひとと違う人間であることを証明するために、衣装のデザインは、武器になる。
シャネルは、デザインだけでなく、機能性も重視した。
女性だって、ズボンをはいていい。
女性だって、ロングブーツを履いていい。
動きやすく、快適なファッション。
彼女のデザインは、女性の心を解放した。

「私は自分で敷いた道だけを、ひたすら進む。
自分が選んだ道だからこそ、私は、その道と一緒に死んでもかまわない」
ココ・シャネル

【ON AIR LIST】
◆バレエ音楽『春の祭典』より「大地礼讃」1.序奏 / ストラヴィンスキー(作曲)、ワレリー・ゲルギエフ(指揮)、サンクトペテルブルク キーロフ歌劇場管弦楽団
◆MY FATHER / Nina Simone
◆MAKE ME FEEL / Janelle Monáe
◆ヘイロー / Beyonce

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